第12話 井の中の龍
難民管理局に入ると、室内は灯りの照明が均等に天井からぶら下がり明るい光で広い空間を隙間なく照らしている。壁にもいくつか三灯燭台がかかっていると思ったがよく見ると、あれも魔法で発光している魔道具だ。二階まで吹き抜けとなって天井がかなり高い、中央から巨大なシャンデリアが吊り下げれている。一階は広々とした受付ホール、受付カウンターに数名の受付嬢が待機、書類仕事をこなしている。両隣には三段ほどの棚が備え付けられ何冊もの書類や書物がぎゅうぎゅうにしまわれている。その奥には、一人用の仕切り付きデスクが四列ほど並び、満席で従業員が業務に励んでいる様子だ。
多種族国家なだけあって職員の顔ぶれも様々だ。人間にエルフ、人狼、デュラハン、ハーピィ、コボルト、ゴブリン。二人から聞いたことのある種族は大体いるが、ここにいるのは、二足歩行の種族ばかりだな。デスク同士のスペースからみて、四足以上の亜人や魔人職員は居ないのだろう。
受付の左手には、二階へ続く階段があり、待合室となっている二階から手すり越しに一階を見下ろせる造りとなっている。手すりへと続く受付の頭上には、木製の大きな「難民管理局」という看板と「受付一階」、「待合室二階」と書かれた看板が取り付けられていた。
建物の二階部分には、縦長のアーチ窓が設けられ昼の陽光が差し込んでくる。手の込んだ彫刻が施されたカウンターが陽光によって芸術品のような風格を醸し出している。
一人の受付嬢が俺の入室に気づいて手を止める。すぐに立ち上がって俺と目が合った。にこやかな微笑に引き寄せられるかのように受付嬢の前まで進み、立ち止まる。彼女の種族は解析をかけるまでもなく人狼だ。人狼の女性が国営の役人らしいビシッとしたスーツを着こなしている。スーツといってもそれぞれの種族に合わせて微妙にデザインが違っている。このお姉さんのスーツは、ホットパンツにレザージャケットという感じの服装で肌(?)面積が非常に広く、もし人間の女性が着たら男の視線を釘付けにしてしまうこと間違いなしだ。体毛がある分、体温調節のためにこのような服装となっているのだろう。
「こんにちは!難民管理局テロス本部へようこそ!今日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは、難民申請をしたいのですが」
「かしこまりました。難民申請のご依頼ですね、それではこちらの書類にお名前のご記入と下の空欄にお手を触れていただき、魔那を少し流してください」
俺は指示に従い、名前を記入したあとに左手を書類に差し出して魔那を流した。すると…熱っ!反射で手を離すと空欄に手の跡がくっきりと焦げ跡となって刻まれ、ゆっくりと消えてゆきだんだんと俺の偽ステータスが文字となって浮かび上がってきた。これで難民申請したことになるのか、前世の紙の手続きと違ってだいぶ便利なんだなぁ。
「はい、これで難民登録は完了です。長い避難生活、大変ご苦労様でした。今後あなたの身の安全は我々レムリア王国が責任をもって保障いたします」
「あ、ありがとうございます」
受付嬢の女性は、俺が返事をすると同時に書類を確認し話し続けた。
「ところでアモン様、今後の生活のご予定はお決まりでしょうか?」
「いいえぇ、まだですが…」
「それでしたら、このあと冒険者組合にて冒険者登録をされることをお勧めします。冒険者の方でしたら宿泊施設の利用が割安なのに加えて、近年魔物の討伐依頼も急増していますのでアモン様のような力の強い種族でしたら、困難なクエストを達成して高い報酬を手に入れることも難しくないとお見受けします」
割安な値段と困難なクエストという心惹かれる言葉に魅入られて、気づいた時には俺の口は勝手に開いていた。
「おぉ!いいですね、ぜひそうさせていただきます!」
「そうですか!でしたら、組合の方へ手続きがスムーズに進むように連絡をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい!よろしくお願いいたします!」
「かしこまりました。それでは組合は、ここを出て王城へ向かう道を真っ直ぐ行った先の中央広場にございますのでお立ち寄りください。ありがとうございました」
建物を出た途端、パハドに後ろから頭をどつかれた。
「何を言ってるんだお前は!」
「(しょうがないだろ!あのお姉さん、誘導がものすごく上手い…)」
「お前が感心してどうする!」
パハドから二発目をお見舞いされた…当然魂内での事なので現実の身体に影響はないが、なぜか痛みは確かに頭に鈍く残っている。
まんまと口車に乗せられたと言ったところだ。これで冒険者組合に行かなかったら今後、難民管理局であの人に出くわしたら気まずいし…登録しなかったら国の施設を利用する時とかに割高で料金をふんだくられそうだしなぁ。
まぁ冒険者にはどうせなる予定だったし、時期が早まったと思えばどうってことない!
