第13話 はじめてのクエスト
首都テロスにたどり着いて初めての朝を迎えた俺は、首都を四分する南のメインストリート、その中央広場近くにある冒険者専門の武具を扱った武具工房を訪れていた。昨日、組合で出迎えてくれたアルティちゃんことアルティシアちゃんからの紹介だ。
余談だが、アルティちゃんとセルフィーナさんは昔冒険者をしていて、同じ冒険者チームだったらしい。それを聞いた俺は、「若いのにすごいねぇ!」と褒めるつもりで言ったら、「こう見えてもアモンさんよりずっと、お姉さんなんですよぉ~!」と意外な事実を知ってしまった。あんな、人間の十代と変わらない見た目をしておいて、俺よりも年上なのだと言う。
俺も18歳の角蛇族の混血ということにしているが、本当は竜人で55歳だ。しかし母さんからは、エルフという種族は500年以上の寿命を持ち、見た目も成人した人間に近い姿から変わることなく年を取っていくと聞いた。だから、本当に俺よりも年上なのかもしれない…
武具工房に来た目的は、俺の体格に合った装備を揃えるためだ。ここは亜人から魔人まで様々な種族に合わせた武具をオーダーメイドで製作していて、大量生産されている普通の防具では身に付けることのできない者たちには、うってつけの店というわけだ。その代わりに代金に加えて必要素材まで要求してくるという癖のある名店なのだとか。
店の中は、オーダーメイドで武具を作るだけあって製作した武器や防具どころか陳列棚すらない。あるのは、客と話すための椅子と大きい机、奥に金銭のやり取りをするためのカウンターくらいだ。
カウンターの横にある重厚な鉄の板で作られた扉の奥からは、カンッ!カンッ!と鉄を打つ音と焼ける炭の臭いがわずかに漂ってくる。魔力探知でも店主がいるのは確実だ。俺は、奥の店主に聞こえるように声を張り上げた。
「失礼!組合のアルティシアから紹介を受けて来ました。アモンと申します!」
「・・・・・・」
返事なしか。向こうも魔力探知で俺が来ているのは気づいているはずなんだがな。仕方ない、解析鑑定をかけて無理にでも気づかせるか。
…解析完了
名前:フリード・グランツ
種族:人間
役職:鍛冶師
称号:匠
二つ名:鉄槌
魔法: 火種、灯火
スキル:解析鑑定、魔力探知、思念伝達
耐性スキル:高濃度魔那耐性、炎熱耐性、低酸素耐性
<統合スキル>
「一糸巧匠」
職人技…あらゆる鍛造行程の精度が上昇する
火炎温度計測…炎の温度を視覚で具体的に把握する
魔法縫い…衣服に魔法を付与する
解析完了しちゃったよ…突然解析鑑定なんてされたら普通抵抗するだろ…なんて集中力だ。それともステータスを見られても構わない性格なのか?仕事中は客が来ても無視するタイプなのだろうか?
