第9話:門が開く時、神話が語り始める。
――ドォォォン!!
重厚なオーク材で作られたパーティー会場の大扉が、中側からではなく、外側から物理的に破壊された。
悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たち。その間を縫うようにして会場に流れ込んできたのは、煌びやかな礼装を纏った客人ではなく……泥に汚れ、汗を流し、怒りに燃える「王都の民」たちだった。
「リリアーヌ様はどこだ!」
「真実を隠す卑怯な王子を、表へ引きずり出せ!」
数千人のリスナーたちが、ある者は手に松明を、ある者は共鳴石を掲げ、この神聖なる学園の最深部まで押し寄せてきたのだ。
配信という魔法が、ついにこの国の階級社会を、物理的に突き破った瞬間だった。
「ひ、ひ……っ! 騎士! 騎士共、何をしている! この暴徒どもを追い払え!」
シリウス王子の情けない叫び。
だが、すでに剣を収めた近衛騎士たちは動かない。それどころか、教会の聖騎士たちでさえ、眼前を埋め尽くす民衆の圧倒的な数と熱気、そして「彼ら全員が今の自分の醜態を見ている」という事実に、武器を向ける勇気を失っていた。
「皆様、お静かに。……そして、ありがとうございます」
私は、会場の中央で凛として立ち、荒れ狂う民衆の方を向いた。
私のその一言だけで、会場の騒乱は嘘のように収まった。
暴力ではなく、ただ「一人の令嬢の声」が、暴徒化した民衆を再び「良識ある視聴者」へと変えたのだ。
「私は無事ですわ。そして、皆様がここに駆けつけてくださったことで、司祭様のおっしゃる『沈黙』は、もはや意味をなさなくなりました。……真実は、すでに皆様の心の中にあるのですから」
私はそっとマルドゥーク司祭を見やった。
不敵に笑っていた審問官の顔は、あまりの事態の大きさに、今や蒼白を通り越して土色になっている。
「……あり得ん。たかが平民どもが、教会の権威を恐れず学園を侵すなど……!」
「司祭様。教会の権威は、民の『信頼』の上に成り立つもの。その信頼を自ら捨てたのは、他ならぬあなた方ですわ」
その時。
私の背後の大きな影が差した。
「……遅くなり、申し訳ありません。我が主」
低く、どこか懐かしい声。
振り返ると、そこには銀髪を夜風に揺らした護衛騎士、カイルが立っていた。
彼は私の肩を優しく、それでいて力強く抱き寄せ、マルドゥークと王子の前に一歩踏み出した。
「これ以上の非礼、騎士カイル・ド・ラ・ヴァリエールが許さぬ。教皇庁だろうと王族だろうと、リリアーヌ様の一髪にでも触れれば、全視聴者と共に、お前たちのすべてを焼き尽くしてやる」
カイルの手には、第3話で私に投げ銭を贈ったあの「銀の魔力」が宿っている。
彼はただの騎士ではなかった。
誰よりも早く「情報の力」を理解し、陰ながら私を支え続けてきた、最強のサポーター。
【通知:総視聴者数 500,000人突破。世界ランキング:201位】
【緊急通知:上位存在『運営』よりメッセージを受信しました。――『面白い。サービス継続を承認する』】
私の脳内に、私にしか聞こえない無感情な声が響いた。
運営?
サービス?
この世界の真実がどこにあるのか。それはまだ分からないけれど。
「シリウス殿下。そしてマルドゥーク司祭様。……次は、あなた方の『居場所』を、まるごとマーケットへ出品させていただくとしましょうか」
私はカイルの守りの中で、史上最高に美しい、そして史上最高に冷徹な微笑みを世界へと届けた。
第9話、お読みいただきありがとうございました!
ついに騎士カイルがリリアーヌの前に膝を突きましたわ。
「孤独な配信者」だった彼女にとって、物理的な剣を持って隣に立つ味方の存在が、どれほど心強いか。崩れ落ちる王子と、それを見限ったカイルの対比、お楽しみいただけましたでしょうか?
次回、第10話「聖女の正体を暴く、魔眼。」。
ついに「偽聖女」エレンのメッキが剥がれ落ちる、衝撃の魔眼解析編ですわ!その醜い本性、全世界へ高画質配信して差し上げますわよ!
もし「カイルの忠誠に痺れた!」と思っていただけたら、最後にチャンネル登録や評価(いいね・応援スパチャ)をお願いいたしますわ。
皆様の応援が、リリアーヌの次の配信の「画質(解像度)」を向上させる、最高の広告費になりますのよ!




