裏の帝国の誕生と、新たなる『お嫁さん(パーツ)』
魔王軍幹部【強欲の盟主】マモンを文字通り丸ごとハッキングし、5万の魔族軍勢を裏で手中に収めたあの日から、アヴァロン学園は完全に俺の「独裁平穏」のなかにあった。
表向きには、突如として現れた「全属性の奇跡の美少女・ルシア」がその神聖なる魔力で魔王軍を退けたとされ、学園、いや人間の大陸全体がその名に沸き立っていた。
「(ククク……完璧だ。表の勇者アレンは最前線で泥臭く魔族と戦って消耗しているが、俺は女子校の温室のなかでお姉様と崇められながら、着実に世界を支配する軍事力を手に入れているぞ)」
夜の女子寮、白百合館の俺の部屋。
『幻影の至衣』を脱ぎ、14歳の本来の男の姿に戻った俺は、豪奢な椅子に深く腰掛け、配下となったヒロインたちを見下ろしていた。
「ルクス様、マモンから接収した魔導戦艦の改修、および5万の魔族兵の再編成が完了いたしました。彼らは現在、人間の大陸の監視が届かない『境界の影』にて、いつでも我が君の命で動けるよう待機しております」
影から現れたレルエが、膝を突いて冷徹に報告する。
「素晴らしいわ、ルクス様。これで人間の教会の裏をかく軍事力が手に入りましたね。……もしお望みなら、今すぐにでもあの忌々しい大司教の首をハネて、この大陸の信仰をすべてルクス様のものに塗り替えて差し上げますのに……♥」
聖女セレティナが、うっとりとした狂信の瞳で俺の膝にすり寄ってくる。
「焦るな、セレティナ。表の舞台はまだ勇者アレンに踊らせておく。俺たちが動くのは、世界のパーツがすべて揃った時だ」
俺はセレティナの顎をクイと持ち上げ、不敵に笑う。それだけで、彼女は「はぅ……」と顔を紅潮させ、至福の吐息を漏らした。
(さて……軍事力と、資金力、政治力、信仰は揃った。だが、世界を裏から一極支配するための『決定的な技術』がまだ足りない)
その時、俺の脳内に再び、あの生意気で幼い電波がノイズ混じりで割り込んできた。
『――ちょっと! 聞こえてるの、人間の大陸のバケモノ男!?』
亜人大陸の天才ドワーフ、ティノ・アイアンハートだ。
『ティノか。また俺の魔力に引き寄せられて電波を繋いできたか』
俺は脳内で低い男の声を返す。
『ふん、あんたがこの前、マモンって魔族のバカを無力化した時の魔力変動、私の魔導レーダーでバッチリ観測させてもらったわよ!……あんなデタラメな魔力があれば、私が設計したまま放置されてる【神話級空中要塞・アルカディア】を完全に起動できるわ。……ねえ、やっぱりあんた、私のところに来て私のお婿さん(動力源)になりなさいよ!』
(空中要塞だと……? 亜人大陸に眠る古代の遺物か。それを起動できる技術がティノにあり、動力源が俺の魔力……。最高じゃないか。世界を裏から監視し、一瞬で超火力を叩き込める絶対的な『玉座』が手に入る)
『面白い。ティノ、お前がその空中要塞の制御権を握っているなら、お前はもう俺の【帝国技術長官(お嫁さん)】に内定だ。近いうちに、お前ごと私兵として回収しに行ってやる』
『な、何が技術長官よ! 私はあんたを奴隷にするって……って、ちょっと待って! 誰か来る……ッ!? げっ、お爺ちゃんたち(ドワーフ元老院)に通信がバレ――』
プチッ。
そこで通信は強制的に切断された。どうやら向こうの大陸でも、彼女の突出した才能は目をつけられているらしい。
(ドワーフの元老院どもが、俺の可愛いパーツ(ティノ)に無駄なちょっかいを出しているようだな。……よし、第1部アヴァロン学園編の『仕上げ』といこうか)
俺は再び『幻影の至衣』を纏い、完璧なる美少女「ルシア」の姿へと変わる。
「ルシア様、どうかされましたか?」
フランチェスカが不思議そうに小首を傾げる。
「みなさん、準備をなさい。近々、学園の長期休暇を利用して、私たちは『亜人大陸』へと遠征に向かいますわ。……そこに、私の大切な『お友達』が囚われているようですから」
ルシアの可憐な声でそう告げると、ヒロインたちの目が一斉に鋭く輝いた。
「ルシア様のお友達……! それはつまり、未来の私たちの『妹(洗脳対象)』ということですわね? 喜んでお供いたしますわ!」
アリアが拳を握りしめる。
「ルシア様の障害になるものは、ドワーフの国ごと、我がアクアリアの氷結魔法で塵にして差し上げます」
エレノアが静かに殺気をみなぎらせる。
人間の大陸を裏から牛耳り、その触手を次は亜人の大陸へと伸ばし始める「裏の皇帝ルクス」。
少女の皮を被った怪物の覇道は、誰にも予測できないスケールで、世界を侵食し始めていた――。
(第1部・アヴァロン学園編 完 / 第2部・亜人大陸要塞編へ続く!)




