新王の凱旋と、老害どもの誤算
亜人大陸の青空を悠然と往く【神話級空中要塞・アルカディア】。
その主制御室で、俺――女装美少女「ルシア」ことルクスは、豪華な革椅子に深く腰掛け、ティノが持ち込んできた次なる標的のデータを眺めていた。
「ルシア、見て。元老院のジジイども、私がアルカディアを奪って逃げたと思って、亜人大陸中のドワーフ軍艦を総動員して追いかけてきてるわ。その数、およそ八十隻。……バカよね、この要塞の真の威力を知りもしないで」
メインモニターを見つめるティノの口元には、かつての陰気な表情はなく、俺の魔力に魅了された天才職人の不敵な笑みが浮かんでいた。
画面には、雲海の向こうから要塞を包囲するように接近してくる、ドワーフ族が誇る黒鉄の魔導艦隊が映し出されている。
「まあ、随分と賑やかなお出迎えですこと。ティノちゃん、せっかくですから、あなたの最高傑作の『試運転』をさせてあげたらどうかしら?」
俺がルシアの鈴を転がすような声で促すと、背後に控えていたフランチェスカとエレノアが、すかさず一歩前に出た。
「ルシア様、あのような鉄クズの群れ、要塞の主砲を使うまでもありませんわ。我がローゼンバーグの火力を以て、一瞬で消し炭にして差し上げます」
「いいえ、私の氷結魔法で、艦隊ごと雲海に凍りつかせて落とす方が優雅ですわ」
魔眼の【狂信】によって完全に調教された彼女たちは、俺のパーツとして、どちらがより役に立てるかを競い合って火花を散らしている。
「ふふ、二人ともありがとう。でも、今回はティノちゃんに見せ場を譲ってあげてちょうだい」
俺が優しく窘めると、二人は「はひっ……!」と顔を真っ赤にして大人しく引き下がった。
「よし、私の番ね! アルカディア、主砲『神滅カウンター砲』、一門開放! 照準、接近するドワーフ艦隊の中心――エネルギー充填、ルシアの魔力をパスして!」
ティノがコンソールを叩くと、俺の左目の【神威・支配の魔眼】が怪しく脈動し、要塞の炉心へと計測限界突破の全属性魔力がダイレクトに注ぎ込まれた。
要塞の先端がガシャガシャと変形し、巨大な結晶砲身が姿を現す。そこに集束していくのは、世界の理を圧壊させるほどの、禍々しい紫黒色の光。
遠方のドワーフ艦隊が、その異常な魔力波形に気づいてパニックに陥るのが、モニター越しでも手に取るようにわかった。だが、もう遅い。
「撃てぇぇぇっ!!」
ティノの絶叫と共に、光線が放たれた。
ズガァァァァァンッ!!!!
一瞬、世界から音が消えた。
放たれた一筋の極大光線は、空間そのものをドロドロに融解させながら雲海を切り裂き、接近していたドワーフ艦隊のちょうど「真ん中」を正確に撃ち抜いた。
直撃を受けた十数隻の魔導軍艦は、悲鳴を上げる間もなく光のなかに蒸発。さらに、そこから発生した超重力の余波(カウンター波)が周囲の空間を歪ませ、残りの数十隻の軍艦を紙切れのように巻き込み、互いに衝突させながら次々と奈落の底へ叩き落としていった。
たった一撃。
亜人大陸が誇る無敵の艦隊の半数が、一瞬にしてチェスの盤上から掃討されたのだ。
「ひ、ひぃぃぃ……! バケモノじゃ、あの要塞は本物の神の兵器じゃあ!」
通信回線から、命からがら逃げ惑うドワーフ元老院の老人たちの絶望の悲鳴が聞こえてくる。
「ハハハハ! 見たかジジイども! これが私の、そして私のお婿様の力よ!」
ティノが狂喜乱舞して操縦席で跳ね回る。
【ドワーフ元老院のステータス変化】
戦意:完全に喪失 / 状態:絶対的恐怖
【獲得】 亜人大陸における「絶対的な制空権」を掌握しました。
(ククク、素晴らしい。これで亜人大陸の老害どもも、二度と俺のパーツ(ティノ)に手出しはできない。それどころか、これからはこの要塞の影に怯え、貢ぎ物を捧げる従属国となるだろう)
俺は心の中で邪悪な全能感に浸りながら、静かに紅茶を口に運んだ。
その時、要塞の影に潜んでいたレルエが、スッと俺の傍らに姿を現した。その手には、人間の大陸のアヴァロン学園長から届いた、暗号魔導通信の書状が握られていた。
「ルクス様……人間の大陸で動きがありました。最前線で魔族と交戦中だった勇者アレンが、大罪の一角を撃破した模様。これを受け、人間の教会の老害どもが、凱旋するアレンの威光を借りて、学園の全属性の美少女を『教会の聖女(手駒)』として強制的に徴命する手続きを始めたとのことです」
「……ほう?」
俺はルシアの姿のまま、可憐に小首を傾げた。
だが、その瞳の奥には、ドス黒い冷徹な殺意が揺らめいていた。
教会の老害どもめ。魔王軍から学園を救った俺の価値に目をつけ、今度は勇者アレンの嫁として、あるいは教会の客寄せパンダとして、俺を合法的に監禁し、利用しようというわけか。
「ウフフ……面白い。本当に身の程を知らないゴミ虫たちですね、ルクス様。今すぐあの教皇の脳味噌を、私の呪いでドロドロに溶かして差し上げましょうか?」
セレティナが背後から俺の首に極上の柔らかさで抱きつきながら、ヤンデレ全開の甘い声を囁く。
「いや、必要ない。向こうから舞台を用意してくれるというなら、喜んで乗ってやろうじゃないか」
俺は立ち上がり、窓の外に広がる、遥か彼方の「人間の大陸」を見据えた。
「ティノ、アルカディアの進路を人間の大陸、アヴァロン学園へ向けなさい。――勇者アレンの凱旋式、俺たちの【空中要塞】で、最高に華やかに盛り上げてやろうじゃないの」
「了解よ、ルシア。あの教会のバカどもがどんな顔をするか、今から楽しみね!」
表の英雄アレンの凱旋。
だが、その頭上を覆い尽くすのは、世界を裏からハッキングした女装の皇帝が駆る、神話の城。
人間の大陸を舞台にした、真の支配者を決めるチェックメイトの戦いが、今、静かに始まろうとしていた。