「それでアモン、お前ぇ金はどうするんだよ?」
「(金…?……あぁああああああ!そうじゃん!俺、金一文も持ってねぇじゃん!)」
「忘れてたのかよぉ…何か持ち物売って金にするしかねぇえんじゃねぇの?」
持ち物を売る…?そうだ、手に入れた大剣と大盾!あれの大盾を売ろう、大剣の方はまだ予備で使えるかもしれないから、これはまた金が必要になった時の最終手段ってことで保留だ。
そうと決まればあとは、買取店を見つけるだけだな。これだけ店が立ち並んでるんだ買取店もすぐに見つかるだろうが、ここは誰か人に聞くのが一番だ。
俺は周りを見渡し、街道を歩く一人の女性に話しかけた。
「失礼、そこのご婦人。一つ訪ねたいことがあるのだが構わないだろうか?」
「ええぇ、構わないともさ。難民管理局から出てきたってことは、あんた難民なんだろう?ラカヴなんて危険な所から来たんだ、遠慮するもんじゃないよぉ。私の旦那もラカヴへ調査に向かう冒険者の一人でねぇ、昔ラカヴに住んでる魔人に助けてもったことがあるんだよ。だからラカヴの魔人さんには恩があるってわけさ、だから何でも聞いとくれ!」
「ありがとうございます。実は、買取店を探していて」
「あぁ!それなら…」
女性は自分に付いてくるように手招きすると、俺は柱に囲まれた円形の石床の前まで案内された。建物同士の間の各地に点々とあったそれは人が10人は入れそうな広さがあり、円の中に入ると床に魔法陣と空間に都市の地図が浮かび上がった。
「これは、魔導転移装置と言ってね。お金を払えば都市内に設置された別の装置のところまで転移魔法で転移させてくれる便利な魔導機械さ!皆は、これを転移陣って呼んでるよ」
転移陣か、父さんから聞いたことがるな。転移魔法で人や物を瞬時に別の場所に移動できるという魔導機械、これがそうなのか。
「あんたが行きたいのは、買取店だったね。ってことは、金に困ってんだろう?だったら今回はあたしの払っといてあげるよ」
「本当ですか!助かります!ありがとうごうざいます!」
俺が頭を下げて感謝を伝えると女性は笑顔で答えてくれた。
女性が場所を指定すると、空間に硬貨の投入口と手のひらサイズの魔法陣が現れた。
「それじゃあ、転移するからじっとしてるんだよ!」
転移に必要なだけのお金を入れ、魔法陣に手をかざした瞬間、俺と女性は光に包まれ次に目を開けると全く別の場所の装置へと転移していたのだ。魔導転移装置から出ると、女性はまた道案内を始めた。
「…ここだよ!ここの店主は目利きのできる爺さんでねぇ。魔化鋼も扱ってるほど優秀な鑑定士なんだ、だからお城からの支援金も出てるし、どんな高価なもんでも支払えないなんてことはないはずだよ」
「ご親切に道案内までしていただき、本当にありがとうございました」
「いいって事よぉ、達者でねぇ~」
そう言うと、その女性は来た道を戻って去っていった。あんな親切な人もいるんだなぁ~と、俺は心の底から思った。しかし、まさか目的の買取店が冒険者組合のすぐ隣にあるとは思わなかったなぁ。クエストで手に入れた魔物の素材や鉱石を買取店に買い取ってもらう仕組みなのだろうか。
それにしてもずいぶんとおんぼろな建物だなぁ。さっきまでいた難民管理局やすぐ隣の組合と比べると、全体木造りだしところどころガタが来ている。ご立派な金貨の入った袋の絵をあしらった看板が飾られているが今にも倒れてしまいそうな平屋だ。本当にここが優秀な鑑定士が経営している買取店なのか?まぁそこは、道案内してくれた女性を信じて、入店するとしよう。
キィィイイイーーー!!と木が軋む音を立てながらドア開くと中は薄暗く、ランタンから出る紫色の光が部屋をぼんやりと照らすだけだった。ドアを閉めればたちまち真っ暗になり、ランタンの光しか見えなくなる。だが、それは人間の目ならの話だ。この竜人の瞳は月灯りだけの夜でも昼間と変わらないほどにはっきりと闇夜を見通すことができる。
