4章30話:寿命
「リクくん、『チョジュラス剣』ができたから一緒にネオンちゃんのとこ行くのだよ」
「あ、はい」
フミーの隣に座っていたリクが立ち上がる。代わりにフミーの隣にリーゼが座った。
去っていくルルーミャとリクを見送り、リーゼと二人になる。
「アタシたちは何してよっか」
「暇だな」
フミーとリーゼの目線が交わる。
「あ、そうだ!」
思いついたことがあり、フミーは勢いよく立ち上がった。
「ちょっと、物とってくるから待ってて!」
「お、おう」
訝しげなリーゼを背にフミーはそのまま自室へと向かう。
「……暇つぶしにトランプでも持ってくるのか?」
リーゼは首を傾げる。
そして、すぐにフミーは戻ってきた。手には小さく四角い物が握られている。
「——! それは……」
その物体を見てリーゼは眉を上げた。
「インスタントカメラ! 一緒にシャシン撮ろう!」
天真爛漫な笑顔をフミーは咲かせ、カメラを掲げた。
そういえばリーゼとシャシンを撮ったことがなかったと思い立ち、フミーはそれを持ってきたのだ。
「シャシンってなんだよ。てかインスタントカメラって……それ、そんな名称がついたのか?」
「…………? リーゼ、これ知ってるの?」
「いやだってそれ——」
インスタントカメラへリーゼは手を伸ばす。そして裏返した。
「『テーキット製』……やっぱこれ、ウチが作ったもんだわ」
「え」
少し苦い顔をしながら、リーゼは衝撃の事実を告げた。
「じゃ、じゃあリーゼが発明したの!? すごーい!!」
「違う違う。ウチはただ複製っつーか、再現しただけ」
「再現……?」
「ああ」
リーゼはインスタントカメラについて話し出した。
「ガキの頃、コレの『オリジナル』を拾ったんだ。一瞬で絵を精巧に作れるもんだからビックリした。けど、何回か試しているうちに使えなくなってな。そのまま何となく持ってたんだが——まぁ、なんだ、端的に言えばそれを知ったアープルが同じのを作れって言い出したんだ。そうたら恩赦を与えてやるって」
「でも『テーキット製』って書いてるのは?」
「『テーキット』の部品拝借させてもらった」
「そうなんだ、——そっか、それで……」
フミーは妙に納得した。リーゼが元組織の人間であることを知っているはずのアープルは彼女を捕えようとしない。刑期満了したという話も聞かなかった。
凄い技術の塊であるインスタントカメラ作成に関わっていたとなれば、見逃す理由になり得る。
「……リーゼ、ありがとう」
「かっ、なんだよ急に」
お礼を言ったフミーをリーゼほ不思議そうに笑う。
「ふふ、なんでもない」
カザミショーヤと共にインスタントカメラを召喚した。そしてカザミショーヤのシャシンを撮った。エルフの里でも旅の記録として色々撮った。
まさか、リーゼが作ったものとは思いもよらなかったが、世界は想像より狭いのかもしれない。
「じゃあ、改めて——一緒にシャシン撮ろう!」
「わ!」
フミーは勢い良くリーゼに抱きつき、リーゼは驚く声を小さく上げた。
——
『チョジュラスの槍』改め『チョジュラスの剣』をアヤートは握っていた。
「これを突き刺せばいいんだね」
「ええ」
アヤートの問いかけにリクは頷き、アヤートは自分の腕だった物体へ剣先を向けた。
「———」
リクとネオンが見守る中、アヤートは剣先を静かに皿に乗ったソレへ貫かせる。
溶けた肉のような感触に眉を顰めていれば、ソレが淡い光と共に粒子になって崩れていく。そして、剣へと集まり、吸収される。
——これで正真正銘、アヤートは左腕を失ったのだ。
「ふむ。終わったようですね」
と言いながらネオンはアヤートへ近寄る。
「リク、チェックしてみてもらえますか」
「ああ、もちろん」
剣先を見つめながら、彼女はリクに呼びかけた。呼びかけられたリクも応じて彼も剣を持つアヤートへ近寄る。
右手から黒い手袋を抜いて露わにした色白の手をそっと剣へ置く。
リクの左右で色の違う瞳に剣先が写り、リクへ情報が流れてくる。
「——うん。わずかだけどスコアか加算されてる。成功だよ」
「ならよかった」
リクの言葉にアヤートは穏やかに微笑んだ。
「さーて、次はいよいよですね」
ネオンは腕を組み満足げだ。
いよいよ、フミーが目標に手が届く。それが、己のことのように嬉しいようである。
「……」
そんなネオンをよそ目にリクは考えていた。
フミーたち長寿こチョジュラス一族から寿命をもらうという話についてだ。
フミー自分だけ多めに寿命をとって欲しいと言われているが——。
リクはアヤートを向く
「あの、少し握手してくれませんか? 寿命をいただくにいたって、寿命を把握しておきたいので」
「寿命……。凄いね、そんなこともわかるのかい?」
言いながら、アヤートは手を差し出してきたので、リクはその手をを握る。
「はい。便利な能力でしょう?」
リクは珍しくも自慢げに口角を上げた。
そのリクにネオンは少しじっとりとした眼差しを向けていたが、リクは何も言わずに能力を使うことに集中する。
「……」
——やっぱり。
口には出さず、内心で呟く。
アヤートの寿命は長寿の家系とは思えないほどに、普通の人間のようだった。
「もしかして、少ないかい?」
不穏なリクの表情を見て察したのか、アヤートが問いかける。
「少ない……わけではないかな。ただ、残り100年も生きられないでしょうね」
それは、度重なる実験で姿を変えられ、死んだも同然となった過程を得た影響だ。
魂が傷つき、表面には出ない形で蝕んで治らないものが確かにある。
「それでも一度言ったことを引っ込める、なんてしないから、そこはよろしく」
「わかってますよ」
ただ、配分は調整する必要がある。
ルルーミャとフミーはまだチェックしていない以上どれほどまでかわからないが、フミーから一番多く取り、次いでルルーミャ、そしてアヤート、の度合いにはなるだろう。
「……」
リクは無言で少し俯く。
他人の命を左右する、その重みはリクに深くのしかかる。
その重み、責任から逃げる気は毛頭ないが、そこに何も感じない人間ではない。一抹の苦みがリクの中に広がる。
「リク」
甘く柔い声と共に、リクの肩に手が置かれる。
「フミーのところに行きましょう。首を長くて待ってます。きっと」
近くに現れたネオンの顔がリクの瞳にキラキラと眩く映る。
だからなのか、半ば無意識に肩に置かれたネオンの手へ、自分の手をリクは重ねる。
「リク?」
「……うん。行こうか」
不思議とリクの心は軽くなっていた。
——
研究所内、とある一室。何もない白い空間だ。
そこに、フミー、アヤート、ルルーミャ、リーゼ、ネオン、リクの6人が揃っていた。
フミー、アヤート、ルルーミャの3人が並び、その正面にリクが立っている。
邪魔をしないよう少し離れた場所でネオンとリーゼが見守る。
「じゃあ、始めるよ」
リクの右手には『チョジュラスの剣』か握られていた。




