25 暗黒神、光の騎士に出会う その5
「じゃあ3、4日したら、引き取りに来ます」
そう言ってフウが、手付け金として大銅貨10枚を農夫に手渡す。
初老の農夫は、満面の笑みでそれを受け取った。
臨時の現金収入と、若く綺麗な女性たちに囲まれている事の両方からくる笑みだろう。
やや貧弱な体格だが、若く元気な牡牛が大銅貨30枚。俺の感覚だと約3万円相当といった感じか。
だいぶ安いんじゃないがと思うが、幾ら景気が良いとはいえ、辺境の農民には現金収入の手段が限られているようだ。
随分と喜ばれている。
俺たちは、森で狩った魔物の素材を狩猟者ギルドに売って、かなりの現金を得たが、普通の農民は、そうはいかないもんなぁ。
もっとも農家の三男、四男が狩猟者ギルドに登録して、一獲千金を狙うのは、良くあることのようだ。そして、夢破れる事も。
取引中の雑談で農夫のおっさんに、さんざん愚痴をこぼされた。
それもこれも、リシュルが興味深そうな表情で、おっさんの話に相槌を打っていたからだ。
その挙げ句に、狩猟者風にも見えるリシュルの格好に「そんなヤクザな商売を若い女性がやるもんじゃない」と、説教を始められていた。
なんで俺が「いや彼女は俺の護衛で」とか、庇わにゃならんのだ。
「面白かったわね」
農夫のおっさんと別れて、街に戻る道すがら、リシュルはご機嫌で言う。
「いやいや、余計な話が多くて疲れただろう」
半分以上、嫌味で言ってやった。
「そう?いろいろ聞けて参考になるじゃない」
「左様ですか」
全然、嫌味の効いていないリシュルの様子に、諦めたように返した。
「クラキ殿は、本当に子供なのかしら。話し方も大人らしいし、妙に知識もあるし」
リシュルは、俺の顔を覗き込んだ。
「買った家畜たちも、妙にクラキ殿の言う事をきいていたし」
それは彼女の言うとおりだった。
さっきの牡牛を含めて牛2頭に羊を5頭買ったが、選んだ家畜も見せてもらった家畜も、飼主たちが驚くほどに俺に従順だった。
俺が暗黒神だからかな?
その割に森の魔物も、獣たちも従順なんてことはなかったけど。
全力で抵抗したり、殺しに来てたけどな。
俺自身の方が敵対しようとしているか、飼おうとしているかの差かな?
今度、試してみよう。
「見て通りの子供ですよ、純真な。動物たちの懐き方でもわかるでしょ?」
「その物言いがねぇ。実は大魔法で若返った元老人と言われた方が、納得できそう」
リシュルが天を仰ぐ。
失礼な。前の世界じゃアラサーだったが、一応20代だぞ。
そして、なぜ大きく頷いている。ユキ。
「クラキ様は、利発でいらしゃいますから」
うん。ヒイとフウが俺の心の安らぎだよ。
ああ、ピアとミリも可愛いぞ。
スオナーデは、還らずの森の魔物や西側にあるダンジョンの魔物を狩って、その素材で潤っている町だ。
なので狩猟者が多く、あまり柄が良いとは言えない土地柄だが、今俺たちのいる北側は、田園地帯でそれなりにのんびりとしている。
しかも1万余りの人口を支える農地なだけに、かなり広い。
森の中に隠された神殿と比べると、開放感が段違いだ。
だから、遠くの方からやってくる、金ピカに率いられた集団も良く見えた。
リシュルの表情は判りやすく面倒くさそうだ。
ヒイとフウの影に入って、目立つ金髪に布を巻こうとしている。
手遅れだし、かえって目立つと思うけどな。
「リシュル様ではないですか。お付きの方々は、如何なされたないですかで?」
案の定、バッチリ見つかって馬上から声をかけられている。
しかし作法はよう判らんが、こういう時は馬から降りるのが礼儀じゃないんかね。
「あ、ああモトン卿か。あまり目立ちたくないんだ。のちほど宿舎に伺おう。代官の屋敷でいいのかな?」
慌てて態度を取り繕ってリシュルが言う。
まあ、目立ちたくないのは本当だろう。
金ピカの鎧の場違い感がもの凄い。のどかな田園風景の中に、完全武装の金ピカ騎士がいるのだから。
さすがに兜面は上げていて、若い騎士の顔はわかるが、彼の表情に羞恥の色は一切見られない。
付き従う従者たちの表情にも。
俺たち?
もちろんジリジリと下がって、距離を取ろうとしていますが?
一瞬、リシュルがこちらを見て裏切られた、といった表情をした。
本当はもっと距離を取りたいんだよな。周囲で作業をしている農夫たちが、明らかにこっちを注目しているし。
「いやいや、リシュル様にお会いできたからには、今後の方針を定めねばなりません。是非、今すぐにでも打ち合わせを」
「打ち合わせもなにも、卿と我々は別行動と事前に取り決めている。予定通りに行動しよう」
「しかし、情報の確認もしないのでは非効率に過ぎます。シャイナ。馬にリシュル様をお乗せせよ」
「はっ」
従者たちの中で唯一の女性が、馬を寄せてきた。
リシュルに手を差し伸べると、彼女は諦めたような表情で、シャイナの後ろに飛び乗る。
馬が驚きもしない滑らかな動きで、身体能力の高さがうかがえる。
リシュルは、こちらの方を振り向くと、声に出さず口を「いずれまた」と動かした。
モトンという金光騎士やその従者は、こちらを見もしない。
あまり関わりたくないので、好都合ではあるが、ここまで無視されるとちょっと腹が立つ。
リシュルたち一行は、そのまま町の方へと去っていった。




