28 光の騎士、暗黒神を救う その1
「暇ですね」
スオナーデの代官屋敷の一室で、リシュルはソファーに半ば寝転びながらぼやいた。
「行儀が悪いですよ」
メリアが呆れたように言う。
彼女たちに与えられた部屋は、屋敷の中でも最高級の客間で、辺境の町とは思えない豪華な丁度品を揃えいる。
だが、彼女たちの出立は、町にふさわしい狩猟者風の格好である。
「仕方ないじゃない。程のいい軟禁状態みたいなものですもの」
「人聞きの悪い事は言わないで下さい。ちゃんと出入りはできます」
そこまで言ってメリアが嘆息する。
「まあ、どこに行って何をする気か根掘り葉掘り聞かれますが」
侍女たちは、リシュルに代わって町中で情報収集をしているが、その内容を代官は非常に気にしていた。
「仕方がない事ですけどね。教会の威光があるとはいえ、他国の人間。あまり大きな顔で、町中を詮索されては、代官殿も困るでしょう」
リシュルが肩を竦めると、豪奢な金髪がその上を滑っていく。
控え目なノックの音がした。
招き入れると、素朴な顔立ちのメイドが遠慮がちに入ってきた。
「失礼します。門前に、リシュル様に面会したいと申す者が参っているのですが。絶対に、この屋敷にいるはずだから、と」
「ああ」
リシュルの脳裏には、幼いくせに生意気な物言いをする男児の姿が浮かんだ。
「子供を連れた女性たちね?」
「はい。フウとユキと名乗っております」
「確かに知っています。お通ししてあげて」
いい暇つぶしの種と情報源がやってきた、とリシュルは微笑んだ。
そして、その期待は彼女の予想を遥かに超える形で応えられる。
「誘拐?」
リシュルは形の良い眉を上げた。
予想に反して、小生意気な男児と巨乳のお付き1名がかけた一行は、部屋に入って来るなり、そんな事を言い出した。
「はい。主人のクラキとお付きのヒイが、昨日から戻ってきません」
巨乳の片割れフウが言った。
焦ってはいるようだが、誘拐を心配している人間にしては、落ち着いているようにも感じる。
リシュルがそんな事を思う。
もう少しパニックになってもいいのではないか、と。
事情を聞けば、確かに誘拐を疑うのも無理もない状況だ。
ヤギの購入を口実に、誘い出されたように思える。
しばらく途絶えていた、幼児の行方不明が再び起こったのか、リシュルは疑った。
「いえ、大人と一緒というのは、今までと状況が違う」
リシュルが口に出して言うと、メリアが頷いて同意を示した。
「もしかすると、ヒイさん目的かもしれません」
あれだけ美しくスタイルの良い女性だ。タチの悪い連中に目をつけられる恐れは、充分ある。
その場合は、残念だが用のないクラキという小生意気な男児は、無事ではないだろう。
「あの農夫が誘拐の一味であれば、その者たちは、私たちが家畜を探している事を知っていました」
ユキというスレンダーな女性が、指摘した。
当たり前だが「ヤギを見ないか」と言われて、ホイホイついて行く人間は、限られている。
「それに私たちが分かれて宿に戻る時も、相手はなにも言いませんでした」
フウにしてもユキにしても、幼い獣人の幼女たちにしても、そうそう見かけない美しさだ。
ヤギでクラキたちが引っかかると思うほど下調べをした連中なら、見逃すとも思えない。
ならば、女性が目的語ではないのか。そもそも、誘拐ではなく、思いがけない事故の類いなのか。
そこまで考えを巡らし、リシュルはハッとした。
クラキたちが家畜を探しているのを知っている連中ならば、その際リシュルが同行していたのも、知っている可能性が高い。
しかもその後の金光騎士とのやり取りで、リシュルの素性も推定がつく。
リシュルは、スクッと立ち上がった。
「クラキ君たちと別れた場所まで案内してください!」
本当の狙いはリシュルで、クラキたちはトバッチリの可能性がある。
「もし、私への人質の為に民に仇なすなら、後悔させてあげましょう」
リシュルは、整った面立ちに冷たい怒りを浮かべながら、呟いた。
拙い小説を読んでいただき、どうもありがとうございます。
今年の更新は、これで終了し来年7日から再開する予定です。
来年も読んでいただけると、これ幸いでございます。
それでは、良いお年をお迎えください!
2020/01/06: 話数が間違っていたので訂正しました。




