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聖地ゴルガロトと、要塞の防衛システム

「――見えてきましたわ、ルシア様。あれが亜人大陸の聖地、神話の遺物が眠るという『ゴルガロト大裂谷』ですのね」


強奪した空飛ぶ装甲船の船首。フランチェスカが遮光グラス越しに指さした先には、大地が自重に耐えかねて裂けたかのような、底の見えない巨大な大峡谷が広がっていた。

赤茶けた岩肌からは、時折、古代の魔導回路と思しき淡い青光が不気味に明滅している。


「ふん、やっと着いたわね。あの大裂谷の最深部、永久に晴れない電磁霧の向こう側に、私の最高傑作――【神話級空中要塞・アルカディア】の本体が封印されてるのよ」


操縦席から戻ってきたティノが、工具を片手にフンスと鼻を鳴らした。

彼女の視線の先、峡谷の底はドロドロとした紫色の霧に覆われており、並の船であれば侵入した瞬間に計器が狂い、墜落は免れないだろう。


だが、今のこの船は違う。


「ティノちゃん、私の魔力障壁バリアを船体全体に展開いたしましたわ。あの程度の霧、ただの風とも思いませんことよ」

俺――女装美少女「ルシア」が可憐に微笑むと、船を包む半透明の全属性結界がさらに輝きを増した。


「本当にデタラメな出力ね……。私の計算式ロジックが次々と書き換えられていくわ。でも、これならいける!」


装甲船は、一切の減速をすることなく、紫の電磁霧を切り裂いて大裂谷の闇へと急降下を始めた。


霧を抜けた先。

そこに広がっていたのは、地上の常識を覆す異空間だった。

大地の底だというのに、無数の巨大な光り輝く結晶体が天井から吊り下がり、人工の太陽のように空間を照らしている。

そしてその中央――空間に浮かぶようにして鎮座していたのは、全長数キロメートルに及ぶ、黒鉄の超巨大な浮遊要塞だった。


「……あれが、アルカディア……」

大剣を背負ったアリアが、その圧倒的な質量に思わず息を呑む。


「美しいですわ……。まるで、神の造りたまいし天上の城のよう……」

セレティナが陶酔したように両手を組むが、俺の【鑑定】の目は、その城が秘める「最凶の牙」を瞬時に見抜いていた。


【鑑定結果】

【名称】 神話級空中要塞・アルカディア(未起動)

【防衛システム】 『古代の自動人形(古代ゴーレム)』×10,000 / 『神滅カウンター砲』×4

【状態】 侵入者を検知。防衛システムが稼働中。


『警告。未登録の魔力波形を検知。これより排斥行動に移行する』


要塞の外壁各所から、ガシャガシャと不気味な駆動音を立てて、機械の翼を持った数千体の古代ゴーレムが飛び出してきた。さらに、要塞の主砲と思しき大砲が、ギラギラとした赤い魔力をチャージし始め、こちらの船へと照準を合わせる。


「げっ!? 元老院のジジイども、起動キーがないのをいいことに、防衛システムを『無差別殺戮モード』に固定してやがったな! このままじゃ近づく前に消し炭にされるわよ!」

ティノが顔を青くする。


「ふふ、慌てることはありませんわ、ティノちゃん」


俺は一歩前へ出ると、日傘をフランチェスカに預け、風にワンピースの裾を翻した。


(ちょうどいい。マモンから接収した『魔王軍のコレクション』、ここで初陣とさせてもらおうか)


俺は左目の【神威・支配の魔眼】を発動し、空間のストレージを大きく抉るように展開した。


「顕現なさい――私の、可愛い奴隷たち」


ルシアの凛とした声が響いた瞬間、俺の背後の空間が真っ黒に染まり、そこから禍々しい咆哮と共に、マモンが率いていた魔王軍の魔導戦艦3隻と、数千の飛行魔族の軍勢がドロドロと湧き出してきた。


「ギャァァァアアン!」

「ルシア様のために! 敵を、あの鉄クズどもを噛み砕け!」


魔族たちの狂気に満ちた突撃。

古代の自動人形と、魔王軍の精鋭による、大地の底での全面戦争が勃発した。


「な、何よこれぇぇぇっ!? なんであんたの影から魔王軍が出てくるのよ!?」

ティノが頭を抱えて絶叫する。


「あら、女の子には色々とお秘密コレクションがあるものですわ」

俺はクスリと笑い、さらに脳内で指示を飛ばす。


『エレノア、アリア、セレティナ。お前たちも出ろ。主砲のチャージを凍結させ、叩き斬り、呪い尽くせ』


『『『御意のままに、我が主(ルクス様)』』』


「我が氷結の前に、等しく凍りつきなさい!」

エレノアが放った絶対零度の吹雪が、要塞の主砲を砲口ごとカチコチに凍りつかせる。


「ハァァァァッ!」

アリアが甲板から飛び出し、迫り来る大型ゴーレムを大剣の一撃で真っ二つに一刀両断した。


「神よ、この哀れな人形たちに、永劫の眠り(呪詛)を与えたまえ――」

セレティナのドス黒い賛美歌が響き渡り、古代ゴーレムたちの制御回路が次々とショートして、ボトボトと奈落の底へ落ちていく。


圧倒的。

世界を滅ぼしかけた魔王軍の力と、俺に調教された最強のヒロインたちの前では、神話の防衛システムすらただのハッキングの障害物(前座)に過ぎなかった。


「……信じられない。私のアルカディアの防衛軍が、文字通り子供扱いされてる……。あんた、本当に何者なの……?」

ティノが、恐怖を通り越して、熱狂的な崇拝の眼差しを俺に向けてくる。


「さあ、ティノちゃん。邪魔者は片付きましたわ。お前の最高傑作の『心臓』へ、私を案内してくださる?」


俺はルシアの完璧な美少女の微笑みを浮かべ、制圧されゆくアルカディアの主甲板へと、優雅に足を踏み入れた。


(ククク……さあ、いよいよ天空の玉座が俺のものになるぞ。アレン、地上で精々泥をすすりながら、俺の要塞の影に怯えて暮らすがいい)

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