第06話 修行の成果
自分のスキルを自覚して二週間、俺はひたすら剣の修行に打ち込んでいた。
魔力探知によって俺の魔法精度は確実に成長している。しかし小手先の身体強化魔法で能力を向上させたところでこのロングソードでは、あの大木は両断できない。どんな鈍でもあの大木を切れるほどの技量を身に付ける必要がある。
それにお父さんは、仙法も魔法も使わずに技量だけで大木を両断してみせた。課題に仙法と魔法の使用禁止は設定されていないが、息子として技量だけで切ってみせるのが親孝行というものだ。
俺はロングソードを素振りしながら考察していた。だが、現状技量だけで大木を切るイメージが全くわかない。お父さんは、あの時何をしていた?…何度も反芻して考えたが答えは見えてこなかった。
そこで俺は、お父さんのステータスを振り返ってみることにした。耐性系のスキルにコツがあるとは思えないので、それ以外に注目する。
不動明王の限界突破は、レベルが違いすぎるので課題と釣り合っていない。
とすると、もう基礎の3スキルしか残っていない。このどれかに答えがあるのだろうか。思念伝達は、情報共有や念話などの用途しかない、解析鑑定も情報を見るだけで身体能力には関わってこない。…魔力探知なのか?
魔力探知で考えてみよう。これは、魔那の流れから自身の周囲を知覚するスキルだ。これがあることで、一見目の見えない魔物でも的確に攻撃を当ててくる。また、死角からの奇襲を防ぐこともできる。
魔那の流れを鋭敏に捉えることで、小さな流れの変化から異変を察知する。
「(魔那…魔那の流れ、植物にも魔那の流れってあるんじゃないのか?)」
「あるぞー」
「(本当かパハド!?)」
「本当だともさ、魔那はラキア粒子が集まり魂纏子という分子でいう電子みたいなものが固定させた集合体だ。だから当然、植物にも魔那は宿り内部を循環している。そして内部を循環していれば必ず、流量に差がうまれる。つまり――」
「(つまり、魔那の流れが弱い部分を狙って剣を入れてたってことか!)」
「ふっ…正解だ」
大木を流れる魔那を魔力探知で読み取って、更にそこから流れの強弱を見つけ出す。そして流れの弱い部分から渾身の一撃を叩き込む!
そうと分かれば、あとは練習あるのみだ。
*
一週間後
俺は練習の成果を見せるべく、お父さんを森にある大木の前まで呼び出していた。お父さんもそれを察して真剣な表情で見守っている。
俺は大木の前に立ち、剣を横に構えて意識を集中させる。
大木を流れる数多の魔那の流れ、大木ごとに異なる流れの中から微細な強弱を見つけ出し、そして……一閃!
大木は、ザザザザザザッと幹同士が擦れ合う音を立てながら、地面にドォォォン!という轟音を響かせて倒れた。
滑らかな切り口に非常に満足し、俺はお父さんの下へと駆け寄った。
「どうだった?お父さん」
「…何の文句もなく、合格だ!」
「やったーーーー!!!」
俺が歓喜の声を上げていると、お父さんは俺を顔のところまで抱き上げて言った。
「よくやった!偉いぞ!よく魔力探知に気が付いたな。流石俺の息子だ」
「えへへ!そうでしょ!お父さんが木を切るところを見て閃いたんだ!」
「そうか!よく観察しているな。この調子なら次の修行にも移れそうだ。早速やってみるか?」
「うん!」
お父さんは俺を抱き上げたまま、森から庭へと移動した。庭に着くと俺を肩から下ろして、修行の説明を始めた。
「お前も気づいているかも知れないが、ここ最近森の中で凶暴な魔物が周囲の生物を食い荒らし、暴れまわっている。このままでは俺たちの生活にも害を及ぼしかねない。そこで今回は、討伐する事にお母さんと話し合って決めた。よって次の修行は、北の森で暴れている魔物をお前一人で討伐してもらう。わかったか?」
「うん!」
「よし!今日までに身に付けた技術と仙法と魔法を駆使して、見事その魔物を討ち取ってみせろ!」
こういうのを待ってたんだよ、こういうのを!