この暗闇の中でランタンが光っていれば、逆に眩しいくらいだ。周りにはいくつもの大小様々な棚とそこに並ぶ数えきれない調度品や散乱された宝石、魔物の素材、瓶の中に謎の液体と共に浸けられた目玉、骨格標本などなど。それらに囲まれて狭いテーブルの前にこれまた豪華な椅子に座る一人の老人、それとこれは猫か?猫のような魔物が老人の膝の上で寛いでいる。
俺が迷うことなく数歩で老人のもとまでたどり着くと暗闇から老人の声が聞こえた。
「お前さん、この暗闇で儂のことが見えとるなぁ?」
「えぇまぁ、目が良いもんで」
老人が天井から伸びる紐を引っ張ると、照明の明かりが一斉に付き出し部屋の全貌が明らかとなった。
周りに置かれた棚や机、椅子から絨毯まで全てが真っ赤の深紅色。しかしながら、それら全て一級品だとすぐ見て分かる程の金細工や金糸が施されている。目の前には、身長150㎝もないくらいの小柄だが、失っている左目には巨大なダイヤが義眼として埋め込まれていて右目には片眼鏡をかけた色黒白髪な高頭部だけ禿げた天パヘアーの爺さんが現れた。
「悪趣味な爺さんだ」
「そりゃあ最高の誉め言葉じゃわい、ホーホッホッホッーー!!…坊主、初めて見る顔じゃが新参者かぁ?」
「あぁ今日この国に来たばかりでね、金が要るんだ。ここで買ってほしいものがあるんだが…」
俺は、荷物の風呂敷を広げて木箱の中からベラスカの大盾を取り出した。布に包まれた大盾を店主の爺さんの前に丁寧に置き、布の封を解いた。姿を見せた大盾を爺さんは、さっきまでの薄ら笑いを浮かべた老人の顔から打って変わって、職人の鋭い目つきと眼光で吟味し始めた。俺はロングソードを肩から下ろし手前に置かれた椅子に腰かけて、爺さんの鑑定を待つことにした。
しばらくして、爺さんがおもむろに口を開いた。
「ほぉう坊主、この大盾どこで手に入れた?」
「ラカヴから逃げる時に、襲ってきた魔人を殺して奪ったんだ」
という設定で通しているので、ここもとりあえずこの話でいこう。
「…悪いが布にくるんである武器の方も見せてはくれんか?」
「いいとも…」
俺は、木箱にしまってあったもう一つの大剣も取り出して、爺さんの前に差し出した。
「ふむ、坊主…儂は元々鍛冶師の出じゃ。やけぇその武具を見れば量産品なのか特注品なのか、どんな奴のために作られたのかはすぐに分かる。こいつらはどう考えても特注品じゃ、これほどの素材と装飾の武具を量産したなんて話はこの大陸で聞いたことがない。この武器を作れるもしくは支給されるような魔人にお主が勝てるとは思えんのじゃがのう。この武器の価値が分からん門兵どもは騙されても、儂の目は誤魔化せんぞ坊主、もう一度聞くぞ…この二つどうやって手に入れた?」
「うっ、うぅぅ…」
まさか、嘘が見ぬかれるとは…ここは多少本当のことを話して信じてもらうしかないな。
「嘘をついたのは、悪かったよ。今は、魔力もオーラも抑えているんだ」
「では、なんでお主は逃げたんじゃ?この武器を扱う魔人を屠れるなら、襲われた際に返り討ちにできたじゃろ?もしお主がこの国に潜入しにきたラカヴの魔人なら、儂は国民の義務として死んででも城に危険を知らせねばならんのでのう」
俺は逡巡し、踵を返したくなる思いに駆られるが冷静に頭をフル回転させて返答した。
「確かに返り討ちにはしたぜ。だが、それとは別件で前々から角蛇族の母親から聞かされていた親父の故郷であるこの国に行ってみたいと思っていたんだ。それで金が入用になったらこれを売ろうと思っていたのさ」
半分嘘はついてない。返り討ちにしたのもレムリアに行ってみたいと思っていたのも本当だ。むしろ嘘のほうが少ないくらいだが、これで信じてくれないだろうか。
