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「隣町はやられちゃったわねぇ」
そんな言葉が町中に飛び交った。
今回の空襲で小夜たちが住む町とはまた別の町が大きな被害を受けた。
そこは、小夜と龍之介が少し前までいた高原近くだった。
しかし、小夜の住んでいる町は一部被害を受けていた。家族がどうなったかは、分からないまま。不安を抱きながら弥生さんと家に帰って行った。
「この辺は大丈夫そうね」
「.....」
小夜は黙り込んでしまった。
いつもは仕事が終わり、家に帰るのが楽しみ。大好きな弟がいて、家事をしてくれてる。まだ幼いというのに。そして寝込んでいる母。だけど会話もできるし、便所も自分で行ける。母の話は面白く、よく父親の話をしてくれる。まだ小夜が幼かった時の話や、父親との結婚の決め手など、昔の話をしてくれた。
「あ————!」
「小夜!」
「姉ちゃん!」
「よかった.....!あぁもう本当に」
弟の俊太単語が母の腰に手を当てて倒れないように支えていた。
小夜は走って2人の元に近づき両手を背中の後ろに回した。何度も深呼吸を繰り返し、呼吸するリズムを忘れた。母の背中はびしょ濡れだった。
「小夜大丈夫だった?」
「うん。弥生さんとここまで歩いてきた」
母は小夜の手を握りながら、そして弟の肩を借りながら弥生さんの方へ向かった。
誰よりも深く、その頭を下げた。
「本当に、小夜をありがとうございます」
3人の視線の先が同じだった。まだ少し遠くで焦げ臭い匂いがした。立つことが精一杯な母は今にも倒れそうになり、体の小さい弟も同時に倒れそうになった。
しかし弥生さんはもう老婆。その姿を見て小夜の母の体を心配した。
「お母さんは早く横になって休みなさい。今日のお昼に空襲がきたら夜は安心よ。子供達と寝てあげてね。私は店の様子を見に行かなきゃだから戻ります」
弥生さんは小夜たちにそう言い残して店へと帰って行った。
もう一度だけ我慢できずお辞儀をした。
「ここは大丈夫だったの?」
「警報は鳴ったけど何もなかったわよ。でも、隣の橋田さんの叔父さんはこの空襲で亡くなったみたい」
「そう、なんだ」
小夜は意外にも驚かなかった。
「姉ちゃんのとこは?」
「こっちは.....」
小夜の頭には、一緒に逃げてきた男の子が浮かんだ。俊太ではないのだけれど。
「大丈夫だった」
頭の中のことと言ってることが違って矛盾。小夜は自分の心に従えず自分を咎めた。
「この辺の防空壕も人が多いから大変なのよ。だからいざという時は俊太とお隣さんと逃げてもらうしかないのよね」
「いやそんなんダメでしょ。俊太ならお母さんと一緒に逃げられるよね?」
すると、小さな台に乗りながらお茶碗を洗っていた俊太が反応した。
「うん!僕、ぼうくうごうの場所知ってる!」
「そうだよね」
本当はまだ生まれて4年しか経っていない子に、なぜ防空壕の場所を教えなければならないのか。小夜が教えたわけでもなく、母が教えたわけでもない。なぜ知っているのか。
「あ、そういえば、今日はお芋が手に入ったからお米に混ぜて食べよ。あとはすいとんもあるから」
「今日は豪華だねぇ」
「弥生さんが沢山くれたんだぁ」
小夜は懐にしまっておいた弥生さんからのお芋を取り出した。
小夜は逃げてる途中で落としてしまったと思っていたが、ちゃんと懐に入っていた。
「小夜ちゃんごめんねぇ。3人分作ってくれるかい?」
「うん」
小夜の生活は特別苦しいわけではなかった。確かに側から見れば食事は少ない、稼ぎ柱がいない。だけど、小夜はそれ以上の幸せを感じていた。
「俊太?お母さんの背中拭いてあげて」
「はーい!」
母は風呂に浸かれないため、川から汲んできた水を雑巾に濡らしてそれで顔や体を拭いていた。
しかし私も俊太も一度母の背中を拭くのを躊躇してしまう。まるで骸骨だった。
その傍ら、小夜は手際よく料理を作っていた。
「よいしょっと。はいはい出来たよー」
「食べたい食べたい!」
俊太は体を拭く手を止めて食卓の方にやってきた。
「こら!まだ拭き終わってないでしょ?」
「やだやだ食べる食べる!」
「だめ!」
「小夜ちゃん、いいから食べさせてあげて。今日は元気だから自分で拭くから」
「じゃあちょっと待ってて。私が拭くから。俊太1人で食べれる?」
すると俊太はすでに箸を持って茶碗を口元に近づけていた。
小夜は不服そうに頷いた。
「よく噛んでよ!」
「あーい!」
俊太は米をかきこんだ。あっという間に無くなってしまうからよく味わった方がいいと言うのに、その忠告は全て無視。
「小夜ちゃんもういいから小夜ちゃんもご飯食べちゃって」
「分かった」
小夜は濡らした雑巾を絞り台所に戻した。あとで外の物干しに干しておこうと思って。
「俊太あんたもう食べ終わったの!?」
「うん!おかわり!」
「おかわりないよ。私の分がなくなるでしょ」
「えー!もっと食べたいもっと食べたい!」
俊太が駄々をこねたまま茶碗を離さなかった。眉間にシワを寄せて険しい顔をしながらでも瞼には涙を溜めていた。
「分かった。これ食べたらもう寝てよ」
「わーい!」
小夜は仕方なく自分の茶碗から米をよそって俊太の茶碗に入れた。
「どうぞ」
「いただきまーす!」
「あ母さんはどのくらい?」
「母さんは少なめでお願い」
食事が足りず、痩せていくのは辛い。だけど小夜はこれが当たり前だと思い、加えて特別苦でもなかった。
「美味しい?」
「ん!おいしい!」
外は暗かったけど、中は真昼のように太陽が昇っていた。




