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白昼の花火  作者: 椿原菜湖
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「いただきます」

「いつ食べてもここは美味しいわね」

小夜と弥生さんは箸を持ち食事をいただいた。弥生さんは何度も食べたことあるが、小夜は初めてだった。

今ではあまり手に入らない米も多く使われていた。ただし中に麦や芋や大根が入っていた。

「美味しい.....!」

彼女たちは久しく米を食べていなかった。

この時東京の米は配給制であった。もちろん小夜たちも配給された米で空腹を凌いでいたが、その米は浴衣の布を購入する時に消えていった。生地問屋に渡すのはお金ではなく米だった。

「この米は芋がたくさん入ってるのね?」

「そうっすね。今は米を手に入れるのも精一杯ですから」

「そうなのよね~。うちも布もね、服を作る仕事をしてるもんだから生地を買うのに米を使うのよ」

「今はみんな大変ですから」

弥生さんは仲良さそうに龍之介さんと話した。

小夜は箸を動かしながら、何度もその方を見てしまった。

「.....」

「あ、龍之介くん、ここって御手洗い何処かしら?」

弥生さんは龍之介に手洗い場を聞いた。また小夜は過剰に反応する。

「便所はあっちです」

「そうかい。ありがとうね」

弥生さんは立ち上がり、部屋の奥の方に行ってしまった。これも策なのか他なのか、小夜は自分の感性を信じた。

弥生さんが見えなくなったのを確認した。

「あ、あの.....」

「はい。お冷でしょうか?」

「あ、いやそうじゃなくてですね、あの、その.....」

龍之介さんは困る小夜の顔をのぞいた。小夜は驚いた。目を開き、まじまじと彼の顔を見た。

「あ!龍之介さんのご年齢って?」

「17だよ」

「あ、そうなんだ。あ、へぇ~」

「君は?」

「わ、わたしは16!一つ下!」

「そっか」

龍之介さんは小夜の質問に答えながら近くの腰掛けに座った。

「えっと、じゃあ.....龍之介さんが好んでる食べ物は、なんですか?」

「肉じゃが」

「そ、そうなんですね」

小夜はへええと笑いながら愛嬌を浮かべた。龍之介さんはただただ彼女を頬杖をつきながら眺めているだけだった。小夜はさらに恥ずかしくなって腰を丸めた。

「あとは.....好きな色とか?」

「黒と白」

「真反対じゃん」

「白黒は何にでも使えるでしょ?」

「確かに?」

小夜が質問するばかりで、龍之介はそれに答えるだけだった。

小夜はその圧力に負けてしまい、困り黙り込んでしまった。

「.....」

「.....」

小夜は彼の第一印象を、非常に黙り込む人だなと思った。小夜が質問しても単純明快に回答するだけ。ただ小夜も初めて異性と話すので、これが普通なのだと思った。

「龍~?洋ちゃん見ててくれない?」

「はーい。それじゃまた。あと、さん付けじゃなくて呼び捨てでいいよ」

「えっ」

龍之介は、それだけを耳打ちして食堂の仕事に戻っていった。

小夜は自分の耳に手をやった。きっと真っ赤で、腫れていたと思われる。

子供の頃、熱が出たように、全身の芯から温まっていた。

「よいしょっと」

「あ、おかえりなさい」

「龍之介くんと話せた?」

「あ、いやただの世間話ですから」

小夜はまた愛嬌を浮かべながらその場を流した。

小夜はまた龍之介の姿をこの目で見た。

また、目が合った。

今度は逸らさずに、見続けてみた。すると次は龍之介が目を逸らした。小夜はその姿を見て、クスッと笑った。

この時、小夜は初めての感情を抱いた。

これが.....なんという感情なんだろう?

「小夜ちゃんはまだまだこれからだろうね」

「これから?」

「うん。仕事も、恋も、お友達も、まだまだこれからあるってことよ」

小夜は不思議そうに弥生さんを見た。彼女にとって、”これから”という意味が理解できなかった。

これからとは。

毎晩のように鳴り響く空襲警報に身を震わせ、病気の母親と幼い弟を連れて防空壕に逃げる日々。まだこの時は死者が少なかったものの、死んでいく者はいた。

まだ幼かった彼女は、いつか自分も死んでいくのだと、確信していた。

「そうだと、いいですね」

「.....」

弥生さんはこの時、何を思ったのだろうか。口を閉ざした条件は公の場であったから。自宅で2人きりの時は、反政府的な考えは言っていたのだろうか。

「うん!美味しかったわ!ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

全ての食事を平らげた。

弥生さんは懐から僅かな銭を取り出した。

「今日ちゃん?これ、少ないけどさ」

「あ~!本当にいいのいいの!また今度そっちに行くからさ!」

「え?いいのかい?」

「うん。本当にいいから。今度お洗濯頼みに行くわ!」

「ありがとうねぇ。それじゃあ今日はお暇するわ」

弥生さんと今日子さんはしばらくやり取りをしていた。その姿を側から聞いていた小夜は、手を重ねて待っていた。

すると、暖簾から、割烹着を脱ぎ、国民服乙号になった龍之介がやってきた。

「君、少しだけ時間はあるか?」

「.....」

「き、きみ?」

「え、あ、私ですか!?」

「そうだよ。少しだけ話したいんだ」

小夜は突然のことすぎて、口をポカーンと開けて驚いた。

「私でよければ、時間はあります!」

「よかった。ここでは場所が悪い。外で歩きながらでも話そうか」

「はい!」

小夜は嬉しくなった。初めてこんなに喜んだ。

本当は午後に仕事の予定だったが、そんなもの忘れていた。

しかし弥生さんは小夜のことを静かに見送った。

「君はのその髪.....」

「あの、私のことも、小夜って、呼んでください」

外に出て歩き出した頃、小夜が恥ずかしそうに言った。

すると龍之介は答えた。


「小夜の髪の毛は、本当に綺麗だ」


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