「…そうかでは、最後に質問じゃ。お主はこの国で悪事をはたらく気はないのじゃな?」
「…ない!」
「…いいじゃろう!この大盾買ってやる。お主が言っとる事も大体はホントじゃろうし、ここにやってる連中はどいつも脛にいくつも傷を持つ奴ばっかりじゃから、少し試させてもらった。悪かったのう!」
鋭い目つきで俺を睨んでいた爺さんの顔が一気に笑顔に戻ったのを見て、ほうっと俺はクリスタルの露出した胸を撫で下ろした。
「はぁ~びっくりさせないでくれよぉ~爺さん!」
「ホーホッホッホッーー!!お主は少々騙され慣れとらんようじゃったから、からかってみたくなってのう!ハッハッハッ!」
まったく、底知れない爺さんだ…考えてみれば一癖も二癖もある冒険者たちを相手に長年商売を続けてこれているのだから、その風格は海千山千のベテラン鑑定士と言った感じに見えてきた。
「…ほれ、買取金額の金貨120枚じゃ」
「え、こんなに!?いいのか?」
「妥当な金額じゃあ、大剣とセットなら300出してもええがのう。それと20枚はおまけじゃ、お主金は一枚も持っとらんのじゃろう?これだけあれば暫くは生活に困らんじゃろ。悪趣味な爺さんからの餞別じゃ、遠慮せず受け取れい」
いきなり120枚の金貨という大金を手に入れた俺が、金貨の入った袋を持って目をぱちくりさせて見つめていると、爺さんは嬉しそうに続けて言った。
「…本当に坊主が侵入者なら城に報告せねばならんかったところじゃが、儂はお主を気に入った。お主のように馬鹿正直に感情が顔に出る冒険者は久しく見とらんかったでなぁ」
「ありがとう!感謝するよ爺さん!」
爺さんに感謝を告げ、俺は椅子から立ち上がり荷物の整理を始める。金貨入った袋と大剣を木箱にしまって再び風呂敷で包み上げて片手で持ち上げる。椅子にかけていたロングソードを肩に迎え入れ、爺さんに背を向けて歩き始める。
「今度は、魔物の素材が手に入ったらまた来いよぉ~いい値で買ってやるからのぉ~」
「あぁあ!そうさせてもらうよ爺さん!」
「バルドじゃ、儂の名はバルド・グランツ!」
「そうかい!また来るぜ!バルドの爺さん!」
キィィイイイーーー!!と二度目の木が軋む音を立てながらドア開くと、今度は日が少し傾いたまだまだ明るい大通りが顔を見せる。俺はゆっくりとドアを閉め、ガチャンというラッチが掛かる音を確認し、買取店を後にした。
「陽気な爺さんだったなぁ」
「(あぁお前と気が合いそうじゃないか?)」
「はっは!確かに。面白い爺さんだったし、中々粋なことしてくれる人じゃねぇの」
「(そうだな、魔物の素材が手に入ったらバルドの爺さんに売ってやらなきゃな!)」
「ああ、そうしてやんな!ハッハッハー!」
とりあえずこれで、冒険者登録料と暫くの生活費は手に入ったな。この世界の金貨の相場が一枚10万円くらいだったから、バルドの爺さんが「これだけあれば、暫くは生活に困らない」と言っていたように、1200万円もあれば冒険者登録して数週間の宿代にはなるだろう。ということでさっそく隣の冒険者組合へ行こう。
俺は、買取店の玄関を出てからすぐ左隣の建物の前へ立ち、それを見上げた。
でかい、さっきも見たが、かなりでかい。
難民管理局と比べても無類のでかさだ。それに建物の出来もレンガ造りの難民管理局よりも金がかけられている。
滑らかで均一に仕上げられた白い漆喰を身にまとう五階建ての施設。赤褐色の屋根瓦は幾重にも折り重なり、四つ角に建つ尖塔と複雑な形の屋根を覆っている。塔の頂部には組合の紋章である剣と盾、それと天秤の紋章があしらわれた旗があげられ、風に乗りなびいていた。
