灼熱の火山迷宮と、英雄の『おこぼれ』
アヴァロン学園が手配した大型の転移魔導陣を抜け、俺たち「ルシア班」が降り立ったのは、人間の大陸南端に位置する『灼熱の火山迷宮』の入り口だった。
「うう、暑いですわね……。お肌が乾燥してしまいますわ」
大貴族の令嬢フランチェスカが、ハンカチで額を拭いながら不満を漏らす。
「フランチェスカ様、私の水魔法で周囲の気温を下げますわ。……ルシア様、これでいかがでしょうか?」
名門アクアリア家のエレノアが、杖を軽く振って俺の周囲だけに涼しい冷気の結界を張る。その瞳は完全に俺への熱い忠誠(恋慕)で潤んでいた。
「ありがとう、エレノア様。とても快適ですわ」
俺が「ルシア」としての可憐な笑みを返すと、エレノアは「はひっ……!」と顔を赤くして身悶えする。
数日前、勇者アレンによってボスが討伐されたばかりのこの迷宮は、本来なら立ち入り禁止の危険地帯だ。だが、俺たちの班は「事後調査」という名目で強制派遣されていた。
「(教会の老害どもめ、聖女セレティナを俺ごとまとめて事故に見せかけて処理しようって腹か。あるいは、魔族がガルザの失敗を受けて裏から手を回したか……。まあ、どちらにせよ好都合だがな)」
俺は周囲に気付かれないよう、【鑑定】の目を周囲の岩壁へと走らせた。
【エリア】 灼熱の火山迷宮・中層
【残留魔力】 聖剣の光(極大)
【状況】 勇者アレンにより、大ボス『プロメテウス・ゴレム』は討伐済み。周囲のザコ魔獣もほぼ一掃されている。
通路のあちこちには、アレンの聖剣によって一刀両断された巨大な岩石魔獣の死骸が転がっていた。
「アレン様、やっぱり凄いです! これだけの魔獣を一人で片付けるなんて!」
戦士科のアリアが、純粋な憧れの目で周囲を見回す。
「ええ、本当に恐ろしい強さですわね(ふふ、本当に馬鹿な奴だ)」
俺は口元を袖で隠しながら、心の中で冷笑した。
アレンは強すぎるがゆえに、敵の本拠地へ向かって最短距離で突っ走る。
だから――この迷宮の「本当の価値」に気づいていない。
「みなさん、あちらの溶岩の滝の裏側が、少し気になりませんこと?」
俺が指差したのは、ドロドロと煮えたぎる真っ赤な溶岩が激しく流れ落ちる、一見すれば近づくことすら不可能な絶壁だった。
「えっ!? ルシア様、あそこはただの溶岩の塊ですよ!?」
驚くアリア。だが、俺の【鑑定】は、その溶岩の向こう側にある『空間の歪み』を完全に捉えていた。
「大丈夫ですわ、アリア様。エレノア様、あの溶岩の滝を一瞬だけ、全力の氷結魔法で押し留められますか?」
「ルシア様のご命令とあれば、喜んで!」
エレノアが前に出ると、名門の底力を見せるかのように、凄まじい密度の水・氷属性魔力を解放した。
「我が絶対零度の氷壁よ、劫火を凍てつかせよ! 『アブソリュート・ゼロ』!」
バリバリバリッ!!!
轟音と共に、激しく流れ落ちていた溶岩の滝が、一瞬にして巨大な黒い黒曜石と氷の塊へと変貌し、その動きを完全に停止させた。
「今ですわ!」
俺たちは凍りついた滝の隙間へと飛び込んだ。
滝の裏側に広がっていたのは、勇者アレンすら立ち入っていない、前人未到の『隠し最深部』――古代の製鉄遺跡だった。
部屋の中央、不気味な魔法陣の真ん中に、ドクンドクンと赤い脈動を打つ、禍々しくも美しい結晶が浮遊している。
【国宝級チートアイテム】 『永久熱源の心臓』
【効果】 無限の熱エネルギーを永久に生み出し続ける古代の遺物。一国を数百年維持するエネルギー源となる。
(見つけた。これさえあれば、第2部で手に入れる俺の荒れ果てた領地を、一瞬で『世界一の魔導工業都市』へ変貌させられる!)
俺が歓喜に震えていると、遺跡の影から、アレンの索敵すら潜り抜けて潜伏していた『本物の火山迷宮の守護者』が姿を現した。
「グルゥオオオオオオオッ!!」
それは、全身が青い超高熱の炎で形成された、神話級の魔獣――【フェニックス(不死鳥)】。
アレンが倒したのは、ただの防衛システムのデコイ(身代わり)に過ぎず、この不死鳥こそが本物の主だったのだ。
「ひっ、フェニックス!? なぜ攻略されたはずの迷宮に、こんな神話級の魔獣が……っ!?」
アリアが恐怖で腰を抜かしそうになる。アレンの光属性バフがない状態では、新入生など一瞬で灰にされる威圧感。
だが、俺は一歩前に出ると、懐からおとなしくしていたスライムを地面に放り投げた。
そして、女声をやめ、空間を支配する低い「男の声」で冷酷に言い放つ。
「総員、戦闘配置。……聖女、バフを。魔族、影から奇襲。名門と大貴族は火力を集中しろ」
「「「「御意のままに、我が主(ルクス様)!!」」」」
洗脳されたヒロインたちの目が、一瞬で狂信の輝きへと変わる。
セレティナがドス黒い強化魔法をスライムに注ぎ込み、エレノアの水魔法がフェニックスの炎を弱らせ、フランチェスカの爆炎が援護射撃に回る。さらに影からレルエの暗殺刃がフェニックスの魔力器官を正確に切り裂いた。
「ガ、ァ……!?」
完璧な連携に困惑する神話の巨獣。
その絶望の隙を逃さず、俺は【洗脳の魔眼】を最大出力でフェニックスの瞳へと叩き込んだ。
「お前も、俺の国の『永久機関』になれ」
ゴォッ!!
紫の魔力がフェニックスの全身を包み込む。神話級の不死鳥といえど、俺の魔眼と、完璧に調教されたヒロインたちの波状攻撃の前には屈するしかなかった。数秒の後、フェニックスは小さく鳴き、俺の足元へと静かに舞い降りて頭を下げた。
【ログ】 神話級魔獣フェニックスとの『魔獣召喚契約』が完了しました。
【獲得】 『永久熱源の心臓』を回収しました。
「嘘……神話の魔獣まで、一瞬で従えるなんて……」
アリアが呆然と呟く。
俺は一瞬で「ルシア」の姿に戻ると、『永久熱源の心臓』を懐にしまい、アリアの肩を優しく叩いた。
「終わりましたわ、アリア様。勇者様がボスを弱らせておいてくださったおかげで、助かりましたわね」
「そ、そうだったのですね! さすがアレン様、そしてルシア様!」
(ククク、どこまでもおめでたい奴だ)
アレンが命がけで世界を救う旅をしている間に、俺はその足元から、世界を支配するための経済の心臓(永久機関)と、最強の不死の軍勢を丸ごと奪い取った。
「さあ、お茶にしましょうか、みなさん」
俺が微笑むと、洗脳されたお嫁さん候補たちは、熱い吐息を漏らしながら俺の身体に競うようにすり寄ってくるのだった。
世界征服のパズルピースが、また一つ、完璧に噛み合った。




