第7話:聖女の盾、教会の矛。
「異端……? 私が、ですわか?」
私は、ゆっくりと拍手しながら歩み寄ってきた男――漆黒の法衣を纏った教会司祭、マルドゥークを扇子の隙間から見据えた。
彼の胸元に輝くのは、教皇庁直属の『異端審問官』を示す銀の天秤。
それは、この国の法律さえも平伏させる、絶対的な宗教的権威の象徴だった。
「左様だ、公爵令嬢リリアーヌ。汝の操るこの奇妙な魔法……民を熱狂させ、王権を揺るがすその力は、神への冒涜に他ならぬ。教皇庁の名において、その魔法の即刻停止と、汝の身柄を教会へ移送することを命じる」
マルドゥークが言葉を発するたびに、会場の空気は再び重く沈んでいく。
王子の嘘は暴かれた。民衆の支持も得た。
だが、この世界において『教会に睨まれる』ということは、社会的な死どころか、魂の否定を意味する。
「司祭様……! ああ、神は私を見捨てていなかった……!」
床に崩れ落ちていたエレンが、すがるような目でマルドゥークを見上げた。
そうだ。彼女は『聖女』。教会の権威を守るための看板。
教会にとって、聖女が偽物であると認められることは、宗教的な信頼失墜を意味する。ゆえに彼らは、真実がどうあれ、リリアーヌを『悪』としなければならなかった。
「リリアーヌ様……。神に従ってくださいまし。あなたの罪、私が教会の地下で、何年もかけて浄化してあげますから……くふ」
エレンが、私の耳元だけに届くような声で、歪んだ笑みを漏らした。
絶体絶命。
物理的な暴力である騎士団は退けられた。しかし、精神的な束縛である『信仰』という壁が、再び私の配信を遮ろうとしている。
(――いいわ。最高のアングルじゃない)
私は、震える内心を知略で上書きした。
これまで「王子ひとりの醜態」だった物語が、今や「腐敗した教会権力との戦い」へと昇華したのだ。
視聴者数(魔力)は、かつてない勢いで跳ね上がり続けている。
「司祭様。私は神を冒涜しておりませんわ。むしろ、神が与えくださったこの『真実を映す目』を、より多くの民と共有したいと願っているだけ。……もし、教皇庁がそれを禁じるというのであれば、それは教会こそが『民に知られたくない不都合な真実』を隠していると、全世界に宣言しているようなものではなくて?」
「不届きな……。物理的な沈黙が必要なようだな」
マルドゥークが指を鳴らす。
すると、パーティー会場の四隅から、教会の『聖騎士』たちが現れた。
先ほどの近衛騎士たちとは違う。彼らは「神の命令」という狂信的な正義を持ち、世間の評価すら恐れない、配信者にとって最も厄介な『物理的遮断者』だった。
「汝の魔法を構成する魔力核を、神聖魔法によって強制消去する!」
「あら、消せるかしら? 私の『通信網』は、すでに、この会場だけに留まってはおりませんのよ」
私は、空中に浮かんでいた紫色の光球たちを、あえて地上へと降ろした。
そして。
「皆様(視聴者)! 聞こえていまして? 今、正義を騙る教会が、真実を消し去ろうとしていますわ! もし私の配信が一時的に途切れたなら……それは、教会が『何か』を隠した証拠! 皆様の祈りを……いえ、『怒りの魔力』を、私に預けてくださいまし!」
『ふざけるな教会!』
『リリアーヌ様を守れ!』
『自分たちの不祥事がバレるのが怖いだけだろ!』
チャット欄が、紅蓮の炎のように赤く染まり始めた。
それは、単なる文字ではない。
数万、数十万の民衆が抱く『共通の怒り』が、魔力としてバイパスされ、私のもとへと流れ込んでくる。
【通知:システム限界突破。『アンチ・ヘイト・シールド』展開準備完了。】
「さあ、神の名を借りた審問官様。……世界の『声』に、勝てると思いますの?」
第7話、お読みいただきありがとうございました!
新たな強敵・教会の登場ですわ。
「神の名を出せば誰も逆らえない」と高を括る審問官マルドゥーク。ですが、現代的な『炎上(大衆の共有された怒り)』が、宗教的な沈黙をどう焼き尽くすのか。配信者リリアーヌの真の武器は、単なる映像ではなく「共感のリソース」にありますのよ。
次回、第8話「光が消えても、声は死なない。」。
映像魔法を封じられた極限状態で、リリアーヌが放つ『情報の矛』にご注目ください!放送は、止まりませんわ!
もし「教会の鼻を明かしてほしい!」と思っていただけたら、最後にチャンネル登録や評価(いいね・応援スパチャ)をお願いいたしますわ。
皆様の声(チャンネル登録)が、リリアーヌの魔力を最大出力へと引き上げる、最高の「高評価」になりますのよ!