四面の壁には縦長の窓が各階三つずつ並び、その一部には黒い鉄製の手すりを備えたバルコニーが設けられていた。建物の正面中央には、ひときわ大きなアーチ状の入り口が幅広い石段の先に据えられた両開きのガラス扉と共に冒険者達を待ちわびている。
流石は、国で一番活発な職業と名高い冒険者達が集まる組合だ。難民管理局を出てから組合に近づくにつれて冒険者の身なりが良くなっていくように見えたが、この建物を見れば、冒険者がどれだけ繁盛しているかが推察できる。
「入らないのか?アモン」
「(さっきから出入りする冒険者の方々を見てると、自分の身なりがみすぼらしくて恥ずかしくなってきた…)」
「大丈夫だ、そこら辺の冒険者がお前に適うわけねぇだろ?オレだってついてるんだ。ほら、安心して、さっさっと行けって、ほら、早く」
「(お、おい、魂で魂を押すなよぉ~)」
「押してねぇよ、お前が押されてる気になってるだけだ。いいから早く行けって!」
「(分かった!分かったから…ったく)」
パハドに触れられないはずの背中を押されて、渋々組合の中に入る俺であった。
カランッコロンッとドアベルの音が建物内に涼やかに響くと、それに気付いたウェイトレスのような恰好をしたエルフの女性が俺に声をかけてきた。
「いらっしゃいませ!冒険者組合へようこそ!アモン様!お待ちしておりましたぁ!」
元気溌剌に声をかけてきた俺より顔一個分背の低いオレンジ髪のエルフの女性は、いきなり俺の名を口にした。難民管理局の根回しの速さには驚かされるな。
冒険者達で活気づいている一階は、クエストカウンター兼集会所になっているようで大きな受付カウンターで酔いどれた中年の冒険者を適当にあしらっている受付嬢やテーブル席で何かの話し合いをしている多種族混合の冒険者達、クエストボードでどのクエストを受けようかと悩んでいる人間のベテラン冒険者などで溢れ返っている。
「さぁアモン様、こちらへどうぞ!」
「あぁ、どうも…」
エルフの従業員に受付カウンターへと誘導されながら、周りを見ていると気付いたことがある。この国の女性職員…かなり平均レベルが高い!美女が多いどころか、男性職員も美男子ばかりだ。ちらっと横を通ったラミアのウェイターの子なんか、一瞬女性かと思ったぜ…恐るべし、レムリア王国!
俺が周りに気を散らしまくっていると、気づかぬうちにカウンターの前まで到着していた。
「セルフィーナさん!ご予約のアモン様がご到着されました!」
「あら、ありがとうアルティちゃん。あとは私が対応するわね」
奥の職員テーブルから返事がするとこちらにこれまた美人な白髪ダークエルフの受付嬢さんがやってきたではありませんか。スタイルについて言うまでも無いがそれよりも背の大きさに驚かされる。俺とほぼ同じじゃないか、ヒールで上げていたとしても165以上はあるぞ。入国してから初めて真正面から他人の顔を見たな…
「なに鼻の下伸ばしてんだよ」
「(の、伸ばしてねぇよ…)」
「伸ばしてたぞ、地面に突き刺さるぐらい伸ばして――」
「(伸ばしてないっ!!)」
セルフィーナと呼ばれる美人な受付嬢は、俺が黙っている(パハドと話している)と不思議そうに妖艶な笑みを浮かべて俺に声をかけた。
「あのぅ、私の顔に何か付いていますでしょうか?」
「あ、あぁ!いいえ、つい見惚れてしまいまして…」
「ふふっ、ありがとうございます。アモン様、さっそくですがご予約内容は、冒険者登録で間違いございませんでしょうか?」
「はい、冒険者登録でお願いします」
まずい、うまく言葉が出てこないぞ。本当に見惚れてしまいそうだ。55年どころか前世も合わせると65年以上も母親以外の女性とまともに話していなかった弊害がここで出るとは…てか、ご予約って何だ。俺、予約した覚えなんてないぞ。スムーズに手続きが進むってまさか予約のことだったのか!?