今まで、お父さんと二人でするのは模擬的な修行ばかりだったから、いつ実戦訓練ができるのかうずうずしていたんだ。
狩りをするにもいつも二人掛かりだったからなぁ、その方が確実なのは分かるがどこか退屈で信用されていなんじゃないかって疑念を抱く自分がいた。まぁ12歳の子供に危険な魔物狩りをさせる方が非常識だが、ここはそんな常識が通じる世界じゃない。弱肉強食こそが絶対のルールであるこの世界で、狩りを任されたというのは親から一人前だと認められたような感じがして何とも言えない嬉しさがある。
俺は、翌日の早朝の朝日と共に二人に見送られながら家を出た。
「あの子、大丈夫かしら…呪いのせいで身体はとっても丈夫だから、殺されることはないでしょうけど、万が一ってこともあるし」
「その万が一を起こさないための修行だ。なぁにあの子には俺の仙法と剣術、お母さんの魔法が付いている。信じようじゃないか、あの子は俺たちの子なんだからな」
「えぇ、そうね。杞憂だったかもしれないわ。あの子が帰ってきた時のために美味しいご飯で出迎えてあげなくちゃね」
どれくらい歩いたか、しばらくしても話の魔物らしき生物の影は見えないな。魔力探知で気配の強い魔物がこの方角にいることは確かなんだが、俺の魔力探知では現状、視界が届く50mくらいが限界だ。それ以上に行くとぼんやりとした気配しか掴めない。
一応仙隠法でオーラ抑えながら歩いていると、魔力探知に一匹強力な魔物が引っ掛かった。つまり、目視で確認できる距離まで近づいているということなのだが、魔物が発見できない。警戒しつつ歩みを進めると、目視よりもっと強烈でインパクトのあるものが俺の鼻を襲った。血の臭い、しかもまだ新しい生き血の臭いだ。どうやら魔物は少し早い朝食を摂っているらしい。
俺は臭いのする方角へ進み、恐る恐る木の影から顔を出した。そうしてようやく魔物を目視で確認することができた。
あれは熊型の魔物、黒い体毛に鋭い一本角から雷魔法を放ち鎧に覆われたような外骨格を両手にもつ、ケラトベアという魔熊だ。
この時期ケラトベアは冬眠中のはずだが、穴持たずか?通常の2倍はあろう体躯から見て、あいつが森で暴れている魔物の正体で間違いないのだが、どうも疑問が残る。が、考えている暇はない、今は目の前の問題に集中しなければ。奴が油断しているうちにまずは、遠距離から魔法で狙撃を狙うのが常套手段だ。
「ここは最も貫通力が高く目立ちにくい、土弾!」
魔法で作り出した拳サイズの岩の弾丸が、魔熊の胴体目掛けて勢いよく射出される。40mほどの距離にいる相手にほんの数秒で到達するのだから、致命傷にならずとも大きなダメージにはなるはずだが…それは通常のケラトベアの場合に限る話だった。
今俺が相手にしているのは、他の魔物を何匹も狩っている凶獣と呼ぶに相応しいケラトベアだ。俺の放った最初の攻撃は難なく躱されてしまう。
まずい、こちらに気づかれた。考えることは相手も同じようで即座に雷魔法を唱え出し、三本の電撃がこちらに向かって爆音と共に走り出す。
俺は木々を盾にすることで直撃は避けたが、命中した3本の大木には風穴が空き、向こう側がはっきりと見えている。もしこれをくらったら死にはしないにせよ、数秒動きを止められてるうちに接近されてダブルタップだ。
しばらくは木の陰に隠れて距離を取りつつ、隙を伺うしかないな。
しかしながら、そんな悠長なことは言っていられないと、次の瞬間に理解した。ケラトベアは魔法陣を俺に向けてではなく、上空に向けて展開した。
「まさか!?雷撃か!」
野生のケラトベアが雷撃を習得しているなんて例は聞いたことがない。判断の遅れた俺の体に上空から落雷が直撃する。身体中を駆け巡る数千万ボルトの電撃は、容易く俺の体を拘束した。雷に打たれながらも目線を真上から標的の方へと向け直す。
ケラトベアを視界に収めた時にはすでに遅く、40mほどの距離を瞬時に詰め寄り、鋼鉄の右腕を大きく振りかぶっていた。
咄嗟に防御を固めるが、野球でバッターに打たれる球の如くに木々をなぎ倒しながら数メートル先へと吹き飛ばされた。体に乗った大木をどけて立ち上がると、ケラトベアはグォオオ!!!と雄叫びを上げて俺に突進してきている。
多少身体は痺れるが、骨と内臓に問題はなし。俺を串刺しにすべく角を一直線に向けて走ってきたのを、俺はすんでのところで躱し奴の巨体を受け止める。すると魔熊も応戦し自分ごと雷撃を何発も放ってきた。
「くぅ……はっけよい!ってやつだ!」
俺は昔話の金太郎のように魔熊の体をがっちりと掴み、力いっぱい後ろの巨木へ投げ飛ばした。改めて竜人の身体能力には驚かされる。
今度はうめき声をあげて地面に倒れる魔熊だが、すぐに起き上がり体制を整えている。
「もう俺に雷魔法は、効かないようだぞ。熊公」
俺の言葉を理解したのか、後ろ足で立ち上がりゆっくりと間合いを詰めてくる。接近して自慢の爪撃で決めるつもりなのだろう、俺もそれに応えて背中に背負ったロングソードを抜き放つ。
互いに間合いを詰め、己の切先が相手に届くのを先に確信したのはケラトベアだった。再び右腕を大きく振りかぶり、俺の体を両断すべく真横へと振り下ろした。
鋭い5本の爪の切先が俺の顔を掠めるギリギリで俺は構えの姿勢をとりながら後退し、神経を一転に集中させる。
ケラトベアに流れる魔那を読み取り、常に変化する流れの強弱を掴んで弱まる部位を見つけ出す!
