第82話 シン・ザ・ブロウ
「…………」
目の前には、赤、黄、赤の帽子を被った筋肉ダルマの様なドワーフが堂々と足をハの字に広げ、腕から指先までピン伸ばして自信に溢れた顔で、黄ばんだ歯をにかっと見せて来る。
しばらく微妙な空気と静けさの中、ヒュウっと風が流れたが、はっと正気を取り戻し、直ぐに行動に出る。
「あ、間違えました」
傷付けてはいけないと、優しく微笑んで足の向きを変える。
「いやいや!! ここですって!!」
俺の袖を掴み、必死に引き止める箱型娘が邪魔をする。
(そんな訳あるかい!!)
「な、なんじゃこの娘は!? こら!!やめんか!!」
後ろから聞こえた声で振り返ると、そこには興味深々な目で、赤い帽子をグイグイ摘んで引っ張るナナがいた。
「こらこらナナちゃん、お店の人が困ってるでしょう? さ、帰って晩ご飯にしよう。今日はナナの大好物のハンバーグだ」
流れる様なテンポで、ナナがいる場所まで戻り、手を握って元の道を戻る。
「ハンバーグって何かわからないけど、やった!!」
(さすが我が妹、わかってる)
「えぇ!? 良く分からないですけど、完全に帰る気満々ですよね!? エント君、ナナちゃん、ここがじぃじの紹介したお店ですってばよ!!」
(ナ○ト語はアウトだからな!?)
「なんじゃ!? ガイアのスカポンタンの紹介なんか!! それならそうと早く言わんかい!! さぁ、入れ入れ!!」
そう言い残して、筋肉ダルマ達は店に入って行った。
「はぁーー」
「兄さんどうするの?? 面白い子達だったけど」
「ん?? もしかしてナナはあの人達の事、子供と勘違いして無いか??」
「違うの!?」
どうやら、ドワーフの事を全員子供だと勘違いしていたらしく、目と口を開けたまま固まってしまった。
「早く入らんか!!」
しばらくナナをツンツンして遊んでいたら、店の中から怒鳴り声が聞こえてくる。
深いため息を一つ残し、ナナの手を引っ張りながら入り口を潜って中に入る。
店の中は薄暗く、鉄と油の臭いで充満していて、鼻を強く刺激した。
部屋の中を見渡すと、ドワーフのお店だからか置かれている棚も少し低めではあったが、無骨な装備品がびっしりと並べられている。
それらを見て心臓が躍動してしまうのは、やはり俺も男だと思った。
「改めて俺達が!!」
店の奥の年季の入った、木製作りのカウンターで、例の筋肉ダルマ達が自己紹介らしい事を勝手に始める。
「シン!!」「ザ!!」「ブロウ!!」
多分俺以外のパーティメンバーも目が死んでいるに違いない。
どうやら赤がシンで、青がザ、黄色がブロウという名前らしい。
いちいち謎のポーズを取るのは、イラッとさせられるが、ここまで入ってしまったからには、我慢して俺達の装備を見繕って貰う事にした。
「乗りの悪い奴らじゃーー!!」
とか文句を言っていたが、さすがギルマスが紹介してくれる店なだけあって、それぞれ一人一人丁寧に戦闘スタイルや、今気になる点に耳を傾けてくれる。
気にしていたナナの採寸では、俺の疑う様な視線に直ぐ気付き、『儂らは自分達の装備意外の事は、興味も無いし、話もせん!!』と、何故か怒られはしたものの、察してくれたのは正直有難かった。
予め予算は一人頭金貨10枚と伝えてあり、これはパーティ貯金のほぼ全額に近いが、命に関わる仕事なのだからケチる事は一切しない。
俺は赤帽子のシンと名乗るドワーフが担当で、早速採寸を始めた。
「これは……おい坊主。さっきはああ言ったが、このコートはーー」
シンさんは小声で話し、ギロリと睨み付けて来た。
「企業秘密です」
笑顔で即答し、話す気が全くない事を暗示させる。
「……まぁ良い。だが俺にはわかるぞ。これを作った奴は、只者じゃねぇって事と、お前の事を心底大事に思ってるって事がな!! がははは!!」
何故かそこから上機嫌になり、あれやこれやと装備を持って来ては、詳しく解説してくれた。
特に、強く勧められた装備は靴だ。
彼が言うには「見た目ばっかの派手な靴なんか糞」と吐き捨てた。
今まで俺達が履いていた靴は、一般人と同じ革で出来た靴で、靴底は平らで滑り易い時があった。
「どんな仕事でもな、足腰がしっかりしてねぇと良い仕事なんざ出来ねぇんだ。特に、お前ぇらの様な冒険者は、毎日命賭けだ。万が一逃げる時にも、必ず役に立つ!!」
