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エルグランデ  作者: 三南たかお
成長編
4/14

第03話 呪い

 

 泣き止んだころには、家の目の前まで着いていた。

 しかし、二人はそこで歩みを止める。お母さんが俺を丁寧に地面へ下ろすと、続くようにお父さんが膝をつき神妙な面持ちで話し始めた。


「アモン…驚かないで聞いておくれ。お前の身体に起こった現象はな、黒龍様の呪いなんだ」

「呪い…?」

「あぁ、今まで東の森には行くなと教えてきたよな?」

「うん…」


 東の森。

 俺がまだ歩けるようになったばかりの頃、家を抜け出して迷い込んだ森だ。そこは普段採取や狩猟をする北の森とは異なり、東へ進むにつれて植物に黒い瘴気がまとわりついていた。それに触ろうと近づいたところでお父さんに見つかり、初めてこっぴどく叱られた苦い思い出がある。

 それから、東の森へは行くなと教えられてきた。詳しい理由は教えてもらえなかったが、あの黒い瘴気を見てから俺も本能的に東の森には行かなくなった。


「その呪いはな、東の森に建てられた、ある物と関係がある。それを教えてあげるから、着いてきなさい」

「うん…わかった」

「あぁ~アレを見せるつもりなのか…」

「(パハド…あれって、何のことだ?)」

「まぁ見てみれば分かるさ、親父さんに着いて行ってみな」

「(わかった…)」


 パハドは何か知っているようだが、とにかく俺は二人に着いていくことにした。

 約半年振りに入るその森は、時間が止まっているかのように景色が変わっていない。北の森とは隔絶した世界の環境がそこには広がっていた。

 どこにも生物が見当たらない、あるのは深く暗い緑色をした木々と根元に生える植物だけ。半年前は気付かなかったが静かすぎて、自分たちの足音だけが周りに響く、とても不気味な森だ。

 俺は少し恐怖で身体が震えていた。それに気付いたお父さんが握る俺の手を強く握り返してくれる。

 周りの植物が俺たちを招き入れているかのように揺れ動いている。俺はなんとか恐怖を押し殺しながら、前へと進む。

 一体この先に何が待っているというのか。俺は周りの木々に惑わされぬよう、両親が進む先だけを真っ直ぐみつめて歩き続けた。

 歩き始めてから数分後、両親が足を止めた。


「ここだ、アモン」


 両親の影から身を前に出し、お父さんが指さす先を捉えようとする。

 まず、目に飛び込んできたのは、3mはある巨大な墓標。そこには数名の男女の名前が刻まれている。その最下部にあるのは、俺の両親の名前だった。

 俺の名前は無い。その他の名前もそうだ、苗字が同じ二人組が並んで刻まれているだけでそれ以上同じ苗字の人がいない。まるで子供は一人も生まれていなかのように。

 次に目に入ったのが、周りの異様さだ。墓標の周わりには一つも植物が生えていない。こんなに恐ろしい森の木々たちが、このたった一つの石の塊にだけは触れずに遠ざけているようだった。


「これが…黒龍様の呪いと関係があるの?」

「そうだ、これは生贄の墓。黒龍様に生贄として捧げられた者たちの墓なんだ。そして、お父さんとお母さんもその一組だ」


 それを聞いて、お母さんは口を手で押さえて涙を見せていた。

 俺は、疑問に思ったことを正直に聞いてみた。


「お父さんたちが、生贄?」

「そうだ…」

「その生贄と僕の呪いが関係しているの?」


 お父さんも少し涙目になりながら続ける。


「黒龍様の生贄となった男女にはな、子どもが生まれない、生まれてもすぐに呪いで死んでしまうという言い伝えがあったんだ。事実、今まで生贄となった男女やその子供がここから戻ってくることはなかった。だから、アモンが生まれて、元気に育ってくれて本当に嬉しかった。だが、お前にもいつか呪いが発現するかもしれないと思った。だから、お前の身体に異変が起きた時は、この話をしようとお母さんと決めてたんだ」

