亜人大陸からの電波(オファー)と、お姉様の争奪戦
魔力測定器を文字通り木っ端微塵に粉砕したあの日から、学園内における俺――女装美少女「ルシア」の地位は、神格化の領域に達していた。
廊下を歩けば「ルシアお姉様……!」と黄色い悲鳴と共に女子生徒たちが左右にモーセの十戒のごとく道をあけ、窓からは熱烈なラブレターが毎日束になって投げ込まれる。
「(いやぁ、女装して潜入した時はどうなるかと思ったけど、ここまで崇拝されると気分が良いな。身体検査の薬(変転の秘薬)の効果も切れて、無事に男の身体に戻ったし、万々歳だ)」
いつものように小脇に丸いスライムを抱え、完璧な美少女の足取りで歩いていると、脳内にパチパチと奇妙なノイズが走った。
『――あー、あー。聞こえる? 人間の大陸の、アヴァロン学園のバケモノ魔力。繋がったかしら?』
耳の奥で響いたのは、およそこの上品な女子校には似つかわしくない、生意気で幼い少女の声だった。俺の【鑑定】レーダーが、この精神通信の発信源を瞬時に逆探知する。
【名前】 ティノ・アイアンハート(12)
【種族】 ドワーフ(亜人大陸)
【クラス】 魔導工学・鍛冶師
【潜在能力】 土属性:神匠級 / 『オリハルコン錬成』『神の叡智』
【現在の状況】 亜人大陸の地下深くで、ルクスの暴走魔力を検知して超長距離通信を繋いできた。
(ほう……ドワーフの天才ロリ職人か。第2部の領地経営でオリハルコンを大量生産するために、喉から手が出るほど欲しかった人材だな。向こうから電波を繋いでくるとは、運が良い)
『誰だ、お前は』
俺は誰もいない中庭の陰に入り、低い男の声で念話を返した。
『げっ、男!? ルシアって女の皮を被った男の魔力だったわけ!?……まあいいわ! あんたのあの規格外の全属性魔力、私の開発した【永久熱源炉】の動力源にぴったりなのよ! 私の専属の魔力供給奴隷(お婿さん)になりなさい!』
(ははっ、俺を奴隷にするってか? 面白い。その【永久熱源炉】、こっちが火山迷宮で回収した『永久熱源の心臓』と組み合わせれば、一国を賄う超巨大エネルギー施設ができるぞ。この天才職人、絶対に拉致リストに入れておこう)
『いいだろう。だが、俺をお前のお婿さんにしたければ、相応の準備をして待っておくんだな。近いうちに、お前を俺の国へ迎えに行ってやる』
『な、何よ偉そうに……! 待ってなさいよ、今に驚かせて――』
ティノが言いかける前に、俺は通信をブツッと切断した。
これでお嫁さん候補(兼・領地経営の主軸パーツ)の予約は完了だ。第2部への布石がまた一つ、完璧に整った。
「――ルシア様っ!!」
中庭から出た瞬間、今度は物理的な衝撃が俺の身体を襲った。
ドサァッ、と柔らかな感触と共に俺の胸に飛び込んできたのは、戦士科のアリアだった。
「ルシア様! 大変です! 今日の放課後、どの部活動の体験入部にいらっしゃるか決まりましたか!? 剣道部も、騎士団育成部も、みんなルシア様をお迎えするために赤絨毯を敷いて待っています!」
アリアが俺の腕をギュッと抱きしめながら、犬のように瞳を輝かせる。『幻影の至衣』がアリアの豊かな胸の柔らかさを完璧に受け流してくれるお陰で、男の肉体だとバレる心配は微塵もない。
「まあ、アリア様。私は魔獣使い科ですので、おとなしく動物のお世話をしようと思っていましたのよ?」
「駄目ですわ、ルシア様! そんなむさ苦しい獣たちに、ルシア様の高貴な時間を割くなんて許されません!」
廊下の角から、縦ロールを揺らしたフランチェスカと、青い髪のエレノアが、もの凄い形相で歩いてきた。二人の瞳は、魔眼の洗脳によってドロドロの【狂信】に染まっている。
「ルシア様は、我がローゼンバーグ公爵家が支援する『帝王学研究会』へお越しいただく手筈になっておりますのよ!」
フランチェスカが俺の右腕を強引に引き寄せる。
「いいえ、ルシア様の麗しい全属性魔力を磨くためには、我がアクアリア家が管轄する『魔導令嬢クラブ』こそが相応しいはずです」
エレノアが俺の左腕を抱きかかえ、フランチェスカを冷たく睨みつける。
「な、なんですって!?」「やんのか、この水浸し女!」
瞬時に火花を散らす大貴族と名門の令嬢。
「……あの、みなさん? ルシア様が困っていらっしゃいます。神の御前(ルシア様の前)で争う不届き者は、私がここで『折って』差し上げましょうか?」
後ろから、完璧な聖女の微笑みを浮かべたセレティナが、指先から黒い光(即死呪文のバフ)をパチパチと放ちながら近づいてくる。脳内リンクからは『(ルクス様、あの泥棒猫どもを今すぐ消し去って、私と二人きりで保健室に行きましょう……♥)』と、超ド級のヤンデレ念話が響いていた。
(おいおい、俺の洗脳が効きすぎて、ヒロイン同士のルシアお姉様争奪戦(殺し合い)が始まりそうなんだが?)
だが、この愛が重すぎる少女たちが、未来の俺の帝国を支える最強の柱となる。
「うふふ、みなさん。喧嘩はめっ、ですわ。今日の放課後は――全員のクラブへ、順番に顔を出しますからね?」
俺が首をかしげて「ルシア」の最高に甘い微笑みを振りまくと、公爵令嬢も、聖女も、名門の天才も、剣聖の卵も、全員が「はひぅっ……!」と同時に顔を真っ赤にしてメロメロになり、その場にへなへなと崩れ落ちた。
全校生徒を虜にし、裏では亜人大陸の天才までを掌の上で転がし始めた俺。
しかしその時、学園長室の魔導通信機には、人間の大陸の最前線で魔族の軍勢と戦う「最強の勇者アレン」から、ある驚愕の報告が届いていた。
『――アヴァロン学園長! 大変だ! 「7つの大罪」の一角、あの暴虐なる【強欲の盟主】が、自ら軍勢を率いて、そちらの女子校へ向かった! 目的は、魔力測定器を壊したという謎の全属性美少女の拉致だ!!』
世界を揺るがす大戦争の足音が、すぐそこまで迫っている。
だが、それを迎え撃つ俺の口元は、女子寮の鏡の前で、不敵な「皇帝の笑み」へと歪んでいた。




