第5話:騎士の誇りか、画面の評価か。
「何をしている! その女を、リリアーヌを今すぐ捕らえろと言っているのだ!」
シリウス王子の叫び声が、静まり返った会場に虚しく響く。
だが、私を囲んでいる六人の近衛騎士たちは、誰一人として動こうとしなかった。
剣を握る彼らの手は、かつてないほどに震えている。
その視線は私ではなく、背後の壁に映し出された『自分たちの姿』と、その横を滝のように流れ落ちる『視聴者のコメント』に釘付けになっていた。
『おい、左にいる騎士、あれはバシュラール伯爵家の次男じゃねーか?』
『ああ、実家の名誉が聞いて呆れるな。無実の令嬢を囲んで、武器も持たない相手に剣を向けるなんて』
『俺、あいつの姉さん知ってるけど、実家の評判落ちるの嫌がってたぞ……。これ、明日の朝には親戚中に知れ渡るな』
「……っ」
左側にいた若手の騎士――レオンが、苦い顔をして一歩下がった。
「レオン! 貴様、何をしている! 命令だ、行け!」
「……不可能です、シリウス殿下。私の剣は、王家を守り、正義を貫くためのもの。……全世界の皆様の前で、この無実の令嬢に剣を向ける理由を、私は持ち合わせておりません」
「何だと……!? 貴様、反逆するつもりか!」
「反逆ではありません。……私の故郷にいる母にも、この映像は見られているのです。これ以上、家に泥を塗るわけには参りません」
レオンがカチャン、と音を立てて剣を鞘に収めた。
それを合図にしたかのように、他の騎士たちも次々と剣を収め、私に道を譲るように下がっていく。
これが、情報の力ですわ。
どんなに重い命令も、それが『公にされ、評価される』というプレッシャーの前では、紙切れよりも軽く。
「あら、皆様。賢明なご判断ですわね。騎士としての真の誇りは、命令服従ではなく、自らの行動が歴史の目に耐えうるかどうかにありますもの」
私はレオンにそっと微笑みかけ、優雅に彼の前を通り過ぎた。
レオンの頬が微かに赤らむ。
【通知:視聴者数 200,000人突破。世界ランキング:850位】
【通知:騎士団の好感度が急上昇! 新規フォロワー 5,000人獲得。】
(ふふ、騎士様たちを『味方側』として映せば、視聴率も上がる。一挙両得だわ)
私はパーティー会場の中央、立ち尽くすシリウス王子の目の前まで歩み寄った。
王子の顔からは血の気が失せ、代わりにどす黒い憎悪が滲み出している。
「シリウス殿下。証拠は暴かれ、味方の騎士たちもあなたの嘘には付き合えないとおっしゃっています。さて、ここでお認めになれば、まだ少しは『騙された哀れな王子』として情状酌量の余地がありますけれど……?」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ! 貴様ごときが、この私を、王家を評価するなど! ……エレン、あれを。あれを使え!」
王子の目が、完全に据わっていた。
エレンは一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、自分の社会的死(炎上)が目前であることを理解したのだろう。
彼女は懐から、禍々しい漆黒の魔力を帯びた『紋章』を取り出した。
「リリアーヌ様……。あなたがそこまで、邪悪な魔法で人々を惑わすというのなら……私は、聖女として、あなたの『呪い』を解かなければなりません!」
聖女の掲げた紋章から、パーティー会場全体を飲み込むような暗黒の波動が放たれた。
「あら、それは……」
私の前に浮かんでいた紫色の光球たちが、一斉にノイズを走り始め、映像が歪む。
これは、単なる物理攻撃ではない。
教会の奥深くに禁じられたとされる、魔力の通信を強制的に遮断する『沈黙の聖域』。
配信が、切れる。
物語の武器が、奪われようとしていた。
第5話、お読みいただきありがとうございました!
本作『完璧な断罪をありがとうございます。撮影準備はよろしくて?』、ついに騎士様が寝返りましたわね。世間の目(コメント欄)のプレッシャー、恐るべしですわ。
けれど、追い詰められた王子と聖女がまさかの禁じ手に……。「配信が止まってしまう」という、リリアーヌにとって最大の危機が訪れますわ。物理的な沈黙に、彼女はどう立ち向かうのか?
次回、第6話「『沈黙の聖域』に響く、真実の絶叫。」。
リリアーヌの真の機転が炸裂しますわ!配信者の意地、お見せいたしますわよ!
もし「このざまぁ、期待できる!」と思っていただけたら、最後にチャンネル登録や評価(いいね・応援スパチャ)をお願いいたしますわ。
皆様の応援が、リリアーヌの次の配信を加速させる、最強の機材コストになりますのよ!




