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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
4章 【そこから始まったアタシの物語】

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4章10話:ここはまだ始まり


「でも、研究所の鍵はリーゼさんが飲み込んでしもうたさかい」


「あー。あるぞ、鍵」


 チャリン。


 槍があるはずの研究所には入れないと顔を困らせるアイリスに、リーゼは鍵を掲げた。キラリと小さく光る小さな鍵だ。


「飲み込んだように見せただけだからな」


「抜け目あらへんねんな」


 完全に騙されていたアイリスはジトッとリーゼを見るのだった。



——


 槍を取りに行っているリクを待つ時間が発生した。


 紺色の髪を少し乱れさせたシュージが、アイリスを見つめている。

 

「あの、アイリス殿」


 穏やかだが真剣な声だ。


「シュージ……」


 小さく名前を呼んでから、目を合わせていられなくて視線を彼から外す。


「後ででもいいんで、事情はしっかり話してもらいますからね」


「わかった」


 短く返事をした。


 それから、チラリとアヤートへ視線を移す。


 相変わらずアイリスの頭の中にログライフの幻影が近づく。しかし、アヤートがしっかり警戒してアイリスを見てくれるから、アイリスはバカな真似をせずに済んでいた。

 この場を逃げ出してログライフの元に馳せ参じれば何かしらの役に立てるのではないか。このままでは終われない。ログライフのために何か——。そんなことをしたくなってしまう破滅的な衝動をアヤートが牽制してくれているようだった。



——



「じゃあ、始めます」


 リクは手袋を脱ぎ、深く息を吸ってからアイリスの肩へそっと触れる。

 彼の触れて見たものの解析ができる能力を使って行うのだ。

 リクは肩へ触れていない方の手で槍を持ち、槍の先端をアイリスの肌スレスレに当て、輪郭をなぞるように動かした。


「……ぐ、ふっ、ぅ」


 能力の反動により、リクの鼓動は高まり、体は苦痛を訴える。しかし、途中でやめるわけにはいかない。

 リクを見ていたリーゼは、彼の隣に立ち、せめてでもの行動として額ににじむ脂汗を布で拭う。


「……っ! う、……ぅ」


 アイリスは、自身を引き裂かれるような感覚に、爪が食い込むほど強く握って拳を作り、歯を食いしばった。

 そんなアイリスを、シュージはもどかしそうに見つめる。

 アヤートはリクとアイリスを不安げに一歩遠くから見守っていた。



 時間にして、10分程度。


 しかし、リクとアイリスの体感としては倍以上のものだ。


「——っ!!」


 瞬間、アイリスの中のノイズが鳴り止んだ。

 ずっと振り続けていた雨が止み、雲が晴れ、日差しに照らされたようだった。


「あ、あ……」


 途端に力が抜け膝をつき、倒れそうになる。しかし、シュージが咄嗟にアイリスの前へ出て両肩を掴み支えた。


「アイリス殿? 大丈夫ですか?」


「……ごめん、シュージ。離して、くれへん? え、えづきそうどすさかい」


「え! でも!」


「……う、うえ……おえ……ゔゔ」


 シュージは離さず、アイリスはやむを得ずシュージへ吐瀉してしまう。さらに、涙まで溢れ出し、吐瀉物と混じる。

 しかし、シュージは気にせず震えるアイリスを抱きしめるように支えて背中をさすった。

 彼のその優しさと愛情に、自分にはあまりに不釣り合いとしかアイリスは思えない。


「僕、袋とかタオル用意しますね」


 見かねたリクが、そう言って槍を持ったまま研究所へ戻って行った。少しよろめきそうになりながら。



——



 ——組織『テーキット』が壊滅。そして、ログライフが封印された。

 その時、魅了の力が弱まりはした。弱まってなければ、ログライフ復活を目指して動いていたことだろう。けれど、ログライフのことが頭から離れることはなかったし、他の何かに心奪われることもなかった。

 何をする気も起きず、とりあえず自分の故郷のエルフの里へ帰ろうとアルウェイル森林地帯へ入った。200年——いや、300年くらいだろうか。それほど久しぶりのことだった。何せ、里を出てから一度も帰っていないのだから。

 そもそも、自分はどうして里を出たのか今となっては曖昧だった。死んだ両親が外の世界もいいものだと話していたからか、たまにやってくる外からのお客さんの話が面白かったからか、その辺りだとは思う。


 ——今更帰ったところで、自分の居場所はないのかもしれない。だとしたら、この世界のどこにも居場所はないだろう。




 ——66時間。それが、アルウェイル森林地帯に入ってからエルフの里に到着するまでの時間だった。

 久しぶりということで道に迷い、魔物には襲われ、散々な目に合った。こんなにかかるとは思わず食料も2日で尽きた中、歩いて、歩いて、ボロボロになりながらなんとか辿り着く。

