27 暗黒神、光の騎士に出会う その7
しばらく買い物を続けていると、近寄って来る男がいた。
40代くらいの実直そうな農夫に見える。
ただし、頭の上には薄い赤色の球体。
「あんたたち、昨日牛や羊を買ってた人たちだよな」
店に入らず、少し離れていたフウに話しかけている。
「あなたは?」
一緒にいたピアとミリをさりげなく庇い、フウが尋ね返す。
「ああ、こりゃすまねぇ。俺は、町の外で農家をやってるパルモってもんだが、もうこの町を引き払おうって思ってな。んで、飼ってたヤギを引き取ってくれる人を、探してるんだ」
パルモと名乗る男は、一気に捲し立てた。
その様子は、善良そうな農夫にしか見えない。
その両手以外は。
パルモの両手は、農夫にしては綺麗過ぎた。
「どうしましょう?」
フウは、戻ってきた俺たちに対して尋ねた。
フウにしてみれば、俺に言ったのだろうが、パルモは一緒にやってきたヒイとユキに言ったと思ったのだろう。
二人におもねるように、言葉を続けた。
「さすがにタダじゃ困っちまうが、安くしとくよ」
「何頭いるの?」
俺が可愛く尋ねる。
パルモは、意外な人間が口を開いたので、驚いたようだが、すぐに気を取り直す。
「7頭だ。雄が3頭に雌が4頭だ」
ふむ。たぶん嘘だけど、俺たちへの餌として実際に用意してれば儲け物だな。
問題は、俺たちを狙う意図が良く分からない事だ。
「ヤギを見せてもらえる?」
「もちろんだ。町を出てちょっと歩くが」
パルモは愛想良く言う。
「荷物があるから、僕とヒイだけで行こう。みんなは荷物を宿に持って帰っててよ」
俺の声を聞いても、パルモの表情に変化はない。
俺たち自体が狙いである可能性は、だいぶ下がったな。
俺は全員を連れて、少しパルモから距離をとった。
そして少し声を潜めて、フウたちに伝える。ただし、微妙に彼に聞こえる程度の大きさだ。
「夜になっても戻らない時は、リシュル様に相談して」
パルモの表情に、特に変化はない。
だが頭上のタグの色が、更に赤味を帯びた。
なるほど。リシュルがらみか。俺たちを人質にしようとでもいうのか。
確かにリシュルには有効だろう。あの金光騎士は、微妙だが。
念話で、簡単に作戦を立てると俺とヒイはパルモについて行く。
ヒイに左手をひかれて、小脇にボールを抱えて移動を開始すると、周囲の赤タグの一団も一緒に移動し始める。
一人だけ残って、フウたちの監視を継続するようだ。
(フウ。右手にいる黒髪の男は、監視だ)
(わかりました)
念話なので、言葉だけでなくイメージも送っている。
念話だけではないが、魔法は便利過ぎるな。こんなもんがあれば、科学技術が発達しないはずだ。
パルモについて行きながら、道筋はリアルタイム中継中だ。
東の門から町を出て農村部に入ると、南の方の道を行く。
「還らずの森の方に近いんだね」
パルモに並びかけるようにして言った。
「お、良く知ってるな。坊主。おじさんのとこは森に近くてな。魔物が良く出るんで、もっと王都に近い場所に移ろうと思ってな」
なるほど。もっともらしいシナリオだ。
実際、今歩いている周辺は、あまり農家はなく。たまにあっても荒れている印象だ。
「ほら、あそこだ」
正面に結構大きな家が見えてきた。
が、あまり人の住んでいるような気配はない。
周囲の畑も、畑と言うよりはただの荒地だ。雑草だらけである。
こりゃ放棄された農家を勝手に使っているな。
ただラッキーな事に、ヤギは本当にいた。
杭に繋がれた荒地の雑草を、モシャモシャと食っている。
「かわいいなぁ」
驚いた事に全部子ヤギである。
実にかわいい。
だがこれ、俺たちへの餌に適当に近くの農家から買ってきやがったな。
実にグッジョブである。
君たちを駆逐した後で、慰謝料としてありがたくいただくとしよう。
「どうだい?」
パルモが尋ねる。
「特に病気なんかもなさそうだ。いくらで売る?」
俺の念話を受けて、ヒイが商談に入る。
「まあ、中で茶でも飲みながら話さないか」
パルモの方も、追い込みにかかったようだ。
良いよ。望み通りにしてやるさ。




