第81話 三人揃って
「まさか、そんな結果になるとはのぉ……」
小さな体で、白い髭を優しく撫でつけるドワーフが、ソファに座りながら答えた。
午後になり、ギルドに向かった俺達は、ギルドマスターのガイアさんに、パンドラさんの魔法適性の結果を報告した所だ。
父親代わりのガイアさんには、話しておく方が良いと判断したからだ。
それより、何故ナナはギルマスの隣に座り、ツンツンしている……?
(いくら小さなドワーフが珍しいからって、その人とても偉いんだからね!?)
「過去に、全属性持ちの者にあった事があるんじゃが……」
何処か喉に引っかかる言い方をする。
『いや、その前にナナを止めろよ!』と心の中でツッコミを入れるが、向こうが気にせず進めて来るので、続ける事にした。
「それは、やはり魔族の方ですか??」
全属性なんてチート、魔法が得意そうな魔族には、結構いるのだろうか??
世界を回る予定の俺としては、興味をそそられる案件ではある。
「いや、人族じゃ。いわゆる勇者と呼ばれる者じゃったのぉ」
勇者……俺が耳にした噂では、人族における人々の希望と謳われ、人族に危機が迫る際に現れ、人々を救う御伽話の様な存在。
でも、俺のラノベ知識の中の勇者は、大概チートでハーレム野郎が主流だったのを思い出し、勇者なら全属性も不思議ではないと、妙に納得出来てしまう。
「えぇ!? わ、私勇者とかじゃないですよ!?」
俺の隣に腰掛けている彼女は、ちゃんと話を聞いているのだろうか。
パシィン!!
ガイアさんは何処から取り出したのか、どでかいハリセンでパンドラさんの頭を思い切り引っぱたく。
(さすがギルマス只者じゃない……何も見えんかった)
豪快なツッコミに、スカッとするのを感じる。
「何を馬鹿な事を言っとるんじゃ!! だいたいお主は……」
唾を雨粒の様に吐き出し、目の前で説教が始まる。
(俺達の事を完全に忘れてる……てかナナちゃん、髭は引っ張らない!!)
「あの……そろそろ良いですか??」
いい加減我慢出来なくなったので、こちらから切り出す事にした。
「コホン、これはすまんかった。馬鹿娘はさておき、エント君。色々面倒をかけてすまんが、引き続き魔法の方も鍛えてやってくれんかの?? 結果が分かった以上、そのままにしておくよりも、使える様にしておいた方が、何かと良い方向に向かうはずじゃ。この通り」
そう言い終わると、ペコリと頭を下げる。
実るほど頭を垂れるなんとやら……か。
「はぁ……ガイアさん。それ、俺が断らないのを知ってて、頼んでいるでしょ??」
開いているか分からない皺の多い細い目は、優しく笑っているように見えた。
「ほぅほぅ。そんな事はないんじゃがのぉ。そのお礼と言ってはなんじゃが、特別にCランクへの挑戦クエストを用意した」
「Cランク!? 俺達の実績じゃあ、まだもう少し先の話でしょ?」
「ほぅほぅほぅ。ある商団を人族の町まで護衛する事が、このクエストの内容なんじゃが、お主達に指定依頼が来ておっての。もし断ったな場合は、ギルドマスターの儂が推薦する事になっておる。そこでじゃ、この際じゃから推薦もする事にしたんじゃよ」
つまり、一つのクエストで二つの実績にすると言う事か。
「また無茶苦茶な……」
強引過ぎるやり方に唖然としてしまう。
「ほぅほぅほぅ!! この程度たいした事では無い。とまぁ勝手に話を進めてはおるが、どうするかの?? 勿論、自分達のペースを大切にしたいのなら気軽に断ってもえぇ」
髭を触る手をゆっくりと動かし、こちらの意思を待つギルマス。
「「「やります!!」」」
直近の目標の一つとして、ランクアップを目指している俺達にとって、この一石二鳥のクエストで迷う事はない。
「それは僥倖。では、手続きはしておくからのぉ。詳細については、後日パンドラに伝えておくとしよう。それよりもお主ら……」
ギルマスは俺達を順番に見詰め、少し唸った後に助言して来る。
「いい加減装備を整えた方がえぇ。ボロボロな装備で護衛されても、相手は安心なんぞ出来んからのぉ。安心感を与える事も冒険者として大切な事じゃからのぉ」
改めて自分達の装備を見ると、確かにボロボロと言うよりそれ以前の問題だ。
俺は死神のコートを着てはいるが、下は夏で暑い為、肌着だけだし、武器もナイフ一本。
ナナも同じ様な格好で、パンドラさんに至っては鉄の棒を持って冒険していて、確かにこんな冒険者に護衛されても安心なんか出来ないと思ってしまった。
(冒険者になりたての頃はその日の生活費すらままならなかったからなぁ。仕方ないっちゃ仕方ないけど)
ただ、俺は問題ないが、ナナの角や尻尾は隠蔽していても、触れるとバレてしまう為、そう言った理由からも避けていたのは事実だった。
「ほぅほぅ。行き付けの装備屋がないなら、口が頑くて腕の良い者を紹介しよう。その方が何かと都合がえぇじゃろう??」
一瞬にして、空気が張り詰める。
警戒心を剥き出しに、いつでも戦える体勢を取る。
いつの間にかナナも、ギルマスの背後で構える。
(まさか……バレたのか??)
「ふぇ!? ふぇええ!?」
パンドラさんだけは、何が起こっているのかわからず、顔をあっちこっちと忙しく動かしていた。
「何もそんなに警戒せんでもえぇ。冒険者なんぞ、訳ありの方が沢山おるくらいじゃ。そう言った者に、いつも紹介しているだけじゃよ」
食えない爺さんだと思いつつも、徐々に警戒を解いていく。
結局、その後は紹介状を書いて貰い、パンドラさんが場所を知っていて、案内して貰う事になった。
工業区の大通りを歩き、途中で薄暗い道に入った後、何箇所か曲がった所に、その店はあった。
ひと気も少なく、日当たりも悪い。
そんな場所にあった店の入り口には、傷んで黒ずんで読めるかどうかといった看板が掲げてある。
「パンドラさん……こ、ここですか??」
「は、はい!! じぃじのお友達がやっている装備屋で、腕は確かですよ。腕はね……あははは」
ナナは看板をじっと見詰め終わると、こちらに振り返りドヤ顔で言い放つ。
「しんざぶろうって名前なんだね!!」
ドドドドドド!!
地震の様な足音と共に凄い勢いで、扉が開いた。
「「「何処の馬鹿たれじゃ!!」」」
俺とナナは唖然となって、出て来た人物達を見詰め固まる。
「あちゃぁ……」
パンドラさんは、何故か残念そうに額に手を置いてため息を吐いた。
突如現れたドワーフ達は、目の前に並び、流れる様に手足を動かして行く。
「「「俺達はぁああああ!!」」」
(お、おい……まさか!?)
昔、小さい頃にテレビで見た戦隊モノが脳裏を過る。
「「「三人揃って、シン・ザ・ブロウぉおおおお!!」」」




