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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
4章 【そこから始まったアタシの物語】

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4章8話:望み


「リーゼさん、大丈夫そうかい?」


「生きれそうって意味なら、はい、そうっすね……」


 リーゼへ声をかけながら、アヤートは瞳を鋭くしアイリスを見据えていた。威圧感を感じるその視線に体が凍りつきそうだが、それを振り払う。馬乗りになっていたリーゼから離れてゆっくり立ち上がった。

 

「アヤートさんに来られたら無理や。こんなん負けどす。おまけに両腕破壊されたわけやし」


「なら、大人しくしてくれますか?」


 冗談めかして言ってみただけで、本当に降伏する気はアイリスに全くない。しかし、いつぞやとは違って万全のアヤートを前に敗北感をすでに感じるのは本当だ。

 対して、アヤートはどこまでアイリスの心情を悟っているかは不明瞭だが、降伏を促す。

 

「ところで、アヤートさん。よう生きてましたなぁ。エルフの里で見かけた時びっくりしたわぁ」


 アヤートの呼びかけには答えず、頬に手を当て挑発するように彼の姿をじっと見る。


「……おかげさまで」


「皮肉どすか? ぼくがアヤートさんを捕らえたからなぁ」


「……」


 怒りの感情を期待してアイリスは煽るも、アヤートに効果はない。

 激昂して冷静さを失ってくれればまだ勝ち筋もあるのが無駄だった。アヤートは煽りに乗ってくるタイプの人間ではない。


「しゃあない」


 アヤートから隣で寝転がる黒髪の女へ視線を移す。

 両腕は使い物にならないので足を使う。リーゼの後頭部へ照準を合わせて踏み潰そうと左足を上げた。

 すれば今度はアイリスの左足目掛けて氷の杭を生成して即座に飛ばしてくるアヤート。厳密には生成しながらこちらへ飛ばしてきた。当然予測できるのでアイリスは軽やかにかわす。並行して風魔法を地面へ当て、砂埃を作った。

 ——砂埃というよりは、砂嵐かもしれへんなぁ。

 我ながら素晴らしい勢いで砂を立ち上らせた。視界が砂色一色だ。

 アヤートはコントロールが良い。しかし、視界が悪かったらどうだろう。

 対して、アイリスは〝目が良い〟ため、こちらに有利な——


「——オファー・コネクタンス」


 砂埃の中、呪文が冴え渡った。


「——!!」


 そして、空中から滝のように大量の水が降り注がれ、避けるすべなく濡れる。

 身に纏った着物は水分で重くなり、湿気った髪が鬱陶しい。地面は水を吸収し砂埃が作れない状態となった。


「強引に砂埃を消したなぁ」


 苦笑いで濡れた髪をかき上げる。

 やはり、真正面から戦ってアヤートに勝てることはできない。

 だから、どうにかあの手この手で勝たなければいけない。

 植え付けられたログライフへの忠誠——もあるが、勝って、チョジュラスの槍を手に入れて、ログライフの目的が達成されればアイリスも解放されるはずだから。支配された自分の心も、封じられた自分の心も、チョジュラスの槍という目的は一致している。

 その目的のためならなんだってするつもりだ。

 するつもり、なのに——



——



「エンフウ・ブルー」


 炎魔法と風魔法を合わせた、アイリスのオリジナル技だ。

 青い炎の柱を立て、風魔法をそれに纏わせる。こうすることで、消えない炎が出来上がる。

 さっきのように大量の水を召喚しても無駄だ。


「オファー・コネクタンス」


「——ッ!!」


 しかし、大岩を召喚し、物量で封じてきた。

 続けて、アイリスを取り囲むように大岩を落とされる。一瞬にして視界が暗くなり閉じ込められたが、慌てやしない。

 炎魔法で大岩を温めた後に氷魔法で冷気を出して冷やす。そうすれば、簡単に大岩は崩れた。


「ありとあらゆる物体は急激な温度変化に弱いんやんな」


 と、言ってる場合ではなく、今度はアヤートの姿が見当たらない。

 しかし、エルフの耳を舐めてもらっては困る。


「ぼくの背後、取れると思ってるん?」


 紳士さのかけらもなく背後から氷の剣先を向けようとした男の動きを読み切ってかわし、逆にカウンターを仕掛けようとした。


「……っ!!」


 足の爪先に炎を纏わせ、それでアヤートの顎を打とうとしたが、氷の剣先が予想外にこちらを向き、勢いのまま飛び跳ねて回避。アヤートから遠のいた。

 しかし、攻撃をやめるつもりはない。


「集中できへんな……」


 チラッと、痛ましい自分の両腕を見る。最大限の力を振り絞っているが、痛みはやはり行動を鈍らせる。



——



 風魔法、炎魔法、水魔法、氷魔法——様々な魔法でアヤートの色白の肌は傷をつけようとした。めげずに、殺しにかかった。けれど、軽々とかわされ、ほとんどアヤートは傷を負っていない。これでは赤子扱いだ。


