天空の玉座、起動
素晴らしい……完璧に私の描いたボドグラフ(設計図)の通りだわ……!」
制圧完了した空中要塞【アルカディア】の最深部――『中央統御玉座の間』。
ティノは周囲を取り囲む古代の計器類や、壁一面を走る幾何学的な魔導回路を見上げ、うっとりとため息を漏らしていた。
部屋の中央には、巨大な水晶の球体が浮遊しており、そこから無数の半透明な魔力パスが床へと伸びている。それこそが、要塞のすべての機能を一括管理するメインコンソールだった。
「ルシア、ここにその『極光の起動キー』を差し込んで! あとはあんたのそのバケモノみたいな全属性魔力を、一気に流し込めば……!」
「ええ、わかりましたわ、ティノちゃん」
俺――女装美少女「ルシア」は、手にした鈍く輝く結晶石を、浮遊する水晶球の歪な窪みへと迷わず突き刺した。
ガチリ、と硬質な噛み合わせの音が空間に響く。
「システム起動――支配権のハッキングを開始しますわ」
俺はルシアの可憐な仕草のまま、両手を水晶球へと添え、左目の【神威・支配の魔眼】を限界まで見開いた。
瞬間、俺の体内に眠る、世界の理をも書き換える全属性のドス黒い魔力が、起動キーを経由して要塞の隅々へと一気に逆流、侵食を開始する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!
大裂谷の底全体が、かつてない激しい地鳴りに震え始めた。
未起動だった要塞の魔導回路が、赤から青へ、そして俺の魔力の色である「深淵の紫」へと次々に塗り替えられていく。
【システムログ】
神話級空中要塞・アルカディアの深層ハッキングに成功。
登録魔力波形を『ルクス(ルシア)』へ完全上書きしました。
防衛権限、主砲制御、飛行インフラ、すべて我が支配下にあります。
『――主の認証を完了。大天空城アルカディア、永き眠りより覚醒。これより浮上シークエンスに移行します』
人工的な、だがどこか神聖な機械音声が玉座の間に響き渡る。
「あはははは! 見なさいよ! 出力ゲージがカンストして壊れちゃったわ! 1万年分のエネルギーが、たった数秒で満タンになったのよ!? あんた本当に最高のお婿さん(炉心)ね!」
ティノが狂ったように笑いながら、俺の腕にしがみついてくる。
「ふふ、お嫁さん(技術長官)に満足していただけて光栄ですわ」
俺はティノの頭を優しく撫で回してやった。彼女は「にゃぅ……」と妙な声を上げて顔を赤く染める。
「ルシア様、外の景色が……!」
バルコニーで待機していたアリアが、驚愕の声を上げた。
俺たちが外へ視線を向けると、数キロメートルに及ぶ黒鉄の巨体が、大裂谷を埋め尽くしていた紫の電磁霧を文字通り吹き飛ばしながら、ゆっくりと、だが確実に「上昇」を始めていた。
頭上を塞いでいた大地の裂け目がみるみる近づき、そして――
バァァァァァンッ!!!
眩いばかりの太陽の光が、玉座の間を白く染め上げた。
永久に地下に封印されていた神話の遺物が、ついに亜人大陸の、いや、この世界の「大空」へとその姿を現したのだ。
雲海を見下ろす圧倒的な高度。
そこからの景色は、まさに世界を支配する王にふさわしいものだった。
「……すごいですわ、ルシア様。この場所からなら、人間の教会も、最前線の魔王軍の動きも、すべて一目で監視できますのね」
フランチェスカが扇子で口元を隠しながら、冷徹な独裁者の目で地上の広大な大地を見下ろす。
「ふふ……これで、ルクス様の『裏の帝国』の絶対的な玉座が完成いたしましたね。人間の神など、この城の主砲一撃で消し飛ばせますわ♥」
セレティナが背後から俺の首に妖艶に腕を絡ませ、トランス状態の笑顔を浮かべる。
(ククク……完璧だ。マモンの5万の軍勢に続き、この世界最強の『移動式戦略兵器』まで手に入った。これで俺の平穏(独裁)を脅かす要素は、地上には一つも存在しない)
俺は心の中で、邪悪な笑みを浮かべた。
表の勇者アレンは、今頃地上で魔族の泥臭い奇襲に怯えながら、血反吐を吐いて戦っていることだろう。そんな彼を、俺は雲の上の特等席から、お姉様として優雅に、紅茶を飲みながら見下ろすことができるのだ。
「さて、みなさん。バカンス(強奪)の第一段階は終了ですわ」
俺はルシアの姿のまま、雲海に向かって右手を掲げ、不敵に言い放った。
「これより、この【アルカディア】を我が帝国の本拠地とします。ティノちゃん、さっそくこの城の主砲を、人間の大陸の『あの生意気な大教会の総本山』に向けて固定しておいてくださる?」
「了解よ、マイ・マスター♥ 一瞬で蒸発させられるように、バーストセッティングにしといてあげるわ!」
ティノが邪悪な職人の顔で笑う。
世界がまだ、魔王と勇者の戦いに目を奪われている最中。
雲の上の絶対的な盲点にて、世界を裏から完全にハッキングする「最凶の美少女」の帝国は、誰にも知られず完成を迎えようとしていた――。
(第二部・亜人大陸要塞編 急展開! 第21話へ続く)




