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白昼の花火  作者: 椿原菜湖
8/10

「ここ、どこ?」

「もうすぐ食堂だよ」

龍之介は瓦礫の上を小夜を背負いながら歩き続けた。まだ真昼どきなのに、米国は容赦なく攻撃してきた。

普段空襲があるのは真夜中。足元が見えにくくなり逃げれなくなり死んでいく。しかし米国はそれを逆手に取り警戒の少ないこの時間帯に攻撃してきた。

もう随分と歩いたが、まだほんの少しだけマネキンのように動かない人影が転がっている。

全く同じマネキンはひとつもない。全てが少しずつ違っていた。撃たれている場所も血の出ている箇所も違っていた。

「重いでしょ」

「大丈夫だよ。ちゃんと食べてる?」

「うん」

小夜は自分が気を失わないように何度も龍之介に喋りかけた。このまま寝ると死んでしまうと思ったから。

でも体はどこも元気でいつも通り。本当は龍之介に背負ってもらう必要はないくらい。

「ほら、見えてきたよ」

「ほんとだ。あ、弥生さんだ」

高原から食堂までは歩いて20分ほどだった。そのうち10分、龍之介は小夜を背負って歩いた。

幸いにも食堂周りは被害がほとんどなかった。たまたま2人がいたところが狙われただけだった。

「母さーん!」

龍之介は食堂に向かって大きな声を出した。その肩は少し震えているように思えた。

「.....はぁ!龍ちゃん!」

龍之介の母、今日子が走ってこちらに向かってきた。その時、龍之介は優しく小夜を下ろした。

「龍之介!?怪我はない?大丈夫だった?」

「うん」

「お兄ちゃん!」

「洋も大丈夫だったか?」

今日子と龍之介は洋子を囲うように抱擁をした。

「小夜ちゃん!」

「弥生さん.....」

「あぁよかった。本当によかった。痛いところはない?怖かったでしょうに」

弥生さんは小夜の背中をさすった。小夜は弥生さんと龍之介を交互に見つめた。

「...かった」

「なんだい?」

「こわかった.....」

「もう大丈夫だからねぇ。頑張った頑張った」

「こわかった.....こわひっく..かった」

小夜の声は掠れていた。その時まだ我慢していた涙が、ようやく頬を伝って落ちた。

弥生さんは小夜の震える手を強く握りしめた。弥生さんはこんなにも骨っぽくなった手は見たことなかった。

小夜はご飯をまともに摂れていない。働いて貯めたお金は全て病弱な母親の治療薬に費やされる。次に弟の食事に変わる。弟はまだ幼く成長期で食べ盛り。

小夜はどれだけ働いても、自分に恩返しがくることはない。

「龍之介さんと、一緒に逃げてきたの」

小夜は龍之介を指差して言った。

すると弥生さんは小夜の手を握りながら龍之介の元に歩いた。

「本当にありがとうねぇ。自分も怖かっただろうに、ありがとうねぇ」

「いや、俺は何も」

龍之介は妹の洋子を抱き抱えながら小夜に近づいた。

「怪我ない?」

「うん」

「よかった」

小夜の前髪をどけて顔を覗き込んだ。

「それじゃ、また」

「本当に、ありがとうございます」

龍之介と家族は弥生さんと小夜に挨拶をしてから食堂に戻った。

2人は最後まで3人を見守った。

「行こっか」

「一度、家に戻ってもいいですか?」

「もちろん。送っていくわ」

小夜は弥生さんと歩いて自宅に向かった。

小夜が空を見上げると、遠くで紅色に染まっていた。

もし米国の攻撃が、あと少しだけ早かったら。

さっきまでの会話は、きっとこの世に存在していなかった———


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