4章31話:完了
アヤートだけでなく、フミーとルルーミャの寿命も、念のためリクは確認した。
リクの能力で読み取れる寿命は現状の環境を維持し自然老化した場合の大まかな年数だ。
その前提の元、フミーはおよそ500年、ルルーミャおよそ1000年という年月であることがわかった。
ネオン曰く、チョジュラスの一族の長命力は段々と減っていくらしいが、それでも尚、それだけの時間を歩むようである。
フミーの寿命を400年削って100年残すとして、ルルーミャを300年、アヤートで数年取る。——そう脳内でリクは計画する。
「まずは、フミーから」
「うん」
リクとフミーの視線が交わる。
フミーが事前にした要求を『わかっている』とでも言いたげに薄く微笑んだ。それに安堵し、フミーは頷きながら微笑み返す。
そして、リクは剣先をフミーへ向ける。
冷たく存在するその剣を、フミーの顔のすぐ横へ持っていく。触れそうな距離だ。
絡み取るように、くるくると剣を回転させれば——
「……っ!? ぅ、ん、ぐぅ……っ!!」
悲痛そうにフミーは息を荒げた。
「……っ!! ……は、ぁ」
フミーの苦痛を追いかけるようにリクもまた、能力の反動で苦しみ始める。
それを見たネオンが不安げに瞳を揺らし、駆け寄って、邪魔しないよう気をつけながらリクとフミーの汗を拭った。
——お互いに魂を削っていくような、痛みを味わうこと数十分。
「終わった、よ」
リクが膝をつき、ネオンの用意した水を飲む。フミーはふらふらとよろめき、アヤートに支えられていた。
「ほらフミー、タオル」
「わっふ!」
白いタオルをリーゼが投げれば、フミーの顔にタオルが覆われる。
「ありがとー」
少し休んでから、ルルーミャ、アヤートと続けて行う算段だったが、想像以上にリクへの反動が大きかった。
アイリスに対して行った時以上に。
「リク、大丈夫ですか?」
「なんとか……こんなはずじゃなかったんだけどね……」
リクを支えながらネオンは尋ねるも、しゃがれた声で返事が来る。
「剣を振るうのってリクじゃなきゃダメなの?」
「できるんだったら私が変わってあげてますよ……」
素朴なフミーの疑問にネオンは悔しそうに小さく呟く。
「ふむ……」
顎に手を当てながらルルーミャが一歩前へ出る。
「世界最高峰の回復魔法の使い手に協力してもらうってのはどうなのか?」
「——! ニオン!」
フミーはルルーミャが示した人物の名前を出した。
「時間を置いてゆっくりやるんでも問題ないだろうけどさ」
フミーへ一瞬視線を移してから言葉を続ける。
「でも、どうせなら、使えるもの全部使っていこうぜ」
清々しい顔でルルーミャは歯を見せて笑った。
——
フミーが呼びに行った方がアープルに小言を言われなそうということでフミーが警備隊の元へ行き、ニオンを借りる了承をもらった。
「こっちはこっちで後処理とかで忙しかったんですけどねぇ」
研究所までの道中にて、世界最高峰の回復魔法の使い手ことニオンが不満をこぼす。
「けど、隊長も行ってこいっておっしゃりますし、ログライフ討伐の協力もしてもらいましたし、仕方ないですね」
「ごめんね……」
無理やり笑顔を作るニオンに思わずフミーは謝る。
ストレスが溜まっているのか、前に話した時よりも少し刺々しさがあった。それだけ忙しいのだろう。
「いえ、気にしないでください。11連勤の三徹目だとしても、自分には回復魔法があるのでコンディションはバッチリです。……精神の回復はもはやキリがないので最近はやってないですけど」
「えーと、アタシにできることがあったら何でも言ってね」
「それじゃあ書類仕事を——って隊長に怒られちゃいます」
帽子を被り直しながらニオンは軽く笑う。
「……ねぇ、ニオン」
「なんですか?」
ニオンの隣に並び、横顔を見ながら呼びかける。
少し緊張しながら切り出した。
「銀黒の魔女ってどうなったの?」
「……あぁ、彼ですか」
銀黒の魔女ことロードミルフィ。
嫌な思い出の多い相手ではあるが、気にならずにはいられなかった。
「ログライフのことは……」
フミーは彼が敬愛していた人物の死を知っているのかが気になっていた。おずおずとするフミーを横目で見ながらニオンは答える。
「隊長が伝えました。荒げて最初は信じてなかったようなんですけど、観念して受け入れたのか、途中から大人しくなりましたね。……一応言っておくとあなたがログライフを仕留めたとは伝えてないですよ」
「……」
「彼がこれからどうなるのかは自分にもわかりません。優良活用というか、隊長としては手懐けたいみたいですけど——自分的には無理だと思うんですよね。目が死んでて、死ぬ気力も生きる気力もないって感じなので」
「…………そっか。ありがとう、教えてくれて」
ニオンの話を聞いて、フミーの体が重くなる。
けれども、立ち止まることはない。
わかっていた話だ。
わかっていても、自らした行いだとしても、同情してしまうのは甘いのだろうか。酷いことだろうか。ネオンに怒られてしまうだろうか。
自業自得だとか、因果応報だとか、ザマアミロとか、そんな風には思えない。
かといって、好きになることもできないし、寄り添おうとも思わない。
会いたいとも思わないし、二度と会うべきではない。
けれど、きっと、ロードミルフィのことを一生忘れない。どこかで生きていたらいいと願い続けるだろう。
「…………ふふ」
どの立場でそんなことを——なんて思って、自嘲気味に小さく笑った。
「それより、今は……」
知りたかったことも知れ、頭を切り替える。
本当に、もう少しで手が届きそうな目標を思い、フミーは瞼を閉じる。
脳裏に彼の顔を思い浮かべてから、再び歩き出した。
——
ニオンがリクの後ろに立ち、掌をリクへ向ける。すれば、淡い癒しの光が溢れ出す。
「……! 驚いた」
リクは思わず呟く。反動で追っていたダメージが一瞬でかき消え、万全の状態になったのだ。
「自分は警備隊の方の仕事がまだまだ残ってるので、早く終わらせてくれると助かります」
「わかった」
ニオンによる回復魔法をかけられたまま、先ほどのようにリクは剣を掲げる。今度はルルーミャの番だ。
「……へぇ、こりゃキツイじゃないか」
魂を削り取られるような苦痛に流石のルルーミャも冷や汗をかく。
それでも、堂々と仁王立ちしていて余裕があるように見える。
「終わりました」
「おう。ありがとさん」
ルルーミャはお疲れ様と言うようにリクの肩を叩く。
「最後は父様だね」
フミーは白髪を揺らしながら、アヤートへ視線を移す。
「ああ、よろしく頼むよ」
アヤート落ち着いた声にリクは頷いた。
そしてまた、剣を掲げて——。
「……っ!!」
苦痛に奥歯を噛み耐えるアヤート。声すら上げない。
アヤートから刈り取る寿命は他二人に比べて僅かなのもあり、すぐに終わる。
「終わりです」
リクがそう宣言した途端、手に持った剣が真っ白く光り出した。溢れ出すそれが眩しく思わず目をつぶる。
「リク! これはもしかして……!」
ネオンが呼びかける。
「うん。溜まったみたいだね。7スコア」
どこか満足げにリクは答える。
「……!!」
フミーは薄く目を開く。強く拳を握って、鼓動を早まらせていた。
ドクン、ドクンと響く心臓がフミーを揺らす。
「カザミショーヤ……」
誰にも聞こえないほど小さくその名前を呼ぶ。
愛しい彼の名前を。