「お母さんにもこの呪いは治せないの?」


 そう問いかけると、お母さんは俺を力いっぱい抱きしめる。だが、残念なことにその抱擁が母の答えを物語っていた。


「ごめんねぇ…アモン、ごめんねぇ…」


 お母さんも必死にどうにかしようと考えていたのだろう。だが答えが見つからないまま、この時が来てしまった…。俺は、そんな母へ申し訳なさでいっぱいになり、許すと答える気持ちで強く抱き返した。


「アモン、呪いが発現したお前があと何年生きられるか分からないが、最期のその日までお父さんたちは絶対にアモンを見捨てないからな…俺たち家族は最後まで一緒だ…」

「うん…」


 お父さんも俺を抱きしめてくれた。

 やはりこの二人は、前世の親とは違うのだと心の底から思わせてくれる。父は俺のために最期まで一緒に居てくれると誓ってくれた。母は俺から逃げず素直に謝ってくれた。

 その二つだけで俺は満足だ。


 *


 帰りの道中、俺はずっと考えていた。俺はあとどれくらい生きられるのかと…、しかしいくら考えても自分の寿命なんて分かるはずもなく、答えが出ない。そこで最も死や転生といったものに詳しいであろう俺の相棒に疑問を投げかけることにした。


「(なぁパハド…)」

「ん~?」

「(俺はあと何年生きられる…?)」

「あぁ何暗い顔してんのかと思ったら、そんなこと考えてたのか」


 こっちが真面目に聞いているというのに、パハドは相変わらず能天気ぶりを炸裂させてきやがる。自分のことにも関わってくるだろうに、なぜこいつはこうも飄々としていられるのか。俺は、少し頭にきていた。


「(パハド…真面目に答えてくれ、お前ならそれくらい分かるだろ)」

「あぁ分かるぜ。だから単刀直入に答えてやる、お前は…あと…千年以上生きる。いや、もっとかもなぁ!」

「(パハド…真面目に――)」

「俺は至って真面目だぜ~アモン。そもそもお前の異変は呪いじゃねぇ、さっきも言ったようにそれは種族としての…―いわば成長期だ。ゴマフアザラシの子供が大人になるにつれて毛が少なるようなもんだ」

「(じゃあ、これは…ただの成長過程ってことなのか?)」

「そうだ、そう言ってんだろ~?だからお前は死にはしねぇよ、大丈夫だ!」

「そうか…それなら良かった…だけどお前、やけに黒龍様の呪いに詳しいんだな」

「そりゃお前、あれはオレのこ――」


「アモン?何をぼうっとしているの?もう家に着いたわよ。今日はもう遅いから、部屋に戻って寝てしまいなさい。今後のことは明日ゆっくり話し合いましょう」

「うん…おやすみなさい」


 パハドが何か重要なことを言いかけたところでお母さんに会話を遮られてしまった。とはいえ、呪いで死なないことが分かっただけでも上々だ。でもこれを二人に話しても信じてはもらえないだろう。

 …いや、信じてもらわなくてもいいのか。二人は俺が呪いで短命になってしまっている事を憂いてあの話をしたんだ。だったら、そのまま二人が生涯を全うするまで一緒に暮らしてあげればいいじゃないか!

 パハドの言うことが本当なら、俺はあと千年は生きる。これは種族としての寿命の違いなのだから仕方ない。ので、自分の子供が生きていると知って逝けるのなら、これは本望だろう!

 よし、これで不安は一つ解消されぞ。安心した俺は軽い足取りで自室のベッドに入った。

 あれ、そういえばパハドがさっき何か言いかけていたような…


「(パハド、さっき何か言おうとしてなかったか?あれはオレの何とかって)」

「ん?あぁそうそう、そうだよ。お袋さんに話遮られて言えなかったんだけどよぉ、あの黒龍様の呪いってのは、オレの事なんだよ」

「(は?はああああああああああああああ!?…じゃあ、お前のせいで何人も生贄に捧げられてたって事か!?何してんだお前ぇ!何ですぐに止めさせなかったんだよぉ!)」

「仕方ねぇだろ!オレ死んでんだからぁ!オレがやらせてたわけじゃねぇし、オレの死体のすぐ近くにまで人なんて来たら、魔那中毒で子供ができないなんて当たり前だろうがー!」


