48 暗黒神、ぶらり旅 その2 / 侵攻側の都合 その1
「なるほど。奥のテントに子供がいるみたいだな」
夜明けまであと1時間ほどの払暁。俺たち一行に隠れ里のサクラを加えた9人は、山の麓まで降りて来ている。
ミイもヨーも変身を解いて、ダークエルフ姿だ。
冒険者たちの野営地まで100メートルほどまで近づいているが、見張りの連中が気付く様子はない。
「このまま、突入しますか?」
ヨーが尋ねてきた。
「どうするかな。妙な魔法陣を敷いてるんだよなぁ」
俺の目には、子供たちが捕らえられているテントの周囲に、妙に凝った構成の魔法陣が見える。
「警戒の魔法陣ですか?それにしては、変な魔法式がついていますが」
フウが首を捻る。
「警報先が、あの野営地じゃないな。もっと遠くに飛ばしている」
目を凝らして周囲を見ると、1キロ程先に魔力の塊を見つけた。それも2箇所。
「どうも、あの野営地は餌みたいだな」
◇◇
「どうにも気に入らん任務だな」
黒岩山と呼ばれる山の麓から、やや離れた位置に待機する私、サイス伯爵家騎馬第3中隊第2小隊の先任分隊長である騎士エオレ・ヘープは、愚痴をこぼさずにはいられなかった。
本来は伯爵家の騎士である私が、任務に対して不満を抱くなど許されることではない。
だが、今回の任務に関しては、どうしても不満を抑えることが出来るない。
冒険者たちの尻拭いをするのは、まだいい。
ただ、その冒険者の質が最悪に近い上に、目的もロクでもないものなのだ。
あの山に、住み着いている住人がいるので、伯爵領に取り込む。
このこと自体はいい。為政者として、真っ当なことだ。
だが、今回はそれに優先する命令がある。
黒岩山を緑豊かにしている魔力の源を探り、確保せよ。
山にもっと近い位置に野営している冒険者たちは、その為に雇われている。
我々領兵は、戦うことには慣れているが、魔力源の捜索などといった事は専門外だからだ。
だからと言って、あの冒険者たちが専門家とは思えないが。
なにしろ、山の住人に聞けば早いなどと言って、出会った子供たちを拉致してきているのだから。
しかも人質にして、住人から魔力の秘密を聞き出した後は、奴隷として売り飛ばすなどと言っているそうだ。
そんな行為の片棒を担がされていると思うと、怒りに身が震える。
「先程から、山に漂う魔力が増えたように見えますね」
夜明け近くで、夜襲の可能性が高い時間なので、わたし自らが歩哨に立っていたのだが、その横にやって来た者がいる。
「そうかね」
素っ気ない返答になったが、仕方がない。
彼こそが、今回の任務のきっかけを作った魔法使いなのだから。
魔法使いに対する偏見をあざ笑うかのような、清潔で爽やかな出立の見目良い男だ。
「わかりませんか?そうですか」
焚き火の光の中で白い歯を見せて、笑う。
笑いながら、左手に抱えた印書をソッと撫でている。
正直、イケすかない男だが、なるべく表情に出さないようにした。こいつは、伯爵閣下お抱えの魔法使いだ。たかが分隊長風情とは、比較にならない。
「ほう!」
魔法使いが、甲高い声を上げた。
「どうした?」
「いえね。魚が針にかかったようです」
口元を吊り上げるその表情は、どう見ても邪悪なものにしか見えなかった。




