4章16話:無名隊員
ネオンは名も知らない隊員を抱えたままニオンの元へ駆け寄る。
「ニオン、この子もお願いできますか」
「あ、ネオンさん。了解です!」
「あと、銀黒の魔女を探すのに協力してください」
「……それは、どういうことですか?」
ニオンは流れ作業のように怪我を治してながら、平坦にネオンへ問う。
「見失ったんです。彼の部下の小鬼から探して居場所を聞き出した方が早いと思い、人間と鬼族のハーフであるあなたに何かアテはないかと」
「いやですね〜。そんなアテ、あったらすでに教えてますよ」
「予測でもいいです。何か手がかりがあれば」
「……」
話している間にニオンはネオンが抱えている隊員含め、その場にいる全員を回復し終えていた。そして、目を伏せ数秒の間を作ってから、なんてことないように再び口を開く。
「大きな外傷は見受けられませんが、ネオンさんも回復しますね」
「ありがとうございます。……それより、やっぱりありませんか? 色々な文献を見てきましたが鬼族に関するものは少ないです。鬼族しか知らないものがひょっとしてあるのかと思ったんですけど、私のアテが外れましたか」
ニオンの表情は読みづらい。元々ネオンは察することが得意ではないし、ニオンが本当に何も心当たりがないのか、隠しているのかわからなかった。
表面上は口角を上げていて明るい表情だが、意味深に黙っていた。
追及するべきかと考えていると——
「あの、ネオンさんネオンさん。私もう大丈夫ですよ……っ」
「あ、はい。下ろしますね」
抱えていた隊員を下ろすことを忘れていた。悩むと視野が狭くなるのはネオンの悪いところだ。
「……副隊長、隊長のおやつこっそり食べて黙ってる時と同じ顔」
「——!」
隊員の言葉にニオンは息を呑んだ。
「あの、私からもお願いです。何かあるなら教えてあげてください!」
「カナさん……」
カナ——そう呼ばれた隊員は九十度に腰を曲げてニオンへ頭を下げていた。
彼女だけに下げさせるわけにもいかないので続けてネオンも頭を下げる。
誰かと一緒に頭を下げるシチュエーションは前にもあった気がした。しかし記憶を巡らせる前にニオンが二人の肩をポンと叩く。
「二人してやめてくださいよ、言いますから!」
顔を上げれば、ニオンは困ったように微笑を浮かべている。
「ごめんなさい、ネオンさん。自分、人を信じるのに少し慎重になってしまうタチなので迷ってしまいました」
帽子を取り、頭を下げるニオン。鬼族の特徴である角が見える。そして再び帽子を被った。
「これは自分自身の弱点でもあるからあまり言いたくないことです。まぁ、しかし、自分とこの隊員が世話になったことですし、お話します」
「それをこんな人のいる場所で言っていいんですか?」
「ここにはあなたを除けば警備隊のみんなしかいませんよ」
警備隊の人間を疑うことを知らないといった態度である。
「……外部の人間をあくまで信用しないって話ですか」
「警備隊への採用は自分とアープル隊長でやってるので、そもそも信用できる方しかいませんから。……もちろん、隊長自らが協力を要請したネオンさんのことも一定の信頼はありますけど、自分はあなたのことをよく知らないので」
ここまでの道中、ニオンと会話をしたのは片手で収まる数だ。パーソナルな話をすることもなく、互いについてざっくりとした概要しか知らない。その意見も頷ける。
しかし、とりあえず信じてみることこそ手っ取り早いともネオンは思う。それは、裏切られたとしても、失敗したとしてもなんとかできることを知っているゆえの感覚なのかもしれないが。
「んじゃあ、話しますが、鬼にとって重要な部位があります。それは、角です」
自分の頭部を指さしてニオンは続ける。
「音、匂い、相手との距離、温度、空気の性質……角から様々な情報を得て活動しているのが鬼族です。なので角が上手く機能しなくなると、鬼は判断が非常に鈍くなります。加えて、精神も不安定になる傾向がありますね。角を機能させるために隠したりせず露出させなきゃいけないです。弱点でも防具を付けて守ることができない厄介な部位ですね」
「……ニオンは帽子を被って角を隠していますが、平気なんですか?」
「はい! ハーフですからなんとか。じゃなかったら常時息苦しくてたまんないでしょうね」
自分の帽子を撫でるニオン。その仕草は自分の角に愛着があるようだった。
「で、小鬼と小鬼は恐らく互いの居場所がわかると思うんですよ」
「それはどうしてです?」
「長く時を共にした鬼同士は互いの居場所を角を通して把握できるようになるんです。家族ですとか同じチームの仲間ですとか……。生憎、警備隊の鬼族は自分だけですし、自分にはそんな相手いないんですけどねー、ははっ!」
「……」
ネオンは考える。
ニオンが教えてくれたこと、それは重要な情報に思えたから。
——緑の小鬼は魔女限定で回復ができる。
つまり、魔女の側にいる可能性が極めて高い。それが緑の小鬼。
逆に、ワープ地点になれる黄色の小鬼が魔女の側にいない可能性が高い。
「黄色の小鬼から緑の小鬼の居場所を聞き出す……」
「そう簡単にいきますかね? その黄色い小鬼を見つけるのはどうするんです?」
「銀黒の魔女がワープしたい場所って考えると絞れてくると思います」
「例えば……どこですか?」
「ログライフの元——じゃないですか? やっぱり」
「なるほど。自分のボスの元ですか」
ネオンはわざわざ否定しなかったが、自分の親玉だからワープ地点に設定したとは思わなかった。
幾度か会ったゆえの印象やフミーたちからの話を聞くに、銀黒の魔女はログライフを深く愛していることが明らかだ。
ならば当然、愛する人のピンチにいつでも駆けつけられるようにしたいのが自然な心理。
「——突っ込んでばかりで申し訳ないですが最後に一つ、小鬼が易々と主人の居場所を教えてくれるでしょうか?」
「……」
暴力で脅すことはできる。しかし、それで口を破れるのだろうか。
主人のためなら命も惜しくない。そんな健気な性分かもしれない。その場合、どうすれば——
「あのっ!」
すっかり話に置いてけぼりだったカナが手を上げた。
「私のアイデアを聞いてください!」
ポニーテールにした紺青の髪を揺らしながら、元気よく、でもどこか緊張した様子でカナは提案した。