とにかく、埒が明かないので工房であろうその奥の部屋に入ろうと鉄扉を開けた。中に入ると、熱気と炭の粉末で満たされた部屋に一人で黙々と高温で赤くなった鉄を打ち続けている筋骨隆々の男がいた。
俺が声をかけるよりも先にその男は向こうを向いたまま口を開いた。
「アルティちゃんの紹介だと言うわりには、ずいぶんと礼儀を欠いた客人じゃないか?えぇ?」
なんだよ、声聞こえてたんじゃないか。それなら返事の一つくらいしてくれても良かっただろ。
「失礼した、気づかれていないと思ったもので。不本意ながら勝手に入らせてもらった」
「そうかい、不本意ならさっさと出てってくれ。こっちは仕事中なんだ」
いきなり皮肉を言われるとこっちも傷ついちゃうんだがなぁ…この親父さんかなり頑固者なのか?でも、解析鑑定をかけたことには言及してこなかったし、アルティシアちゃんをあだ名で呼ぶあたり、人付き合いが苦手で頑固一徹な職人気質の人ではなさそうだ。それなら…
「これは仕方ないなぁ、となればアルティちゃんに追い返されたと言って他の武具屋を紹介してもらうしかないなぁ」
俺がそう返すと、鉄を打つ手が止まった。よし、食いついたぞ。もう一押しだ。
「アルティちゃん何て思うだろうなぁ~駆け出しの、ましてやこの国に来たばかりの魔人を粗末の扱ったとあっては、彼女もさぞ悲しむだろうなぁ~。まぁだが仕方ない、帰れと言われたからには非礼を詫びて帰るしかあるまいて、では失礼仕る~」
「待て…」
俺がフリードの言葉を聞き流し、鉄扉を開けようとしたところで肩を掴まれたので、余裕のしたり顔を浮かべて振り返った。
「出ていけと言ったのは、部屋の外で待ってくれという意味だ…だからアルティちゃんにはこの事は内緒に…な?」
「…どうも!」
しばらくして鉄を打つ音が静まり、足音がこちらまでやってくると鉄扉を開けて俺の座る椅子までフリードがやってきて反対側の席へと座った。
「いやぁ待たせてすまないねぇアモン君」
「いえいえ、こちらこそお忙しい時に出向いて申し訳ない。それに先ほどはアルティちゃんを出しに使って悪かったよ、だからそんな遜らなくて結構だ。いつも客を相手にするように話してもらえると俺も助かる」
フリードはアルティちゃんに告げ口をされるのではと、緊張した面持ちを和らげてさっきまでの少し強面な表情に戻った。
「ほぉ~それならよかったぜぇ、なんせ俺ぁああいう子に弱くてなぁ」
確かに。この人、アルティちゃんみたいなカワイ子ちゃんにめっぽう弱そうだもんなぁ。
「それで、アルティちゃんに紹介されたってことは、防具が入用なんだろ?」
「あぁ、俺の体格に合った普段使いできる布装備を数着注文したい。もちろん素材は言われた物をこちらで用意する」
フリードは手を髭の生えた顎に置き、眉間に薄く皺を寄せて熟考し始めた。「ん~」と小さく唸り声をあげて悩む表情を見るに何か問題があるのだろうか。
「注文を受けてやりたいのは山々なんだが、今受けている仕事が滞っててなぁ」
「それは、何が原因なんだ?」
それとなく質問してみると、フリードは快く答えてくれた。
「実はなぁ、仕事の素材で海や砂浜に生息するタイドスコルっていうサソリ型の魔物の甲殻を要求したんだが、そいつが捕らえてきたタイドスコルが幼体でなぁ。依頼された防具を作るのには質も量も足りてねぇんだ。一度引き受けた以上、無理だと言うのは忍びねぇ、だから今、組合に捕獲クエストを出しているところなんだが、熟練の冒険者たちは丁度、ラカヴへの遠征で出払っててなぁ」
「なぁそいつ海や砂浜にいるって言ったよな?」
「あ、あぁそうだが?」
海かぁ~!こっちに転生してからずっと山暮らしだったし、それどころか前世じゃあ海に行ったことすらなかったからなぁ。海…行ってみたいなぁ。
