33 暗黒神、光の騎士を見守る その1
時間は、俺たちが拐われた頃に戻る。
「この中で座っておけ」
男たちが俺とヒイを取り囲み、床に描いてある魔法陣を指し示した。
中央部に小粒ではあるが、魔石を4つも使っている魔法陣だ。
なかなかに複雑なモノだな。
(ヒイにはわかるか?)
念話で尋ねる。
ヒイは微かに首を横に振った。
(わたしには難しすぎます)
「ほら、早く入れ」
突き飛ばすように、俺たちを魔法陣の中に入れる。
自分たちは入らないように、注意しているようだ。
まあ気持ちは分かる。
(実は見た目ほど複雑じゃないよ。これは、2つの魔法式を組み合わせているんだ)
それも紋章のように、式の共通部分を組み合わせて、多重化しているわけじゃない。ただ並べて書いてあるだけだ。
(外周部には、俺たちを逃がさないための結界の式が書いてある。普通の結果の逆で、外側からなら出入りができるが、一回完全に入ってしまうと、出られないようになっている)
(ああ、わかりました。ここで、結界の内と外を入れ替えているんですね)
突き飛ばされて、倒れ込んだままに見えるヒイが、目立たぬように魔法陣の一部を指した。
「おい。あまり魔法陣をいじるなよ。消すことなんてできねぇが、万が一のことがあると暴発するぞ」
見張りに残っている若い男が、揶揄うように言う。
ヒイは、それに驚いたように指を引っ込めた。
役者や。
まあ、もう俺が書き換えちゃったんですがね。
内側の魔法式はちょっと凶悪だったので、すぐに無効化した。
一度励起すると、外部からのトリガーが失われた瞬間に、地面から無数の石の刃が生えてくるというものだ。
正直、俺だけなら余裕で防げそうだし、ヒイも結界を発動させれば、大丈夫そうなんだが、万が一が怖いので、サクッと書き換えた。
もちろん、簡単に書き換えられないようにプロテクトされていたが、そこは腐っても神様。なんら問題にはならない。
俺の承認なく内側の式は、作動しなくなっている。
(家の外が騒がしいですね)
簡単に俺が施した処置をヒイに説明して、ついでにフウたちにも連絡をとった。明日にでもリシュルに連絡を入れてもらうことにしてある。
そんな中、外で山羊がメエメエとうるさく鳴いていることに、ヒイが気付いた。
「山羊さん鳴いてるけど、どうしたの?」
可愛らしく見張りに聞いてみた。
まさか殺してるんじゃないだろうな。事が終わったら、神殿に連れて帰るつもりなんだから、大事に扱って欲しい。
「歓迎の準備さ。すぐに終わる」
見張りは嫌な笑いを浮かべているが、その対象は俺たちではなさそうだ。
ろくでもない事であるのは、間違いなさそうだが。
注意深く、魔力の流れを追ってみる。
透視が使えれば、いろいろ捗るんだがなぁ。
今のところ自重して、開発も思い出すこともしていない。
その気になれば簡単に使えそうなのだが、自分でも、碌な事に使わないという自信が漲っている。
ならば、使えないままにしておく方がいい。
植木職人や仕立て屋になる気はないのだ。
それに魔力を追っていくだけで、一応生物の位置は推定出来る。
どうやら山羊は、男たちの手で、この小屋を等分に取り囲むように繋がれている。
これが6頭。
さらに1頭は、屋根?
なんだ。このあからさまに怪しい配置は。
さらに注意深く山羊の魔力を調べてみる。
すると、本来の山羊の魔力の流れに紛れて、人為的な魔力の流れがある。
おそらく、魔法式を刻んだ石でも飲み込ませたのだろう。
その魔法式を1頭1頭読み解いてみる。
「凝った事したなぁ」
感心半分呆れ半分で、思わず声が漏れた。
分割した魔法式を山羊の体内に潜ませ、山羊の配置によって生きた魔法陣を構成しているのだ。
屋根の上の山羊をキーにして、山羊の生命を糧とした大威力の火炎魔法で、この小屋を焼き尽くすという自爆用だろう。
発想は面白いが、素直に魔法陣を隠蔽した方が目立たないと思うが。
しかもこれ、山羊の位置を変えてしまうと発動しないし。
たぶん、思い付きに酔っちゃうタイプが考えたんだろうな〜。
俺も似た傾向があるので、ちょっと親近感がわく。その親近感がわくきっかけが、俺たちを殺そうとする魔法陣というのは、如何なものか、とは思うが。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
思ったよりクラキ視点が長くなったので、分割しました。
冗長に感じられたら、申し訳ありません。
さらに蛇足。
「植木職人や仕立て屋」: 昔、世の東西に亀吉という男とトムという男がおってな。