「はぁ……はぁ……」


 炎魔法を使いすぎたからか、疲労からか、酸素が足りない。肩で息をするも、苦しい。地面に吸い付くように膝を曲げた。

 アイリスの複数箇所から流れる血がポツポツと流れ、地面を赤くする。

 もし地面に倒れたら、二度と起き上がれないような気がした。——使い物にならない両腕は自分で切り落としてしまったことだし。 


 そんな限界のアイリスへゆっくり一歩ずつアヤートは近づく。

 両腕分の質量がなくなり身軽なアイリスの身体などアヤートが蹴り上げれば空高く舞い上がりそうだ。

 それとも、出血死しないように凍らせてある両腕の切り口を溶かされるだろうか。

 ああ、どうしよう。

 巻き返したい。巻き返さなければ。

 無理矢理頭を働かせるも、何も案はない。

 自分はもうダメだ。なら、——ならば、


「いっそのこと……」


 ——都合良く、誰か助けてくれたらいいなぁ。

 リーゼをアヤートが助けたように、アイリスを誰かが。例えば銀黒の魔女でも、ドットルーパでも、その部下でも——なんて、そんなことはありえないことを知っている。

 でも、何故なんだろう。何故、アイリスのことは誰も助けてくれないのだろう。

 ——あーあ、苦しい。


「能面なんてしてるから苦しいんじゃないかい?」


 そう言われた次の瞬間、視界が明るくなった。

 目の前にアヤートの手が見え、手刀で能面を真っ二つに叩き割ったとわかる。

 そうして露わになるのは、恥ずかしくも目を赤く腫らしたアイリスの顔だ。


「アイリスさんのおかげで能面がちょっと苦手だったんだ。だから、憂さ晴らしに割らせてもらったよ」


 被り物がなくなり視界が晴々として、なんだかもう、何もかもどうでもいい気分になってくる。

 それでも、ログライフの顔がチラつくものだから、鬱陶しくて鬱陶しくて、思わず口走る。

 

「ぼくを、殺してくれへん?」


 死にたいと思ったことは何度もあった。しかし、そういう解放の仕方を望もうにも自分で死ねやしなかったし、わざと誰かに殺されることもできなかった。けれど、自分より格上の相手に負けて殺されることは、できる。

このまま、アヤートが鉄槌を下してくれれば、死ねる。

 これ以上、人様に迷惑かける前にそうした方がきっといいだろう。


「聞くところによると、チョジュラスの槍には長命や長寿の者の命が必要らしいやんか。ぼく、エルフやしぴったりやん」


「アイリスさん、本当にそれを望むんですか」


「うん。望む望む」


 アヤートの言葉に大きく頷いた。


 エルフの寿命は長い。

 だから、縛られた時間が長くとも、辛いことが長くとも、後でいくらでも取り返せる。

 それでも、諦めたくなる瞬間はやってきたのだ。

 自由な心を手に入れて、向き合いたい人がいた。考えたいことがあった。

 そういうこともまとめて、もう何もかも消し去って——

 

「待てよ!」


 死を享受しようとしたアイリス。しかし、そこへ声を上げるのはリーゼだった。


「死ぬとか……やめろよ……」


 いつの間にか研究所の壁にもたれかかっているリーゼ。喋るのもやっとだろう。それでも、アイリスへ苦言を呈した。


「なんでどすか?」


「後悔するかもしれない」


「……誰が、誰が後悔するん?」


 笑ってしまうほど滑稽だ。何人もの人たちを見殺しにしてきた女が何を言う。何人もの人たちを殺したアイリスをどうして生かそうとする。


「ウチかもしれないし、アイリスさんに近しい誰かかもしれない」


「……はぁ?」


 何を、言っているんだろうか。


「……そうだね。僕も後悔するかもしれない。そして、その時、簡単に生き返らせることなんかできやしないからね」


 アヤートまで、何を——。


 怪訝な反応のアイリスとは反対にアヤートは少し穏やかな顔つきになり、手に持っていた氷の剣を砕いて殺す気はないと示した。


「偽善者ぶるん? ぼくが死んで悔やむ奴なんて誰もおるわけあらへん!!」


 心をログライフに縛られた中、誰かと真摯に向き合うなんてできなかった。いつも作り笑いを浮かべて誰も信用しなかった。

 そんな女が死んだところで、誰も心動きやしない。


「アイリス殿ーーーッ!!!」


 けれど、曇天を貫くような叫び声がした。






 

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