「なぁフリードさん!俺がそいつを捕獲してきたら、俺の依頼すぐに引き受けてくれるか?」
「おぉそれはもちろん、でもアモン…お前さんタイドスコルと伐り合ったことあんのか?あいつらは、尻尾には猛毒が仕込まれて、両手のハサミは鋼鉄も紙みたいに切っちまう凶暴な魔物なんだぜ?」
「(どう思う?パハド)」
「聞く限り、ハサミはお前の身体に傷をつけることはできても切断までは到底できんだろう。尻尾の針も同じくらい鋭いとしても猛毒は毒耐性で致命傷にはなり得ないだろうなぁ。それに今まで伐り合ったラカヴの魔物らに比べたら、虫取りに行くようなもんさ」
「(ふふっ、同感だ…)」
俺は、しばらく考えるふりをしてから机に身を乗り出し再び余裕の笑みを浮かべて答えた。
「安心してくれ!フリードさん、俺には毒耐性もあるし魔人としての身体能力もある。そこら辺の冒険者よりかは、任せても損はないと思うぜ?」
「本当か!?」
「あぁ!俺は角蛇族との混血なんだ、タイドスコルくらいラカヴにいる魔物に比べたら大したことはないさ!」
フリードは、驚いた表情をみせると希望に満ちた目で俺を見つめてきた。
「さすがは魔人だな!それじゃあ頼むよ。依頼が済んだら大急ぎで注文の品に取り掛からせてもらう」
「あぁよろしく頼む!」
俺はそのあと、フリードからいくつか情報を聞き捕獲後連絡を取るために魂を一度接続させてからさっそくクエストに向かおうと店を出ようとした。
「そういえば、あんたバルドの爺さんの息子かい?」
「っ…!?アモン、親父の知り合いなのか?」
今日会って一番の驚いた顔をするフリードを見た気がする。そんなにバルドの爺さんと繋がりのあるやつが珍しいのだろうか。
「あぁ、テロスに着いてから世話になってな。荷物を売ったら餞別でしばらくの生活費をもらった」
「そうか…親父がねぇ、親父が認めたあんたなら今後とも商売を重ねても悪いようにはならないだろう!…とにかく、タイドスコルの捕獲頼んだぜーー!」
思った通り、フリードはバルドの爺さんの息子だったのか。解析鑑定をかけた時からそうじゃないかと思ってたんだが、バルドの爺さんも元鍛冶師だって言ってたし、もしかしてと思ったら本当に親子だとはなぁ。
俺はフリードに軽く手を振って、タイドスコルが棲息する南の海へと向かうことにした。
さて、注文料の金貨10枚は先に渡しておいたから、あとはタイドスコルの捕獲と衣服用の素材だけだな。その素材はと言うのは前世でいう蚕に似た亜人、メタクシが作り出す絹糸が必要らしい。レムリアから北上した森に村を作って、たまにテロスへ絹糸を売りに来ているのだとか。
しかし今回は、村に直接出向いて絹糸を売ってもらうしかない。それは近年、ラカヴからやってくる種族が生存競争に負けた無害な者たちだけでなく、国を襲いにやってくる魔物や魔人も増加傾向にあり、メタクシが村に隠れてテロスへ絹糸を卸に来なくなってしまったからだ。そのせいで、首都テロスで出回る絹糸が高騰し偽物まで出回ってきているそうだ。
やはり、父さんが危惧していた通り、ラカヴからの魔物や危険な魔人は増えているのか。俺が住んでいた50年の間に盆地で出くわした魔物はどいつも一筋縄ではいかなかった、盆地を避けて西へ進行していた連中はレムリアやその周辺の村や町に被害をもたらしているのかもしれないな。
メタクシの村から行商人が来なくなったことを考えると、その途中の道、もしくは村の周辺に危険な魔物や魔人が姿を現していると考えて間違いないだろう。
メタクシの件も早急に解決しなければと思うがそれはそれとして…腹が減った。今日は朝から何も食べていない。それにフリードから聞いた話では、タイドスコルの肉はかなり美味いらしく成体ともなれば一流の冒険者しか口にしたことがないほど希少で絶品なんだとか。
