第3話:投げ銭の輝きは、救いの光
「リ、リリアーヌ! 貴様、さっきから何を……っ。エレン、もう良い。こんな不気味な魔法、近衛に命じて無理やりでも解除させてやる!」
シリウス王子が逆上して叫ぶ。
エレンは「恐ろしいですわ、シリウス様ぁ……」と、わざとらしく胸元を強調しながら縋り付いている。その様子は、もちろんカメラが最高の角度で捉え、全世界のモニターに映し出されていた。
『うわ、あざとい。聖女様ってあんな感じだったのか?』
『王子、完全に鼻の下伸ばしてて草』
『リリアーヌ様の方が断然、気品があって美しいぞ』
チャット欄には、王子たちへの失望と、私への応援が混ざり合い始めていた。
だが、王子は認めない。彼は王家の権力という、自分の一番太い「武器」を振り回そうとした。
「貴衛門たち! この女を拘束しろ! それから、この壁をすべて叩き壊せ!」
怒声が響く。騎士たちが一斉に抜剣した、その時だった。
――ピロリン!
会場全体に、どこか場違いな、清涼感のある可愛らしい音が響き渡った。
それは、私の脳内に、そして何より『映像を映す壁面』に、眩いばかりの光のシャワーとなって降り注いだ。
【通知:視聴者『匿名希望・名もなき銀の狼』より、スーパー・魔力チャット(スパチャ)が発生しました!】
【金額:1,000,000ガルド(白金貨10枚分)】
【メッセージ:公爵令嬢に、星の導きがあらんことを。……絶対に、負けないでください】
会場が、一瞬で静まり返った。
直後、私の脳内でチャット欄が「核爆発」を起こした。
『白金貨10枚!? おい、今これ一人で投げたのか!?』
『銀の狼……何者だよ、もはや小国の国家予算レベルだぞwww』
『リリアーヌ様、これだけの支援があれば王家にだって対抗できる!』
『狼ニキ、マジでサンキューな! スカッとしたわ!』
王族ですら滅多にお目にかかれない白金貨10枚……平均的な平民が一生遊んで暮らせるほどの莫大な富が、たった一つの音と共に、私の手元――魔器(魔石)に吸い込まれたのだ。
「なっ……ななな、なんだ!? 今の光は!」
「あら、殿下。ご存じありませんの? これは『応援の証』ですわ。私の配信を支持してくださる方が、私に魔力……ひいては、実際の財産を譲渡してくださったのです」
「財産を譲渡!? この場でか!? 馬鹿な、そんな魔法があるはずが……!」
王子は白目を剥かんばかりに震えている。
無理もありませんわ。この世界の権力は、血筋と領土に紐付いていた。けれど今、私の手にある力は、名前も知らない『誰か』の意志による純粋なリソース。
そして、この「1,000,000ガルド」が発生した瞬間。
私の周囲に展開していた魔力障壁が、紫色の雷を帯びて巨大化した。
「殿下、今の私には、王室の年間予算の数分の一に匹敵する『魔力』がチャージされましたの。無理やりな解除? ――おやりになれるものなら、やってみてはいかが?」
「ぐ、うう……っ」
騎士たちがたじろぐ。
物理的な暴力さえも、価値の力でねじ伏せる。これが配信者の戦い方ですわ。
しかし、私は不思議だった。
この『名もなき銀の狼』という視聴者。初めての配信で、これほどの金額を即座に叩き込める人物……そして、どこか懐かしいこの魔力の波形。
(……銀の、狼?)
ふと、会場の天井付近、ステンドグラスの影を仰ぎ見る。
そこには、一瞬だけ、こちらを案ずるように見下ろす銀髪の影があった。
私の護衛騎士であり、数日前から「任務の都合で」と姿を消していた、カイル。
(カイル……? まさかあなた、この短期間にどこかで稼いできたの? 私のために?)
その視線に気づいたのか、影は音もなく消えた。
私の胸の奥に、ほんの少しの温かさが生まれる。
「さあ、殿下。聖女様。盛り上がってまいりましたわね」
「では、次は『階段事件』の検証といきましょうか。当時の状況を魔法的に再現する『リプレイ機能』、今ここで解放しちゃいますわ。――制作、スタート!」
第3話、お読みいただきありがとうございました!
本作『完璧な断罪をありがとうございます。撮影準備はよろしくて?』、ついに伝説の「高額スパチャ」が登場しましたわ!
異世界の王家がどんなに威張っても、全世界のファンからの「意志」には敵いませんの。これが情報の、そして経済の暴力ですわ。そして、暗躍する銀髪の騎士カイル。彼がリリアーヌのために用意した「100万ガルド」の重み……今後の展開でも重要になってきますわよ。
次回、第4話「真実は、リプレイの中に。」。
聖女の嘘が魔法的に暴かれる「リプレイ検証」編ですわ!真実の「巻き戻し」、お見逃しなく!
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