50 侵攻側の都合 その3
「あいつら、懲りる事を知らんな」
黒岩山に突入して2時間ほど。
別働隊とも、後続の従兵とも合流を果たし、本来の分隊編成になった我々だが、戦闘を行う事なく冒険者たちの突撃振りを見物している。
突撃、と言っていいのか。
3人くらいで一塊になって突っ込んで、見えない壁にぶつかってひっくり返るの繰り返しだ。
なんか変な魔法でもかけられて、頭の働きを低下させられているんじゃないか、と疑いたくなる。
冒険者の1人を捕まえて事情を聞いてみたが、彼らは夜明け前に奇襲を受けて、あっという間に気絶したらしい。
だが、気絶する直前に見た光景が、今の冒険者たちの馬鹿げた突撃を生んでいる。
曰く、見たこともないほどの美女が5人と男1人、それに子供が3人の一団が襲ってきたのだという。
しかもダークエルフとエルフがいたという。
希少な種族で美女。しかもいかなる領主も保護していない集落の住人である。
奴隷商人に売り飛ばし放題というわけだ。
売り飛ばす前にやることも、想像出来る。
金銭欲と色欲に目が眩んでの所業というわけだ。
わたしたちに、下がっていろと言うのもわかる。
先に領兵が突入してしまえば、その時点で伯爵領に組み入れられたと解釈できて、保護の対象になるからだ。
本来はそうすべきだろう。
しかし
「彼らには契約通り、頑張ってもらいましょう」
涼しげな表情で魔法使いが言う。
こいつの言う通り、山の魔力源と里の探索は伯爵閣下の名において、冒険者に出された依頼で。
わたしたちの役目は、あくまで履行の確認と魔法使いの護衛なのだ。
「面白くありませんな」
部下の1人が、そう呟いた。
全く同感だ。
「そうですね。少し面白くしましょうか」
魔法使いは、そう言うと印書の空白の頁を開き、それを額に押し当てた。
離すと頁には、印が転写されている。
「さてと、どれがいいかな」
ペラペラと印書をめくり「これがいいか」と手を止めた。
その頁を額に押し当てる。
選んだ印を額に宿しているのだ。
「さてと」
宿したばかりの印に魔力を流しているのだろう。それも全力に近いはずだ。印が可視化し輝いている。
「おい、よけろ!」
部下たちが冒険者に警告を発した。
「炎舞」
魔法使いが呟くと、巨大な炎が舞い踊った。
冒険者たちは、悲鳴を上げながらも、辛うじて逃げ果せた。
「なにしやがる」
色めき立つ冒険者たちに、魔法使いは無邪気な笑顔を向ける。
「まあ、結界は壊せたんでいいじゃないですか」
いつも読んでいただき、どうもありがとうございます。
急遽、転勤が決定して身辺が慌ただしくなってしまいました。
申し訳ありませんが、次回投稿は4月6日にさせていただきます。




