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40 神託と信徒

我は暗黒神

暗闇を統べる者


我が信者たちに告げる


我は悪意を望まず 死を求めず 滅びを嘉せず


暗黒は邪悪にあらず


弱き者を護り 傷口を隠し 全てを受け入る


信者たちよ 忘れる莫れ


我は暗黒神

暗黒の司



◇◇



突然ですが神託に成功しました。


それも夢の中で。


昨夜の夢で「おお暗黒神よ 神託を忘れてしまうとは情けない」とか「おにいさま。情けないです!」とか、女性たちから責められる夢を見て、その続きでサックリと成功した。


少なくとも俺の周りにいる連中には、届いていた。ミイとヨーからも、神託があったと念話で知らせてきたので、ある程度の範囲で届いているのは間違いないだろう。


極一部に「いつものクラキ様と雰囲気が違う。プププ」とナチュラルに煽られたが、世の信者たちに生贄などの変な事はヤメロよと発信できた俺は、気にしない。


加護を弱めてやろうか、と一瞬思ったくらいだ。


まあ、この神託で妙なマネをする連中が、少しでも減ればいいんだけどな。



◇◇



「大僧正様」


暗い部屋の中、巨大な机で書き物をしている男の前に影が二つ、跪いた。


「何用か」


机の前の男は、顔も上げずに問う。


「信徒共に動揺が広がっております」


「動揺?」


影の声に少し顔を上げたが、その表情は見えない。


「先だっての神託とか称するものが原因か」

「御意のとおりにございます」


「愚かな」


男は再び顔を下げる。


「暗黒神様が、あのような神意を示されるはずがないではないか」

「ですが、実際に」


女の声が反論しようとするが、男は構わず続ける。


「考えてもみよ。あの神託とやら、暗黒神様の御名や闇という言葉を除くと、誰が言いそうに思える?」


「ま、まさか!」

「光明神!」


驚きの声が上がる。


「忌々しい光明神や、その眷属が言いそうな事よ。暗黒神様が未だ復活せぬ中、少しでも教団の力を削ごうという計略であろう」


「な、なるほど」

「御慧眼、感服仕りました」


男は軽く頷いて、影たちの称賛を受け流した。


「みなの蒙昧を拓いてやるがよい」

「ハッ!」


所詮、人は自分の信じたいことしか、信じないようである。


◇◇


大きな町からは遠く離れた山の中。もっとも近い人里まで歩いて2日ほどもかかる場所に、その集落はあった。


住うのは30人程の、隠れ里である。


彼らが、この山に人目を避けて暮しているのには理由がある。

彼らは「闇の民」と自称する集団なのだ。


伝承では、数百年前にあった暗黒神殿を中心とした国家の末裔だと言う。

暗黒神が封印され、周囲の国々から攻め込まれ、その国が滅びた後に逃げ延びた人々が、作った集落なのだ。


「それから500年以上たち、他の隠れ里も次々と消え去る中、よもやこんな事があろうとは」


自然と集まってきた住人たちの中心で、初老の長が涙を流しながら天を仰いだ。


「運命を恨まず、争いを避けてここに隠れ住んだ先祖たちの決断は、正しかった」


「長!」


周囲の住人たちも、手を合わせながら泣いている。


「みなの衆。暗黒神様を悪神などと貶める者を信じず、穏やかにここで暮してきた御先祖様も我々も、正しかったのだ。昨夜、皆に降った神託が、その証拠だ」


「おお!」


「これからも、驕らず穏やかに暗黒に包まれながら、日々を暮していこう!」


正しい信仰を持ち続けてきた者たちの表情は、明るい。

ただ、世界を見回しても、その数は絶望的なまでに少なかった。




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