海で採れる蟹や海老などの甲殻類が持つ濃厚な甘みと旨味を凝縮したような味わい。両腕の肉はアヒージョにすると最高で、身体から尻尾まではスパイスと調味料で甘辛く味付けすると米によく合うらしい。
55年間、米が食べれていない身からすると考えるだけで涎が止まらない。くそぉ…こんなことなら途中の通りに面した飲食店で朝食を済ませておけばよかった。だがしかし、もう既にタイドスコルの口になってしまったからには、昼食も手遅れだ。何としてでもタイドスコルを捕獲し、今日の晩飯にしてやる。
「なぁ何か目的変わってないか?」
「(そんなことはないさぁ、フリードに甲殻を届けたらすぐに晩飯にするだけだ!)」
「いや、だからそれが目的じゃ――」
「(変わってない!)」
*
朝に武具工房近くに転移するのに利用した転移陣へと戻り、南の砂浜に一番近い転移先へと転移した。それから砂浜へ続く街道を歩いていると、遠くからレムリアを囲む城壁が顔を出してきた。その上には、朝早くから勤めているであろう警備兵たちが巡回している。
「おっ!?あれは…?」
タッタッタッタッと、俺は駆け足で城壁の上で堂々とまるでその身を天へと届かんばかりに伸ばそうとする者たちの下へと向かった。
「これが…これがあのレムリアが誇る軌道走行型魔導加農砲か…!?」
父さんから何度も聞かされたレムリアを守る8門の魔導式魔那収束重粒子砲。城壁を滑るように移動して敵を自動補足、砲身に刻まれた高度な魔那加速術式と魔那収束術式により撃ち出される高密度の魔那の塊は触れたものを跡形もなく消し飛ばす。
それを実現させるのが砲身から砲架、揺架に至るまで全ての部品材料に採用されている魔化鋼だ。純度100%の魔那の結晶で作られた大砲たちは、黒いラピスラズリのような重厚感のある神秘的な輝きを放っている。
500年前に進行してきた魔王と人間の軍隊をこれの試作型、試製魔導加農砲が海を進む大型船と空を進む魔人たちを消し炭にしたのだ。ついに侵略軍は、レムリアの大地を踏むことはなかったのだという。現代では海空だけでなくラカヴから来る陸の魔物たちにも対応し、更に威力と性能が上がっていると聞く。
今、俺の前に見えるのは、その8門のうち南の海を見張っている4門だ。500年前の侵略以降、別大陸からレムリアへ攻め込んで来る敵はいないが、別大陸に最も近い南の海には最低でも1門以上は必ず配置するようにしているらしい。
父の懐かしい話を思い出していると、海へと繋がる城門の前へとたどり着いた。俺は海へ続く城門を抜けようとすると、入国時に止められた兵士と同じ装備をした門兵に行く手を阻まれた。
「失礼、魔人のお方。ここから先は組合からの許可を得た方しか通ることはできません。許可を得ていましたら、こちらの魔法陣へ手をおかざし下さい」
俺は、黙って魔法陣へと手をかざした。すると、ピピッと魔法陣から何かが反応した音が鳴った。
「冒険者のアモン様ですね、捕獲クエストのご依頼を受託されていることを確認しました。…はい、組合からの許可も確認できました。どうぞお通りください、お気を付けて」
「どうもっ」
俺はさも当然かのように門兵の前を通り過ぎ、城門をくぐった。実は、店を出る前にフリードから組合には許可を出させておくと言われていたのだ。最初は組合にクエストへ受託許可の申請を出しておいてくれるのだと思っていたが、ここに来てようやく理解した。フリードの言っていた許可とは、もちろんクエスト受託の許可の意味もあったのかもしれないが、城門への通行許可という意味だったのだ。
