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「俊太ー?もう寝る時間だから寝て。枕元に服とか置いた?」
「うん!これで大丈夫!」
いつ米国軍が攻撃してくるか分からない今日この頃。100%安全とは言えず、本当にいつか死ぬかもしれない。3人は3日分の洋服を用意していた。
「お母さーん!俊太が走り回ってて全然寝ない!」
しかし俊太はまだ幼い子供。近所の子供と町を走り回って遊びたい。体を動かしていないとわがままになってしまう。
「俊太、お姉ちゃんの言うこと聞きなさい」
「やだー!!戦闘ごっこする!姉ちゃんが兵隊さんやって!ぼくも兵隊さんやる!」
俊太は木の枝と丸い石で作った自作の剣を取り出した。ちゃんと小夜の分も用意されており、剣を差し出された小夜は仕方なく受け取った。
「俊太中尉!敵軍を捉えた!」
「うわぁ~!やられた.....」
「へっへっへ!ぼくは日本一の兵隊だっ!」
小夜は正直眠たかったけど、俊太の日本男児の意思の強さに圧倒された。はぁと小さくため息をつきながら仕方なく兵隊さんごっこを続けた————
「ふわぁ~!つかれたぁ.....」
「もう寝なさい」
母親は床に寝転がる俊太を布団まで運んだ。小夜も随分と疲れたのか、俊太の横で寝落ちしてしまっていた。
「.....」
母親の瞳孔には2人の顔がくっきりと映されていた。まだ幼い弟と彼を支える姉。本当に、ほんとうに、長生きしてほしいと、心の中で願った。
「おはよ~う」
「俊太!姉さん寝坊しちゃってもう出なきゃなの!ごめんだけど母さんの面倒見てあげて」
「わかったぁ~」
小夜は珍しく寝坊をしてしまった。本当は8時には店にいなくてはいけないのに、7時半に起きてしまった。昨日の夜、もっと早く寝ておけばよかったと、過去を後悔するしかなかった。
「いってきまーす!」
「気をつけるのよ?」
「はーい!」
小夜は玄関まで来てくれた母親に元気よく返事をした。家を出ると、早速近所の人で賑わっていた。
「小夜ちゃんおはよ!」
「おはようございます!」
「お母さん大丈夫?」
「はい!今日は玄関まで来てくれて、なんだか最近元気になってきてるんですよ!」
「そう。よかったわね。でも油断しないようにね」
「ありがとうございます!」
彼女は独り身の女性の吉住さん。いつの日かの空襲で家族を亡くしているのに、そんな影を一切見せない明るさを持っていた。話していると小夜まで元気になる。
「うわっ.....」
空を見上げると、太陽の光が目を直撃した。小夜は反射的に下を向いた。少し目を擦って、また歩き出した。歩く速さを徐々に早めて次第にいつの間にか走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ————!すみません!遅れました!」
「小夜ちゃん!まだ開店まで時間あるから大丈夫よ」
「よかったぁ。遅れたかと思いました。わたし着替えてきます!」
「あ、小夜ちゃんそっちは.....」
小夜は、何も知らずに居間の方に行ってしまった。
「きゃぁぁっ!え、どうしてここに?」
「久しぶり」
「え、ちょっまってっ」
居間には、戦闘帽子を被っていた龍之介が座っていた。小夜は思わず驚きその場に膝をついた。
「そんな驚くこと?」
「はい。どうしたんですか!」
「午前中に街に用があって、それまでに預けた洋服を回収して来いって言われて、早めに来たら弥生さんが中まで上げてくれた。って感じかな」
「そう、なんですね。何か飲みます?外寒かったでしょ」
今日は卯月の十五日。朝昼晩と年間で寒さが一番厳しい月だった。
小夜は台所に置いてあるかまどで火を焚いた。
慣れた手つきでやっているように見えるが、一人で1からお湯を沸かすのは初めてだった。いつも弥生さんがやっているのを見ているだけだったのだ。そのため工程を思い出しながら沸かすしかなかった。彼女は不器用にも、頑張ってみた。
「いま、お湯を沸かしてるので少し待っててください」
「ありがとう」
小夜は少し離れた場所にしゃがんだ。
「なんでそんなに離れてるの。こっち、おいでよ」
「あ、どうも」
「.....」
「.....」
「あの、この間は、ありがとうございました」
「あの後家族に会えた?」
「無事に。うちのところはそこまで被害が広がってなくて。この辺は———」
小夜は窓から見える外の景色を見た。すでに壊されている家屋がいくつもあった。奇跡的に弥生さん家は大丈夫だったけど。小夜は”死”を肌身で感じ始めていた。
「今日の午後って仕事?」
「そうです」
「そっか」
「何でしょうか?」
「あ、いやぁ.....なんでもないよ」
「なにその気になる言い方.....」
「今日の午後空いてる?って、聞きたかっただけ」
「え?」
小夜は思わぬ回答に顎が伸びた。
「この間は、あまり話せなかったから、もっと話してみたいと思って」
「今日じゃなきゃ、ダメですか?」
「今日が、いいかな」
「絶対に?」
「うん、絶対に」
「.....弥生さんに聞いてみます!」
「本当か?ありがとう。無理強い言ってるのは分かるけど、俺は君のことをもっと知りたいと思っているから」
小夜の心は龍之介によって完全に鷲掴みにされた。
「あ!そろそろお湯ができるかな!」
小夜は真っ赤な顔を見られたくなくてかまどの様子を見ると言ってその場から離れた。
やっぱりまだ、上手く話せないかも。




