49 侵攻側の都合 その2
「総員起床!戦闘準備!」
総員起こしをかける。この場所には、わたし以外に騎兵6騎に従兵23名がいる。その全員がわたしの大音声に、天幕から飛び出してきた。
「クハル!別働隊まで伝令。事前の策通りに行動せよと伝えろ。その後は別働隊の指揮下に入れ!」
「はっ!」
わたしの従兵の若手であるクハルに命令した。
クハルは馬に飛び乗って、1キロ離れた別働隊の野営地まで駆けていく。あらかじめ、彼の駄馬の荷物は下ろしているので、みるみるうちに姿が小さくなっていった。
「騎兵並足前進。従兵は準備出来次第、追随せよ!」
号令をかけ、前進を開始する。
従兵のうち、騎兵の補佐を行う者は一緒に前進する。輜重担当の者は野営地を引き払ってから、あとを追ってくる手はずだ。
魔法使いは、当然のようにわたしの隣でついてくる。彼の馬は軍馬ではないものの、それなりの調教を受けているようで、並足前進には余裕でついてきている。
「目標確認。襲撃用意!」
15分ほど進んで、冒険者たちの野営地が見えてきた。
号令をかけると、各々の従兵が騎馬槍を手渡してくる。
「戦っている様子がありませんな」
わたしの従兵長で、歴戦の戦士であるガモーが独り言のように言う。
「確かに人影もないし、物音も聞こえないな」
騎兵従兵合わせて15騎が音を立てて接近しているのに、冒険者たちが起きてもこない。そもそも、見張りの姿も見えない。
「奇妙だな」
「周囲探知しますか?」
ガモーの言葉に頷く。
「そいつは私がやろう」
魔法使いがそう言って「探知」と唱える。
「襲撃者らしきものはいないようだ。冒険者は全員意識を失っているな」
「なんだって?」
魔法使いの言う通り、野営地のそこかしこで冒険者たちが倒れている。
しかも大部分が剣を抜いてさえいない。
「不意打ちですかね」
「まあそうだろうな」
ガモーの言葉に頷きながら、冒険者たちの意識を取り戻させる。
怪我もなく、ただ意識を失っているだけのようなので、頭から水をぶっかけさせた。
「や、奴らはどうした!?」
意識を取り戻した冒険者たちは、一様にそんな事を言う。
「お前らが倒れていただけだぞ」
「クソ!ガキどもを取り戻して、逃げやがったな」
「おい!追いかけようぜ!」
「おお」
全員が気絶させられたにしては、妙に勇ましい。
「あいつらを逃してなるもんか」
「あれだけの上玉だ。楽しんだ後で売り飛ばしても、大儲けだぜ」
「しかも5人はいたな」
「ガキも小さかったが、見れる顔だった。十分売れるぜ」
「お前ら、なにを言っている?山の調査前に妙な事をするなよ」
「だから、その山の調査でさ。隠れ住んでる奴らも捕まえるんでしょ。俺たちがこれから、一気にやってやりますよ」
「おお!」
「旦那方は、ゆっくりと来て大丈夫ですぜ」
目を血走らせた冒険者たちは、あっという間に準備を整え、山に入っていった。
ついさっきまで気絶していたとは思えない。
「なんなんだ、あいつら」
「ろくでもない事を考えているのは確かでしょうな。だが、我々も行かざるを得ません」
ガモーの言葉にため息をつく。
「命令だからな」
我々も、なし崩し的に事態に深入りしていくことになる。




