32 光の騎士、暗黒神を救う その5
「しまった!!」
パルモが痛恨の呻き声を上げた。
リシュルに集中している時に、突如背後で大きな音がしたために、左手を石盤から離してしまったのだ。
その間にも、開け放たれた裏口から、小さな影が二つ。疾風のようにクラキたちに駆け寄る。
そして、2人の腕を腕を引っ張って、一気に魔法陣の外に引っこ抜いた。
「貴様!」
気がついた男たちの1人が、逃すまいと手を伸ばし、魔法陣の中に足を踏み入れる。
その瞬間。
魔法陣一面に、1メートルほどの鋭い石のトゲが伸びる。
「ガッ」
足を踏み入れた男は、一瞬で絶命した。
リシュルやフウたちも、クラキが魔法陣を脱出したのを確認すると、瞬時に動いている。
リシュルの加護を試す為に接近していた男たちに、当身を食らわせ武器を奪う。
更に肩や膝に一撃を与えて、無力化する。
「ピア、ミリ。ありがとう」
クラキが、助けてくれた2人の頭を撫でた。
誘拐犯たちで無事なのは、パルモたち3人だけだ。
獣人幼女たちが突入して30秒も経っていない、怒濤の制圧だった。
「抵抗しなければ、殺しはしないぞ」
リシュルは、肩を竦めた。
「少なくとも、ここではな」
「くそ!こうなったらッ」
パルモは血走った目でリシュルを睨みつけると、左手を机の上にのせる。
先ほどとは、違うもう一枚の石盤の上へ。
「暗黒神様!我が身と光明神の手先を牲としてお受け取りを!」
そう絶叫するパルモ。
………。
リシュルたちが身構えるが、なにも起こらない。
「ば、馬鹿な。なぜ発動しない!」
パルモは呆然と左手を置いた石盤と天井を交互に見やる。
メエェェ。
裏口から、ひょいと山羊が顔を覗かせた。
「まさか。そんな」
パルモが呟く。
「かわいそうだから、先に屋根から下ろしておいた」
ニッコリ笑ってミリが言う。
その言葉にパルモがへたり込んだ。
ガックリと項垂れるパルモの耳に、外で子供が叫んでいる声が聞こえる。
「リスペクト・シュート!」
それに続いて悲鳴らしき声も聞こえたが、パルモにそれを気にする余裕はなかった。
◇◇
真っ暗な部屋の中で、男は先ほどもたらされた報告書を握り潰す。
そこには、彼の命じた光明騎士襲撃計画が失敗した「らしい」と書かれていた。
あいまいな表現なのは、彼の送り込んだ人間が全て捕らえられ、正確な情報が得られない為だ。
念の為に、実行部隊とは別に送り込んでいた監視役とすら、連絡が取れない。
「これも暗黒神様に与えられた試練なのか」
呻くように言った男は、その言葉が意外なほどに真実を言い当てている事を知らなかった。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
次話でクラキたちから見た事件の顛末が、語られます。