 異形の邪龍が、逆ギレして転がりまわっている姿は、大人が駄々をこねているようで何とも見ていられない。そんなどこかコミカルな映像が、俺の頭に冷静な思考力を取り戻させていた。


「(お前今…オレの死体の近くって言ったか?)」

「ん?あぁよっこいせと、…おう言ったぜ」

「てことは、お前の身体ってまだあるのか?」

「あるもなにも、この大陸の半分はオレの身体の上に出来ているんだぜ?」

「(どういう意味だ?)」

「あれ、言ってなかったか?そういえば、後で話す約束だったな。丁度いいから聞かせてやるよ!このオレ、黒龍こと混沌龍パハド・ニスタールの物語を!」


 *


 まずは、オレが生まれた経緯からだな。

 オレが生まれたのは、この星がまだ幼い宇宙創生の時代。世界を作ったとされる存在、光龍こと創生龍オーラム・ヴェルミエルが世界の創造を終えて、宇宙の中心にあるこの星に降り立った事から始まる。

 オーラムはこの星が命溢れる星になることを願い、星の民たちが平和に暮らしていけるように物事の調整や争いごとの橋渡し役としての仲介者となれる者たちを作った。それが現代でいう天使たちだ。

 だがここでオーラムの予想外の出来事が起きた。

 天使たちを作って間もなく、それに呼応するかのように欲深く星の民を惑わす者たちが生まれてしまった。それが現代の悪魔たちだ。

 オーラムは、新たな生命の誕生を喜んだが、天使たちはそうではなかった。オーラムから生まれていない生命である悪魔たちを良く思ってはいなかったんだ。

 天使たちは悪魔を襲い始め、それに対抗して悪魔たちも天使に反撃した。

 それを憂いたオーラムは別次元に天使たちの住処として、そして現世を見守る場所として天界を、悪魔たちの住処として、そして天使が踏み入れない逃げ場所として冥界を作り、その二種族に与えた。

 この時から、二種族は険悪な関係になったんだ。


「ここまでで、何か質問はあるか?」

「ん~、なんで悪魔たちは生まれたんだ?そんな邪悪な存在が、神様みたいな龍(ドラゴン)から生まれるものなのか?」

「悪魔たちが欲深く人々を惑わすと言われているのは、他の召喚魔法と違い、現代の人々が悪魔を呼び出す際、召喚に必要な魔那だけでなく、何か代償を払って願いを叶えてもらうからだ。だが悪魔たちはただ純粋に、星の民の欲望を叶える存在として生まれたんだ。と、オレは思う」

「なるほどな~、それでパハドはいつ生まれるんだ?」

「もう少し先だ、続けるぞ」


 別次元に天界と冥界を作ったとはいえ、それぞれはまだ現世に繋がっていたんだ。

 当時の世界は、それはそれは美しくてなぁ空と大地に大きな裂け目できていて、壮観だった。

 まだその時は生命もその二種族しかいなかったから、いがみ合う程度でお互いオーラムの下で生命創造のために、天使たちは与えられた任務として悪魔たちは助けてもらえた感謝として尽力していたんだ。

 天使と悪魔のおかげで生命の苗床は完成し、オーラムは生命の創造に移ったんだ。自身の身体から生命と魂の情報を宿した粒子、ラキア粒子を星全体に放出した。

 ラキア粒子は、生命の苗床と、つまりは有機物質と結合し新たな生命核を生み出していった。それらはやがて巨大な生命体へと進化し、3体の龍を創造したのさ。

 しかし、本当はもう一匹龍が生まれていた。だがその龍の命は弱々しく小さかった。死にかけの命を見つけたオーラムがそれを掬い上げ龍(ドラゴン)の身体を与えた、…それがこのオレだ。


「それでお前は、龍(ドラゴン)にしてはどこか歪な見た目なのか」

「そうだ、最初オレは手足も翼も無かった。だからこいつらはオーラムに付けてもらったものなのさ。自前の黒い鱗も無かったから、姉貴たちを真似して生やそうとしたら歪な形になったんだ」