 エルフの里の光景を見た時、辿り着いてしまったと思いながら倒れた。

 そんな自分へ駆け寄る足音。そうして癒しの力——回復魔法を使われた感覚がした。


「——大丈夫ですか!? 自分が助けるんで!! 絶対!! 死なせません!! こう見えても自分の回復魔法結構凄いんですよ!!!!!」


 それが、シュージとの出会いだった。


 馬鹿みたいに必死に呼びかけ、励ましの言葉をぶつけてくるその姿に少し吹き出したのを覚えている。



——



 自分の中に巣食っていたものが消えた時、視界がキラキラ輝いて見えた。最早、目に光が宿ったのと同義だ。

 特に——シュージ。彼を見た時ドクンと鼓動が高鳴って、とても尊く特別な存在な気がした。

 その反面、自分は汚くて汚らわしくて汚れた醜い存在であると思えて気持ちが悪かった。

 平然と罪を犯してきたわけではない。少なくとも心の奥では。けれど、今の自分にとっては平然としていたも同義だ。はっきりとわかる。


 ログライフ、ログライフ、ログライフ。

 どうしてあんな邪悪な女に惹かれていたのだろう。


「もう、生きていけへん……」


「そんなこと言わないでくれ!!」


 涙を流し自責の念に駆られるアイリスの言葉をシュージは否定した。


「そうですよ」


 続けてアヤートがシュージに同調する。


「アヤートさんは何でそんなこと言うんどすか!?」


「えっ」


 喚くような声をぶつけられ、アヤートは目を見開いた。


「アヤートさんの人生、ぼくたち組織のせいでめちゃくちゃになったやろう!? リーゼさんとも普通に平然と接してるし、どうして優しゅうできるんどすか……?」


 アイリスは指の代わりに顎でリーゼを指し示しながら、アヤートに問いかけた。

 リーゼも気になるのか静かにアヤートへ視線を向ける。


「どうしてって言われてもね……」


 アヤートは顎に手を当てて追想するように目を閉じて、開ないた。


「君たちを恨んでも仕方ないことだし、フミーがそばにいて、カザミショーヤ君を生き返らせるために頑張ってて、それを支える立場だからね。恨む余裕なんか、ないよ。特別優しくしてるつもりもない」


 その言葉が、アイリスに深く突き刺さる。それが苦しくてアヤートから目を逸らしたくなったが、それは堪える。

 本心なのかはわからない。全く思うところがないことはないだろう。本当はドス黒い感情を持っていて、それを隠しているのかもしれない。それでも、その言葉に苦しみながらどこかで救われていた。

 リーゼは少し俯きがちにアヤートを見続けている。アイリスと同じ気持ちなのかもしれない。


「フミーにはたくさん寂しい思いをさせたから、今はただ、あの子のことだけを考えていたいんだ」


 柔らかに微笑むアヤートは、どこか哀愁を帯びている。



——



 研究所内のやたら白くて長い廊下を歩きながら、リクは手に持ったチョジュラスの槍、その先端を見つめた。

 ほんの少しだが、より黒くなっている。

 

「……」


 考えを確信させるために。手袋を脱いでチョジュラスの槍を持つ。そうして槍の情報を読み取れば、『スコア』が加算されていることを確認できた。

 ——人の命を奪わずとも、死者蘇生を実現できる。


「うっ……」


 頭がクラクラと揺れて膝をつく。能力の使いすぎだった。アイリスがやってくる前も槍の解析をしていて、ついさっきも10分程度だが使った。アヤートを呼びに行くために全力疾走したのもある。無理をしすぎたかもしれない。

 外した手袋をまた装着し、壁にもたれながらゆっくり進むことになった。

 しかし、どうってことはない。身体的には無理をしているが、精神的には何も苦ではいから。


「……腕……譲ってくれないかな」


 切り落とされていたアイリスの両腕をふと思い出す。死者蘇生のためのスコアを加算するのに命を奪う必要はない。なら、『部位』だけでもスコアになるのではないか。

 そう考え、シュージの回復魔法で腕をくっつけられなかったのだから、不要ならば腕を譲ってもらいたいと思うのだ。失礼を承知で後で提案してみよう。

 できることが限られる分、そのできることを最大限それをやるのだ。



——


 ——場所は『ノーマル王国』上空。


 銀と黒で構成された『魔女』と呼ばれる男は高度数百メートルの地点から地上を見下ろしていた。

 一本の太い三つ編みにした銀色の髪は冷たく風に靡き、銀色の瞳孔の黒い瞳その瞳はあるものを映し出していた。お揃いの隊服を着て長い列を成した団体だ。


「邪魔者、発見」


 全ては愛しきあの方のため、あの方の目的を叶える手伝いをするため。

 彼女のことを考えただけで胸は高鳴り、思い浮かべる彼女はキラキラと輝いている。

 ——彼は、吸血鬼に〝魅了〟されし魔女。きっと、一生魅了され続けるだろう。解けることのない希望であり光だ。


「バイバーイ」


 団体の先頭に目を向ける。そこには隊服を着ていない者が3名いる。そのうちの一人。雪のように白い髪の少女を確認し、指先をそこへ向けながら無機質に呟いた。


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