「かしこまりました。それではまず登録料として銀貨一枚とお支払いいただき、こちらの書類にサインと魔那を流してくださいませ」
「わ、分かりました」
風呂敷内の木箱の中に入っている袋からガサゴソと金貨を一枚取り出し、彼女に手渡した。
「金貨1枚ですね、ではお釣りの銀貨19枚になります。」
「…どうも」
「こちらが、冒険者登録の契約書になります。こちらにサインと魔那をお願い致します」
「分かりました」
俺は名前を記入した後、難民管理局でやったのと同じように契約書に魔那を流し込んだ。今回は熱くなるのは知っているので、それほど驚かなかったがこれだけで個人のステータスを読み込めるなんて、すごい技術だなと驚かされる。
「ありがとうございます。これで冒険者登録は完了になります。お疲れ様でした、最後に冒険者となったアモン様には軽く冒険者と冒険者組合について説明させていただきます」
セルフィーナさん曰く、冒険者とは冒険者組合に所属する民間の職業人という立場らしく、組合から請け負うクエストをクリアして報酬を得たり戦利品を売って金銭を得たりすることで生計を立てているのだとか。そのため、冒険者と言っても中には商人や運搬人を職業としている者も多いらしい。クエストの依頼主は、一般人であることや国からの依頼であることもあり様々だ。
基本国の軍には所属しておらず、国の戦闘命令に従う義務はないがその反面、医療施設や公共施設を利用する際の料金が割高となっている。その補助として組合からは、宿泊施設や飲食店などの利用料は割安となっているらしい。組合に所属するメリットとして、無料で救助支援を受けられる点が挙げられる。組合が所有する特別な救助チームがあるそうで、そのおかげで組合に所属する冒険者は後を絶たないのだとか。また、優秀な冒険者は城へ召し抱えられる稀有な例もあるそうだ。
次にここの冒険者組合だが、一階は見ての通りのクエストカウンターと集会所、二階は食事場兼酒場になっていて夜は大抵ここに冒険者達が集まるらしい。三階より上は全て宿部屋になっているそうで、冒険者は国内で生活している時は宿泊施設を利用することが多く、住んでいるのは難民の亜人や魔人が多いのだとか。組合が運営している宿屋もあるが個人が経営している宿屋もあるらしい。個人で経営している宿屋は、質がピンキリで悪いところは相部屋が基本だが、高級なところだと組合の職員ですら泊ってみたいと思えるほどの施設なんだとか。
平均的に高品質を提供できる組合の宿屋に泊まることをお勧めされたので、行く当てもなかったしここの宿屋に泊まることにしたのだ。
そんな話だったのを五階の自分の宿部屋のベッドで復習していると、パハドが話しかけてきた。
「一週間夕食付で金貨一枚かぁ~今ある金貨が119枚だから…単純計算で17週間。約四ヶ月ってところだなぁ~これで割安なのかねぇ」
「まぁ前世の高級ホテルと遜色ないレベルなら一週間で10万円は十分格安なんじゃないか?泊ったことないけど…壁には防音魔法が施されてるし、専用の浴室、部屋の清掃、追加料金でルームサービスまで付いてくるんだから、文句はないよ」
「お前がいいなら、いいけどよ。それよか、これで衣食住の食と住はしばらく困らないが、衣はどうするよ?」
「それは明日買い揃えるさ。動きにくい鎧よりかは機能性重視の布素材のほうがいいから、そんな巨額にはならないと思うぞ」
「しかしぃ今後の出費を考えると、四ヶ月も住んでらんねぇぞぉ。必要出費を差し引いた分で計画的に使わねぇとな」
「分かってる、分かってる。とりあえず今日は疲れた、話はまた明日なぁ…」
「ったく、しょうがねぇなぁ…」
俺はパハドの苦言を右から左へ聞き流し、久しぶりのベッドで眠りについた。肌に触れるシルクがとても心地いい。やはり、人間ベッドで寝るのが睡眠の質的にも、知的生命体の在り方としても大切なのだと改めて思うアモンなのであった。(人間じゃないけど…)




