63 巡察使 その4
一つ悟った事がある。
どんなアホな事でも、大きな声で自信を持って断言すれば、それなりに通じる、ということだ。
例えば今の状況だ。
「還らずの森で狩りをするだなんて」
信じられないモノを見るような態度の冒険者たちに、イヤイヤと無意味に愛想良く笑顔を向ける。
「森の外縁に出てくる魔物は、大して強くないですから」
嘘は言っていない。モトテート周辺に出る魔物に比べると、外縁部の魔物は無害と言っていいレベルだ。
「そりゃそうかもしれんが、その一角猪なんて、10人以上の冒険者で囲い込んで獲るような魔物だぞ」
え?そうなの?っと獲ってきたオーガたちを見る。
「まあ。楽に獲れる魔物じゃねぇでさ。ここじゃクラキ様のお陰でどうにかなってやすが」
うーん。そこは人族とオーガやリザードマンの違いということにしよう。
「みんなのパワーに合わせた戦い方をちょっと教えただけだけどね」
ほーら。具体的な事はなにも言ってないが、冒険者たちも納得したような顔になってきた。
俺は実は暗黒神じゃなくて、詐欺師ではないだろうか。前の世界では、本当にその通りと言っていいだろう。
自称「暗黒神」こと新興宗教団体代表クラキ。
うん。違和感がない。
そんな事を考えながら、笑顔で巡察使を見た。
「この獲物は、今晩の晩餐に供しますのでご期待下さい」
冒険者たちがどよめく。
「おいおい、一角猪の肉なんて食ったのいつ以来だよ」
「前に食った事あるような口を利くなよ。羽ウサギだって、滅多に食えないくせに」
「確かに。羽ウサギ狩ったら、食わずに売るな」
以前、スオナーデで一角猪を売ったら大銀貨50枚くらいになったな。
確かに高級肉かも知れない。
(今日、獲物があって良かったです)
フウが念話で言ってきた。
(危うく保存してある香水蛇を出すところでした)
香水蛇は危険度も味も、一角猪より数段上の魔物だ。縄張りを主張するために、華やかな香りの粘液を出す為にこの名がある。
モトテートでは、その香りで、素晴らしく美味しい肉の居場所がわかるという事で、乱獲されている哀れな魔物でもある。
最初の頃に売ろうと思ってスオナーデに持ち込んだら、ちょっとした騒ぎになった。
「そんなご馳走とは、ありがたいですな」
ヤーラの言葉に首を横に振った。
「その代わり、ご覧の通り野菜は大した物はないですし、酒の類いはほとんどありません」
「なるほど」
葉物野菜が育っている、小さな畑を見てヤーラは頷いた。
「野菜はともかく、酒はみんながなんとかしてくれと、うるさくて。僕には、なんであんなものが欲しいか良く分からないんですが」
嘘です。ホントは飲みたいんだけど、ヒイやフウが飲ませてくれません。
俺の神像の前には、お神酒を捧げるのに。解せぬ。
「なるほど。確かにあなたに酒は必要なさそうだ」
ヤーラは声を立てて笑った。