先程と打って変わった、揺らがぬ真剣な目付きのシンさんに、強い想いと説得力を感じた俺は、納得して全員分靴を注文する事にした。
お勧めだと見せて貰った靴の靴底は、オーガの関節部分の革を鞣した物を使い、それを何重にも重ね合わせて作られていた。
更に、均等な間隔で釘の様な金属が打ち込まれ、表面は波目状に加工されている為、足場が悪い場所でもグリップ力は段違いだろう。
小一時間程が経過し、それぞれの新装備のお披露目となった。
最初にカウンターの奥から出て来たのはナナだ。
今まで着ていた茶色いだぶついたコートとは違い、色合いが若干黒く何処かスマートだ。
ちらりと見えるフードの部分には、鎖帷子が縫い付けられていて、頭上からの防御も可能になっている。
インナーの上は鋼の胸当てと、鋼の手甲と足甲を装備していたが、目立たぬ様にわざと輝きを鈍くしてあるのも渋いし、軽装備だが安心感ある装備だ。
武器については、腰に革のベルトが巻かれ、ナイフが数本ストックされて、ナイフの刃部分を見せて貰うと、毒などの効果を高める為の溝が施してある。
「エント兄さん!! 見て見て!!」
ブロウさんの解説を終えたナナは、新しい装備が気に入ったのか、そこら辺をくるくる回り、嬉しそうにはしゃぐ。
(ナナも気に入った様だし、これなら安心だな)
次はパンドラさんだが……
ガシャン!!
ガシャン!!
ガシャン!!
店の奥から、激しい金属音が近付いて来る。
(おい……まさか!?)
薄暗い通路から姿を現したのは、重厚なフルプレートを身に纏った何かがそこに居た。
「ど、どどうですか!?」
甲冑の中から聞こえる声は、普段の彼女とは違いまるで別人だ。
「……チェンジ」
「えぇ!? ほらぁ!! やっぱり頭は箱じゃないと駄目だって言ったじゃないですかぁ~~」
「そこじゃない!!」
青帽子のザ(本当はザックらしい)と名乗るドワーフが、慌てて俺の前にやって来て解説する。
「何故じゃ!? パンドラの馬鹿力なら、動き難い事もない上に、戦闘スタイルも接近戦がメイン。これぐらいの装備が丁度良いんじゃぞ!? それに武器もハルバートと呼ばれるロマン装備を持てば、最早完璧じゃろ!?」
鼻息を荒くして、熱く語るザックさん。
「色々突っ込みどころが多過ぎるは!! まず音が鳴るのは却下だ!! 俺達は森の中で冒険する事もあるんだぞ!?」
森でのクエストでは、神経を削ってでも音を出さない行動が基本であり、ガシャンガシャン音が出るなど以てのほかだ。
「次にそんなに分厚い必要はないだろ!? 普段の腕の倍以上もある装備だと、いつものパフォーマンスは出せないだろう!?」
「ぐ、ぐぬぬぬ!!」
(ぐぬぬぬじゃねぇ!! 完全に趣味に走っただろう……これ)
ついつい頭に血が登って、言葉使いが荒くなっているのに気付き、深呼吸してから最後の指摘をする。
「最後は……フルプレートなのに、靴が俺等と同じ革靴ってダサイですね」
青い彼と鉄の彼女は膝から崩れ落ちた。
「も、もうその辺にしてやらんか!! ザのHPはもう僅かじゃぞ!?」
結局、所々革を使ったフルプレートに変更し、頭は甲ではなく何故か、鉄の箱になっていたが、もう疲れたので突っ込まないでそのままにしておく。
武器については、ザックさんが鋼で作られたハルバートを頑なに押して来たが、パンドラさんには斧と槍の経験とスキルがあるので、彼女が使うものだからと任せる事にしたら、そのまま決まった。
俺はと言うと、二人の予算が思ったよりも掛かった為、インナーの上から着るオーガの革で作られた、レーザーアーマーと靴を購入して終了だ。
元々俺だけ神様達から色々貰っていたのもある。
でも、カウンターの後ろの壁に飾ってあった、小太刀が無性に気にはなったが、今回は我慢した。
その場で装備を貰えるのかと、シンさんに聞いた所……
「馬鹿野郎!! こっから微調整するのが一番大切なんだよ!! 急ピッチで仕上げてやっから、二日後の昼に来やがれってんだ!!」
また怒られた。
この装備を整えた次の日に、パンドラさんからクエスト内容を聞かされた俺が、あんな風になるなんて知る由もなかった……




