第8話:光が消えても、声は死なない。
「神聖なる静寂!!」
マルドゥーク司祭の絶叫と共に、聖騎士たちが一斉に法杖を地面に叩きつけた。
視界を埋め尽くすほどの白い光が爆発し、次の瞬間、私を囲んでいた紫色の光球たちが、ガラス細工のように儚く粉々に砕け散った。
壁に映っていた外界の光景も、チャット欄の賑わいも、一瞬でかき消え、パーティー会場には不自然なほどの静寂が戻った。
「……終わったな。魔女リリアーヌよ、汝のまやかしの窓は今、永遠に閉ざされた」
シリウス王子が、荒い息を吐きながら勝ち誇った笑みを浮かべる。
エレンも、涙を拭いながら「神様、ありがとうございます……」と芝居がかった祈りを捧げた。
会場の貴族たちも、どこか安堵したような表情を見せる。自分たちの不祥事がこれ以上拡散されないという安心感が、彼らの顔に醜く張り付いていた。
けれど。
私は、砕け散った光の破片を眺めながら、静かに、そして深く息を吸い込んだ。
「あら。殿下、そして司祭様。……映像が消えれば、真実も消えるとお考えなのですか?」
「往生際の悪い。魔力接続は完全に絶った。貴様の声は、この部屋の外には一歩も出ぬ!」
「ええ。そうかもしれませんわね。……この『部屋』の外には」
私は、ドレスの裾に隠していた、もう一つの小さな魔石――『音声特化型共鳴石』のスイッチを入れた。
それは映像を送るほどの帯域は持たないが、ただ一つの波形を、王都中のすべての家庭にある『調理用魔導具』や『街灯の魔導石』へと、微弱な振動として伝えることができる代物。
「皆様……。聞こえていまして? リリアーヌですわ」
私の声が、会場の静寂を切り裂き、代わりに壁や床そのものを震わせ始めた。
「今、私の目には何も見えませんの。教会の力によって、映像が奪われてしまいましたから。……けれど、不思議ですわね。光が奪われた暗闇の中でこそ、皆様の『心』が、以前よりもはっきりと見える気がいたしますのよ」
会場の外。
暗い夜の王都の至る所で、調理器具から、街灯から、そして民衆たちの手の中にある護身用の魔石から、私の声が響き渡った。
映像がないからこそ、人々はリリアーヌの「凛とした、けれどどこか悲しげな声」に耳を澄ませる。
『おい、聞こえるか? リリアーヌ様の声だ!』
『教会が映像を消したって!? なんて卑怯な……!』
『「光が奪われた暗闇の中でこそ」……うう、なんて美しい言葉だ……』
「司祭様。今、この瞬間も、あなたのその冷酷な笑い声は、全世界に『音』として響き渡っておりますわ。……皆様、想像してくださいまし。今、この会場で、聖職者が無抵抗な令嬢に何を行おうとしているのかを」
「な、……貴様ッ! 止めろ、その石を壊……!」
マルドゥークが慌てて手を伸ばすが、もう遅い。
会場の外では、我慢の限界に達した民衆たちが、ついに実力行使に出始めていた。
ドォォォン!!
学園の正門を、物理的に突き破る音が会場まで届いた。
それは魔法ではない。
数千人の男たちが肩を組み、ただの木の丸太で門を叩き壊した音だった。
「リリアーヌ様を返せ!」
「教会の嘘つきどもを追い出せ!」
地響きのような怒声が、次第に近づいてくる。
「殿下、司祭様。……これが、あなたがたが軽視した『持たざる者たちの声』の重みですわ」
私は、暗闇の中でも決して揺るがない微笑みを湛え続けた。
光を消したことが、逆に教会の『闇』を浮き彫りにしてしまったのだ。
【システム:音声配信継続。熱狂度が極大化。】
【通知:累計スパチャ額が『学園買収』に必要な額の半分に到達しました。】
(さあ、第2ラウンド。声の魔法で、あなた方の『聖域』を文字通り踏み潰して差し上げますわ)
第8話、お読みいただきありがとうございました!
映像が消えたからこその「ラジオ配信」回でしたわ。
視覚情報がない時、人は想像力で物語を補完しますの。リリアーヌの清廉な声が、民衆の怒りに最後のガソリンを注ぎましたわね。物理的に門を破って乱入してくるリスナー(暴徒)たち……。もはや配信という枠を超えた、国規模の革命が始まろうとしていますわ!
次回、第9話「門が開く時、神話が語り始める。」。
第一部・学園編のクライマックス直前! ついにあの騎士カイルが、混乱に乗じてリリアーヌの目の前に……!?
もし「リリアーヌの声、心に響いた!」と思っていただけたら、最後にチャンネル登録や評価(いいね・応援スパチャ)をお願いいたしますわ。
皆様の応援が、リリアーヌの共鳴石を震わせる「最高出力のコメント」になりますのよ!




