表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/160

第83話 一難去らずにまた一難

 装備が完成するまでの間、俺達はオークを討伐したり、近々受ける護衛任務で必要になる、簡易テントや火打ち石等の物を、少しづつ用意していた。


 ようやくジンザブロウ(面倒なので纏めて呼ぶ事にした)から、新装備を受け取った時には、準備はほぼ万全となっていた。


「エントさん!! 指名クエストの詳細が来ました!!」


 ふっくら亭のテーブルで、ナナと晩ご飯を楽しんでいた時だ。


 店の扉を勢いよく開き、息を切らせてこちらにやって来たのはパンドラさんだ。


「それが!! な、な、なんと、初代デナーリス様の護衛なんですーー!!」


 賑わっていた店内は、まるで時間が止まったかの様に静まり返り、不思議に思った次の瞬間には、盛大な歓声が上がった。


「すげぇ!!」「あいつらが!?」「ふっくら亭も株が上がったな!?」「おれも混ぜろ!!」


 話した事もない人達からも、わいのわいのと盛大に声をかけられたが、俺達はイマイチぴんと来ていない。


 気付けば目の前には女将さんがいて、ドン! とテーブルに飲み物を置く。

 

「この街の住人にしてみたら、初代デナーリス様はヘルメスを作った英雄なのさ、そんな方を守る仕事だなんて、あんた達大したもんだよ!!」


 バシッ!! っといつも以上に気合いの入った愛情を受け、目が飛び出そうになった。


「縁起が良いからその飲み物はサービスだよ。たんと食べてしっかりやるんだよ!!」 


 腕をグッと曲げる女将さんは、女性なのに何故かかっこいい。


「とはいえ……」


 こんな状況で、詳細を話し合うなど出来るはずもなく、急いで食べ物を口に掻き込み、部屋に戻って打ち合わせをする事になった。


「ふぅ……酷い目にあったな」


「ぎょぎょぎょめんなさい!! あんな場所で言ってしまって!!」


(ここに魚はいません)


「大丈夫ですよ。それより早速ですが、詳細を教えて貰えますか?? ナナもちゃんと聞いておくようにな」


 窓際の自分のベッドの上で、うひょを膝の上に置いて一緒に遊んでいるナナに声をかける。


「ガッテン!!」


 こちらに身体の向きを変え、腕をグッと曲げて答えるナナは、きっと女将の真似をしているのだろう。


(色々混ざって来て、お兄ちゃんはなんだか心配だ!!)


「コホン。では指名クエストの詳細を説明しますーー」


 彼女が報告してくれた内容は、二日後に初代デナーリスを連れ馬車五台で人族の村や街を経由し、王都ベルモントへ向かうという内容だった。


 基本、デナーリス側が雇用している専属の私兵十名と協力し、護衛するのだが、冒険者ギルドからは我々の三名と、Bランクパーティ五名が参加する。


 「なんと、その冒険者パーティは今最もAランクに近いと噂の『灼熱の虎』なんですよ!! 経験豊富な冒険者さんと一緒で、更に報酬も一人金貨十枚だなんて、ラッキーだらけですよね!!」 


 俺の内心とは裏腹に、浮かれた雰囲気でクネクネ踊り出した。


「つまり、私兵とBランク、Dランクパーティの俺達で三台の馬車を護衛し、片道三日の滞在一日で王都を往復するって事か……パンドラさん、王都までの地図はありますか??」


 違和感は、じわじわと嫌な予感に変わって行く。


「え、えっと。ギルドに戻れば借りられるはずです。でも、エント君は心配し過ぎじゃーー」


「死にたいんですか??」


「え??」


「無名の俺達への指名依頼もそうですが、馬車三台に対して護衛の人数が多過ぎる。何かきな臭いと感じた時は慎重な方が良い」

 

(これで道中の危険度が高いか低いかで、ある程度は予想は立てられるが……)


 一先ず地図は後回しにして、話を進めた。


「あと、わかっているとは思いますが、今回の護衛任務ではこのマジックポーチは使いません。各自分担して、背負袋で運ぶ事になります。もちろん、非常時の食料は入れておくので、そこは安心して下さい」


「ガーン」


 さっきまであんなに楽しそうだったのに、今はかぶっている箱を抱えて落ち込む。


「あはは!! パンドラさんはやっぱり面白いね」


「うひょひょ!!」


 パンドラさんが、一旦ギルドに地図を取りに戻っている間に、ナナとも大事なポイントだけ打ち合わせした。


 今回の護衛クエストでは、盗賊の警戒やそれ以外(・・・・)の情報収集は、基本ナナ頼みになるからだ。


 Bランク冒険者や手練の私兵達の中で、木霊を感知出来るスキルを持っている者が居るかもしれない。


「ごめんな。今回は、ナナに頑張って貰わないとならなくて……」


「いつも兄さんを守るって言ってるでしょ?? 気にしないで良いんだよ。その代わり……」



…………


……


「ぁ、あん!!」


 熱がこもる艷やかな声を出し、涙目になってこちらを振り向くナナ。


「ちょ、ちょっと変な声を出すなって」


 外に声が漏れていないか、気が気じゃない俺は手を止めた。


「だ、駄目。兄さんやめないで……」


 求める瞳で望んで来る彼女に、俺は早くこの行為を終わらせる為、必死に手を動かす。


「ん゛ーー!? あ゛ぁあ!!」


 全身に電気が走った様に、小刻みに身体がビクつく。



バタン!!



「な、な、な、何やってんですかぁあああ!?」


 突然、壊れるかと思う勢いでドアが開き、頭から湯気が出そうなパンドラさんが入って来た。


 (何って尻尾(・・)のブラッシングです。なんて、秘密にしてるから言えないーー!!)


「パンドラさん。お帰り~~はぅう」


 クタッとそのままベッドに沈み、脱力する彼女とは違い、俺は非常事態で頭の中は真っ白だ。


「こ、これはその!!」


 何故なら、今までブラッシングしていた尻尾が、既に隠蔽スキルで隠されていたからだ。


(何ぃいいい!? ど、どうするんだ俺!?)


「マ、マッサージを頼まれて、やってただけですよ」


 ほっぺたが痙攣しているのを感じつつ、無理やり笑顔を作って見せた。


「へ、変態!!」


 くるくると巻かれた地図が、あり得ない速度で顔面に直撃した。


バチィイイイ!!


「痛ぁああああ!!」


 顔を擦り、再びドアの方を見た時には、既に彼女の姿は消えていた。


 しかし、その後すぐにそんなに遠くない場所から、激しい音と伴に扉が閉まる音がした。


「どうしてこうなった……」


 問題が立て続けに起こり、ため息を吐きつつ気を落ち着かせ、手元の地図を広げた。


 ヘルメスから王都ベルモントまでの道を、視線で辿る。


 が、俺の視点はある一点から動かない。


「ん?? 兄さん、紙をみてどうして笑って(・・・)いるの??」 


「あぁ、何でもない。少し外の空気を吸ってくるよ」


 思わず腹の底から、黒いものが溢れそうになるのを我慢して、部屋を出た。


 ふっくら亭の裏庭に行き、外の冷えた空気を肺に入れた後、我慢出来ずに言葉が漏れた。





「そうか、セピアか……くっくっく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んで下さりありがとう御座います!

劣等魔族の成り上がり〜病弱なこの子の為にダンジョンで稼ぎます〜


こちらの新作も是非お楽しみ下さい!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