「そうなのか、ところで姉貴って…3体の龍はお姉さんなのか?」

「イイヤ、それだけじゃない。オーラムも一応姉貴だ」

「一応って?」

「“自分が直接生んだわけじゃないから姉弟”なんだと。何かそういう細かいところ拘るんだよなぁ~オーラムの大姉貴は」

「大姉貴ねぇ~笑」

「うっせぇ!」


 オレたちを創造した後、オーラムは姉貴たちの力に合った仕事を与えたんだ。

 まず、オーラムから派生し三者三様に変化したラキア粒子を再び世界に放出させた。

 ラキア粒子はお互いに結合を繰り返し、原初生命体を形成した。こいつらが後の世界で繁栄している人間や魔物の祖先たちだ。でも初期のこいつらには、理性みたいなものが無くてな、姿形も似ていたんだ。

 だから次に姉貴たちは、それぞれの力を発揮して千差万別ある種族の生態系と住みよい世界を作り上げた。

 一人は“知恵”の力をもってして生命に知性と秩序をもたらした。

 一人は“変化” の力をもってして生命に感情と進化を与えた。

 一人は“破壊” の力をもってして大地を練り上げ環境を作った。

 現代では、その御業を称え姉貴たちは“始原龍”と呼ばれている。姉貴たちをそれぞれに信仰している宗教があるくらいだ。


「お前にはどんな仕事が与えられたんだ?」

「オレはな…」


 オレに与えられたのは裁定者としての仕事だった。

 いくら姉貴たちが生命体に理性を授けたとはいえ、当然考えの違う者同士がぶつかれば争いが起きる。オレの役目は、天使たちが仲介役としてその争いを収めた後、負けた罪人たちを断罪することだった。

 …最初はオーラムの大姉貴からもらった大事な仕事だと思って、何千年かは続けてたんだけどよ。ふと、嫌になっちまったんだ。


「嫌に?」

「だってそうだろう?争い合った挙句、煮え切らないまま中断されて、その結果を決めるのは部外者の天使たちなんだぜ?罪人とされた側にも言い分はあるだろうによぉ、天使たちは聞く耳も持ちやしねぇ。オレはな、争ったからには当事者同士が納得するまで争わせ、それでも納得ができないのなら互いが妥協点を見つけるまで止めるべきではないと思うんだ」


 だからオレは、姉貴たちの制止も振り切って天使どもに戦いを挑んだんだ。

 そのせいで、今では天使どもが勝者と決めた子孫である人類から黒龍として邪龍扱いさ!クワッハッハッハー!


「それで、どうなったんだ?」

「…最初は調子よかったんだがなぁ~途中から天使の親玉連中が参戦してきてな、負けてしまったな!」


 負けたオレは、この大陸に突き落とされてなぁ、封印されて魂と肉体に分かれてしまったというわけだ。だからそれからのことは何も知らん。知ってるのは、アモンが転生するまでの十年間で魂のままこの大陸に樹立していた国の中で聞いた話だけだ。

 本当は憎たらしい天使どもに復讐してやりたかったが、天界とはもう繋がってないみたいだったし、姉貴たちの気配はなんとなく感知できるのだが、大姉貴の気配が全くしないのが不思議なんだよなぁ。

 まぁとにかく、これがアモンに出会った時に「お前が見る世界が見てみたい」と言った理由と今までの経緯だ。オレも眠っている間にこの世界がどうなったのか見てみたいし、天使どもへの復讐も方法がない以上諦めだな。


 *


 何とも壮大で一度聞いただけでは、到底理解の及ばない話だった。

 パハドがそんなにすごい龍(ドラゴン)だとは信じられなかったが、こいつの性格からして嘘を言っているということはなさそうだ。

 いつかは、パハドのお姉さん達にも会ってみたいものだな。そして創生龍オーラムが作ったこの世界には一体どんな景色が広がっているのか、今から一層楽しみだ。

 お母さんが明日、今後のことについて3人で話し合うと言っていたし、その際に二人の経緯とこの大陸の事を聞いてみるのも良いかもしれないな。

 今日は、とても長い一日だった。明日も朝が早いだろうから、もう床に就くとしよう。



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