47 暗黒神、ぶらり旅 その1
ミイの描いた転送陣で、隠れ里とやらに出てみた。
「久しぶりだな」
数ヶ月振りに会ったダークエルフたちに挨拶しようとした時。
少し離れた綺麗な岩の上に立っていた幼女が、滑るように飛んできた。
一緒に転移してきたヒイ、フウ、ユキが俺の前に立つ。
幼女は、綺麗な着物が汚れるのも厭わず、俺の前に平伏した。
というか、和服?異世界で?
「1000年を経ての拝顔。恐悦至極に存じます」
平伏したまま幼女が言った。
「あー。ごめん。話にくいから立ってよ。敬語も必要ないし」
「ですが」
「俺、過剰な敬語とか苦手なんだよ」
更にヒイが続けた。
「暗黒神様は、普段と変わりない態度を好まれます。詔のとおりに」
「では、失礼ながら」
幼女は立ち上がったが、周囲の人間たちがザワザワとしている。
そりゃ「神様だよ〜ん」とか自称する奴らがあらわれれば、ビックリするよな。
「申し訳ないけど、俺は昔の記憶がないんだよね。だから」
さすがに「お前の事なんて覚えてないよ」と露骨に言えずに語尾を濁す。
「お気になさらずに。わたしなど千一柱おりました土地神の末席。記憶がお戻りになったとしても、覚えていなくても無理はありません」
いや、そこまでへりくだられても。
「改めまして、ミカゲと申します」
おかっぱ頭で幼い顔立ちだけど、声はちょっと大人びて聞こえる。言い方のせいもあるんだろうけど。
「まだ封印は解けていないが、暗黒神だ。今はクラキと名乗っているので、そう呼んでほしい」
「御心のままに」
なんか硬いなぁ。
「もうちょっと、軽く喋れないかな」
わざと軽く言ってみても、ハッとか言って緩める気配はない。
その堅苦しさと、幼い姿形がこまっしゃくれた女の子にしか見えなくて、物凄く可愛く見えた。
思わず「しょうがないなぁ」などと言いながら、頭を撫で回す。
冷静に考えると、俺の姿形も大して変わらないんだけどね。
ミカゲの頭を撫でた瞬間。
身体の中から何かが抜けた感触がした。
ミカゲも「あっ」と小さく声を上げた。
「ミカゲさま。この方々は本当に?」
集落の一団で、最年長らしき男が、オズオズと尋ねる。
「暗黒神様に間違いない。今、1000年振りに縁が結ばれ、神力もいただけるようになった」
「おお!」
ミカゲが高らかに宣し、一同は慌てて跪こうとする。
「ああ、やめやめ。跪くの禁止」
慌てて叫ぶ。
ミカゲやヒイが、重ねて言ってようやく一同は、立ち上がった。
「いや。疲れた」
ようやく一段落ついて、ため息をついた。
正確に言えば、現在進行形で疲れているんだけどね。精神的に。
隠れ里の里人たちが解散せずに、熱い眼差しを向けているのだ。
なんか芸でもしなきゃ駄目かな。
「おかげ様で、神力が絶えず消滅せずに済みそうです」
ミカゲが、再度頭を下げる。
「んじゃ、このままこの里を維持する?」
「それについてですが、近くの街でこの里の存在が噂されているようです。出来れば引き払ってクラキ様の元へ向かいたいのですが」
ミカゲの言葉に、それでいいのかと里人たちの方を見るが、揃って頷いている。
「隠れ里が見つかっては、暗黒神様への信仰もしにくくなります。おそばに住う事をお許しいただけるなら、ありがたいです」
長老らしき老人が頭を下げた。
「里の人数は?」
「70人ばかりです」
「なら受け入れられるか」
ヒイたちの方を見る。
「十分に可能かと」
「移動の準備にどれほどかかる?」
「3日もいただければ。ただ」
「ただ?」
「昨日より子供たち5人が、行方知れずになっております。彼らを探す時間をいただけると」
「そりゃ心配だな。俺たちも探す手伝いをしよう」
そう言った時、実にいいタイミングで男が走り込んできた。
「ミカゲさま。長。子供たちを見つけた!」
夜を徹して探していた者たちらしい。
「おお!どこにいた!無事か!」
「無事かどうかは、わかんねぇ。麓の冒険者たちの野営地に捕まってる!」




