護送船強奪と、技術長官(お嫁さん)のハッキング
「な、何なんだお前はぁぁっ!? 警備兵、何をしておる! 早くその不届き者を捕らえんか!」
泡を吹いて倒れる部下たちを見下ろしながら、ドワーフの老役人が悲鳴のような声を上げた。
だが、彼らの前に立ちはだかるアリアが、大剣の峰を地面に叩きつける。その一撃だけで港の石畳がクモの巣状に爆ぜ、猛烈な衝撃波が役人たちを吹き飛ばした。
「ルシア様の前です。その汚い口を閉じなさい、老害」
アリアが冷徹な瞳で睨みつける。
「ひぃっ……!」
もはやドワーフの兵たちに戦意など残っていなかった。
俺――女装美少女「ルシア」は、驚愕のあまり開いた口が塞がらない様子のドワーフ少女、ティノ・アイアンハートへと優雅に歩み寄った。
「はじめまして、ティノちゃん。窮屈な枷は、すぐに外して差し上げますわね」
俺がティノの手首に嵌められた【魔力封じの枷】に軽く触れる。
瞬間、俺の全属性魔力を流し込むと、神話級の金属でさえ耐えきれずにパキィン!とガラスのように粉々に砕け散った。
「あ、ありえない……! 国家最高機密の拘束具が、触れただけで……っ。あんた、本当にあの時の『男』なの……? 見た目はどう見ても、頭のおかしいレベルで綺麗な女の子なんだけど……!」
ティノが頬を赤く染めながら、混乱と興奮の入り混じった目で俺を見上げる。
【名前】 ティノ・アイアンハート(12)
【現在の好感度】 65(技術的関心・困惑・微熱)
【状態】 魔力解放。いつでも俺のために要塞を起動できる状態。
「ふふ、細かいことは気になさらずに。それより――お約束の『お土産』ですわ」
俺が空間の影に手を差し入れると、そこからドサリと、古びた羊皮紙の束と、鈍く輝く結晶石が転がり出た。
それを見たティノが、この日一番の悲鳴を上げる。
「ちょっとおおお!? これ、元老院の最深金庫に眠ってた【アルカディアの設計図】と【極光の起動キー】じゃないの!? なんであんたが持ってるのよ!?」
「昨晩、私の可愛い『ネコちゃん』たちが、少しお散歩ついでに借りてきてくれましたの」
影の中から、レルエがコクりと頷き、セレティナが「ウフフ、簡単なお仕事でしたわ、ルクス様……♥」と脳内念話を飛ばしてくる。元老院が誇る鉄壁の防衛結界も、俺の配下となった聖女の神聖呪詛と、魔王軍幹部マモンの財宝ハッキング技術の前には、ただの障子紙同然だったのだ。
「あんた……最高にイカれてるわ。でも、最高に気に入った!!」
ティノの瞳に、天才特有の狂気的な光が灯る。
彼女は起動キーをひったくるように受け取ると、港に停泊していたドワーフの巨大な装甲護送船へと駆け出した。
「おい、そこ退きなさい雑魚ども! この船の制御システム、今から私が書き換えるわ! 人間の大陸のバケモノ――いえ、ルシア! あんたのそのデタラメな魔力を、船のメイン炉心に叩き込みなさい!」
「ええ、喜んで」
俺は護送船の甲板へと飛び乗ると、船の動力源である魔力炉へと手をかざした。
【神威・支配の魔眼】を発動し、俺の中に眠る底なしの全属性魔力を、一気に炉心へと逆流させる。
ドオォォォォォンッ!!!
限界容量を遥かに超えたエネルギーを注入され、護送船が激しく震動する。普通なら大爆発を起こすところだが、ティノの神業的な魔導工学のハッキングにより、全ての魔力が「絶対的な推進力」へと変換されていく。
バキバキバキッ! と音を立てて、装甲船の左右から、古代の機械翼が展開された。
「ひ、飛行モードだと!? 護送船にそんな機能は備わっておらんはずじゃ!」
港で見守るドワーフの老人たちが絶望の声を上げる。
「ハハハ! 私の改造を舐めないことね! 浮上よ、アルカディアの雛鳥!」
ティノの叫びと共に、数十メートルもの巨体を誇るドワーフの軍艦が、重力を無視してギルガザルの青空へと急上昇を始めた。
雲を突き抜け、眼下に亜人大陸の広大な大地を見下ろす高度まで達した甲板の上。
激しい風の中、ティノは髪を振り乱しながら、操縦席で狂ったように笑っていた。
「素晴らしいわ……! 何これ、出力が通常の3000%を超えてるのに、炉心がビクともしない! あんたの魔力、本当に底が知れないわね! これなら……これなら本当に、あの伝説の【空中要塞アルカディア】を起動できる!」
ティノが操縦を自動に切り替え、俺の元へと歩み寄ってくる。
彼女は俺のワンピースの裾をギュッと掴み、上目遣いで、だが不敵に笑った。
「決めたわ。元老院のジジイたちをビビらせて、私の才能を一番理解してくれるなら、あんたが男だろうが女だろうが関係ない! 私をあんたの【技術長官(お嫁さん)】にして、世界中の珍しい金属を全部コレクションさせなさい!」
【ログ】 ティノ・アイアンハートの完全ハッキング(絶対信頼)が完了しました。
【獲得】 【帝国技術長官(お嫁さん候補)】が配下に加わりました。
【称号】 『強奪の覇王』を獲得。
(ククク……よし、これで空中要塞の鍵と、それを扱える最高の頭脳が手に入った。第2部のメインパーツの回収は順調そのものだな)
「あら、よろしくお願いしますね、ティノちゃん。これから私たちは、とても楽しい『世界征服』を始めるのですから」
俺がルシアの姿のまま微笑むと、後ろに控えていたフランチェスカとエレノアが、すかさずティノの前に立ちはだかった。
「……ちょっと、あなた。ルシア様のお嫁さん(技術長官)を名乗るのなら、それなりの序列を覚えてもらわなくては困りますわ?」
フランチェスカが扇子をパチンと鳴らす。
「ルシア様の第一の側近(正妻)は私です。新入りのチビドワーフは、大人しく船の底でネジでも巻いていなさい」
エレノアが冷たい視線を送る。
「はあ!? なによその縦ロールと水浸し女! 私の方がルシアの役に立てるわよ!」
早くも始まる、ルシアお姉様を巡る新たな争奪戦。
(相変わらず愛が重いな、お前ら……。まあ、仲良く喧嘩してろ。お前たちが競い合うほど、俺の裏の帝国は強固になる)
俺は左目の魔眼を怪しく光らせながら、雲の向こう、亜人大陸の聖地に眠るという【神話級空中要塞・アルカディア】の本体がある方向を見つめていた。
待っていろ、世界。
表の勇者が魔王と小競り合いをしている間に、俺は天空を支配する絶対の玉座を手に入れてやる。