「仙闘法発動、狙うは…ここぉぉ!!!」
一撃目に振り切った奴の右腕を外骨格ごと斬り上げて切断、ニ撃目に斬り上げた先から右肩へ袈裟斬りが決まる。ケラトベアの体は血を噴き上げながら3つに別れて地面に落ちた。
「ふぅ…負けない戦いだったとはいえ、ここまで攻撃を許してしまうとは、やはり訓練と実戦は違うなぁ」
普通の人間なら最初の雷撃からの爪撃でお陀仏になっていたことだろう、竜人の体に感謝だな。俺は討伐の証としてケラトベアの死体から角を剥ぎ取り、森をあとにするのだった。
アモンは、「雷・電気耐性」を手に入れた。
「ただいまー」
「「おかえり!アモン!」」
俺がドアを開けると、二人が夕食の準備を終えて出迎えてくれた。駆け寄る両親に俺は戦利品の魔熊の角を高らかに見せつける。
「見て!暴れていたケラトベアを討伐してきたよ!」
「そうか!一人で倒せたか!よくやったぞアモン」
「その年で魔物を倒せるなんて、やっぱり戦士の才能があったんだわ!怪我はすぐに治してあげるから、よく見せなさい」
「待って、お母さん」
ふっふっふっ!毎日自室で練習していた成果を見せる時が来たようだ。魔力探知ができるようになってから、魔那が身体に吸収されていく様子を観察して最近ようやく出来るようになったんだ。相手に使うのはまだ苦手だけど…
自分の身体が頑丈なせいで、怪我をするのも一苦労だったから今回の魔物討伐の話を聞いてずっとお披露目する機会があるんじゃないかとわくわくしていた。
俺は自分の体に手を当てて魔法を唱える。
「見ててー、回復!」
ケラトベアとの戦いで負った全身の火傷がみるみるうちに治っていく。全身の負傷でも一つ一つが小さい火傷だったから回復程度の回復魔法でも完治することができた。
両親が驚いた顔で俺を見つめている。この顔を見れただけで、わざわざ火傷を負ったまま家まで帰ってきた甲斐はあるというものだ。
「すごいわアモン!あなたの年で回復魔法ができる人間は見たことがないわ!お母さんの誇りよ!アモンなら絶対優秀な冒険者になれるわ!」
「お母さんの言う通りだ!アモンなら勇者にだってなれるかもしれないな!」
まぁ人間じゃないんだけどね…というかこの二人呪いのことすっかり忘れてないか?
人間、慣れてしまうと呪いでも日常になってしまうものなのだろうか。それとも魔物を倒せるほどの子供が呪い程度では死なないとか思い始めているのではなかろうか。…それほど、俺の成長を嬉しく思ってくれている、ということにしよう。
あれ、なんで二人は俺のこと人間だって思ってるんだ?これだけ一緒に住んでいれば俺の気づかない時に解析鑑定をしたことぐらいあるだろうに、なんで俺の種族が竜人だってバレないんだ?
「それはな、世界喰らいのおかげだ」
「(世界喰らいって、混沌龍のスキル効果の一つだったあれか?)」
「そうだ。お前の解析鑑定の精度じゃあ能力までは解析できなかったみたいだから、代わりにオレが教えてやるが、あれにはステータス偽造の能力があるんだ。だから、二人から見るとお前は人間でスキルも統合と終極は見えてないのさ」
「(だから二人は、何の疑いも持たなかったのか)」
ステータス偽造か、流石は終極スキルだ、もともとパハドのスキルだったこともあって能力もチート級だ。これがあれば、対人戦で大きなアドバンテージをとれるだろう。人と接する際にも、スキルのせいで余計ないざこざが起きないのはありがたい。
これから解析鑑定の精度が上がっていけば、自分の能力についてもっと詳しいことが分かるみたいだし、これからその日が楽しみだ。
「アモン、これでお前も立派な一人前の戦士だ。これからは、一人で狩りに出てもいいぞ!」
「本当!?」
「あぁ、一人で魔物を狩れるようになったのなら、狩りで魔物に遭遇しても一人で対処できるだろう。良いよなお母さん?」
「えぇ、異論はないわ。でも今度からは、怪我をして帰ってきちゃだめよ?アモンは強い子なんだから、お母さんを心配させないでね」
「うん!わかった俺、頑張る!」
ちょっと期待はしていたが、まさか本当に単独での狩猟を許可してもらえるとは、まさに感無量だ。親に認められる経験なんて初めての事で、今まで生きてきて良かったと心から思える瞬間だ。これからはより一層、両親が誇れる息子として生きていかねばなるまい。
<ステータス>
名前:アモン
種族:竜人
役職:なし
称号:なし
二つ名:なし
魔法:火種、灯火、冷却、回復、火球、水弾、風刃、土弾、電撃、魔力弾、身体強化
仙法:仙隠法、仙闘法
スキル:解析鑑定、魔力探知、痛覚鈍化、高濃度魔那耐性、雷・電気耐性
<統合スキル>
「霊魂精神」
魂詳細感知、魂接触、思念伝達
<終極スキル>
「混沌龍」(一部開放)
世界喰い(解析不可)(ステータス偽造)
混沌顕現(現在使用率1%)




