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「この辺でもいいか?」
「大丈夫です」
2人は人気が少ない脇道を進んだ。そしてその先にあった広い高原に出た。ひとつポツンと、小さな長椅子に座った。
「随分と見晴らしがいいな」
「こんなんところ初めて見た」
小夜は物珍しさに高原を見渡した。
先ほどあった賑やかな町と人は消え去り、ただの草と空だけが無造作に広がっていた。
そしてそこに流されてきたかのように小夜と龍之介が立っていた。
「よいしょっと」
「なんでこんなところ知ってたんですか?」
ひと足先に長椅子に腰掛けた龍之介に、小夜は尋ねた。龍之介は小夜は見てから、視線の先を変えて空に向けた。そして一言。
「父親と来てた」
小夜の胸に重い鉛がのしかかった気がした。物理的にも、心情的にも、彼女の中で察した。
小夜はかける言葉がなかった。視線は下を向き、せっかくの晴天も曇天のようだった。
「そんなに暗くなるな。別にまだ死んだとは限らないからなー」
小夜は不思議に思った。
きっと、龍之介の父親は、出征したはずなのに、こんなにも元気に振舞っていられることが。
小夜は、前を見た。
果てしない草木が水平線に続き、描いて足したような太陽があった。
もう昨日の夜で何人の人が星になったのだろう。
いつ自分の番になるのか、いつ自分があの水平線の一部になるのか。近所の人から聞く隣町の様子には、耳を塞ぎたくなる。聞きたくない聞きたくない。
小夜はまた怖くなった。
「私の父親も、前にいなくなりました。その時までは元気に、働いてたのに———もういません」
まだ出会って間もない若い男女2人。それはまだ初心らしさを隠せていなかったけど、それに比例するように一つ一つの言葉は重かった。
この当時でしか感じられない感情とは、それは儚く果てしなく遠かった。
「龍之介さんは、私の前からいなくならないですよね」
「え?」
ブォォォォォォォォォォンンンン!!!!!
その時だった。2人の耳に、轟音が届いた。
「えっ?」
「あれは...小夜!ここから離れろ!」
龍之介は小夜の手を握りしめて高原を駆け走った。




