41 ダークエルフ、ぶらり旅 その1
「隠れ里?」
ミイとヨーが、立ち寄ったある街でそんな噂を聞いたのは、神殿を出発して4ヶ月はたった夏の頃だ。
今のところダークエルフの生き残りに関する、有力な情報は得られていない。
そんな中に聞いた隠れ里の話に、ミイはさりげない様子を装うのに必死だった。
「隠れ里って、なにから隠れてるんです?」
昼食に立ち寄った飯屋の女中は、肩をすくめる。
「それがわかんないのよ。山師や冒険者の連中が、山の中で人を見たって言ってるんだけどね」
そこで、女中は声を潜める。
「それが黒い髪に黒い瞳らしいのよ」
「髪や瞳が黒い人は、そんなに珍しくないんじゃ?」
「でも全員が、らしいわよ」
「ああ、それは珍しいかもしれませんね」
ヨーが肯く。
「それに黒髪黒目は魔力が高いって言うじゃない。そんなのが集団で出て来て、ここから立ち去れ!って言うのよ」
女中は身震いして見せる。
「怖くない?」
ひとしきり噂話をして、女中が立ち去る。ミイとヨーは、食事と雑談を続けていたが、周囲の注目が自分たちに向いていない事を確認すると、雰囲気を変えないように注意しながら話題を変えた。
「どう思う?」
「同類の可能性は低いけど、無視もできないかな」
「だよな」
隠れ里調査の方針は、あっさりと決定した。
噂話を集めると、隠れ里があるとされる山は、この街から歩いて2日程の距離にあるらしい。
内容は4、5人の黒髪黒目の集団から警告されたものから、その集団が美男美女だらけであったとか、果ては魔物を従え魔剣を持っていたとか、いろんなバリエーションがあった。
一番ぶっ飛んでいたのは、美女の集団に歓待され、子種を求められて3日3晩過ごした挙句に、魔法をかけられ奴隷にされてその山の番人になっている、という奴だった。
どうして、その話が街に伝わっているか、一切説明がないのが、実に雑である。
眉唾な内容が多い中、場所だけは共通している。
「あの山に何かがあるのは、間違いがないのかな」
少しずつ大きく見えてくる、件の山をヨーは見上げる。
街を出てちょうど、目的の山まで半分といったところだ。
街から少しずつ標高を上げて、周囲は高原と呼んでいい地形になっている。
樹木も少なく、空気も薄くなっているようだ。
1時間ほど前に歩いていた辺りは、薄らと道らしきものがあったが、今は周囲に人の立ち入りを示す形跡はない。
「隠れるにはいい場所になってきたな」
「でも土は痩せているし、木々も動物も少ない。生活に苦労しそう」
「魔物すら少ないみたいだしな」
目的の山は、この場所よりは緑豊かに見える。
「あそこなら、少しはマシかもしれない」
「だといいけど」
二人は再び歩みを進めた。