長い城壁を抜けると、水平線まで広がる雄大な海原が俺の目の前に広がっていた。砂浜には何人かの冒険者らしき装備をした人間や亜人、砂浜で遊ぶ魔人の子供とそれを見守る親の魔人が二人。どうやら組合の許可と言っても言うほど重苦しいものではないようだ。一般人でも砂浜に来れているのを見るに、申請さえすれば誰でも通行できるのだろう。ただし、通行自由にしてしまうと、城壁の外に生息している魔物に襲われる危険があるという理由で許可制にしている、と言ったところだな。危険な魔物が出没すれば冒険者やそれらに対応できる者にしか許可は出さないといった感じだと俺は推測した。
「さて、タイドスコルの生息地は城壁近くの砂浜から西へ行った魔物が多く生息している岩礁近くの砂浜だったな。あっちか…」
俺はとりあえず、西へ向かって歩くことにした。魔物の気配なら魔力探知でかなりの数を探知できているが見たこともない魔物ばかりでどれがどいつだか見当もつかない。タイドスコルがサソリ型の魔物だってことしか情報がない以上、襲い掛かってくるのを待つか先に見つけて捕獲するしかない。
それにしてもなんて広い砂浜だ、海から城壁まで600mはあるぞ。首都テロスもそうだが端まで魔力探知が収まらない。フリードが営む武具工房から城壁まで大体450㎞だったからなぁ、城まで続く街道が約700㎞ってことなる…どんだけでかいんだよこの国。
本気で走ればすぐに着けるのだがそれでは周りの建物が半壊状態だ。移動に出費がかさむが、時短にもなるし転移陣そのものは便利なので文明の利器にあやかるとしよう。
少し進んだ先で俺は周囲を確認するために辺りを見渡した。
「ここまで来れば誰も見てないな…」
俺は、昨日までずっと抑えて我慢していた魔力とオーラを開放した。少しずつ慣れていかなければならないが、最初の内は時々休憩を挟まないと窮屈で疲れる。
「ふぅ~すっきりした。半日持ち続けた重い荷物をやっと下ろせた気分だぁ、これでクエストに専念できる」
それに今回は開放していた方が好都合というものだ。魔力やオーラの高い存在が自分の縄張りに入ってこれば、魔物としても外敵を排除せざるを得まい。タイドスコルは凶暴で好戦的な魔物らしいし、そのうち襲い掛かってくるだろうさ。
砂浜を歩き続けて1時間、一面砂だった地面に岩肌が増え魔物の数も増えてきた。そして、俺の足元まで波が届き、潮が満ちてきた頃、魔力探知で海から急速接近する三匹の魔物を感じ取った。
「おいアモン!さっそく来たぞ!」
「あぁ!そうみたいだな!」
砂の下から器用に地中を掘り進めてきたタイドスコルたちが一斉に飛び上がり、連携の取れた動きで瞬く間に俺を取り囲んだ。
キュィイイイイイ!!!カン!カン!ゴギュルル……
俺を威嚇する金切り声、ハサミや顎を打ち鳴らす乾いた音、水を含んだような低い鳴き声。蒼黒く銀色に光る甲殻、サソリのような身体に蟹のような巨悪な二本のハサミ。
…解析完了
生物名:タイドスコル
・海や砂浜に生息するサソリ型の魔物。
・主に海中や砂浜の魚や小動物を尻尾の毒で昏倒させて動けなくなったところをハサミで切り刻み細かい肉塊にしてから捕食する。
・知能はとても高く、凶暴で好戦的だが決して一匹では狩りをせず必ず複数体で数的優位を確立させてから獲物を狙う。
・レムリア周辺の海域では、生態系ピラミッドの中位層に位置する魔物である。
「間違いない!こいつがタイドスコルだな!さぁかかってこい!!!」
三匹のタイドスコルは、一斉に毒液を噴射。それを俺は岩場へ飛び移り回避するが、地面を見ると一匹の放った毒液の付いた岩がみるみるうちに溶けていっている。残り二匹の毒液が付いた岩は溶けていない。
「どうやら、固体によって毒を使い分けているようだな。打ち込んだ毒のうち一種でも相手に効果があれば御の字ってわけか!こいつら、解析通り中々頭が回るみたいだ」
「相手が格下とはいえ油断するなよ!」
「おうよ、それに今回はただ殺せばOKってわけじゃない。必要な甲殻を傷つけずに綺麗な状態で捕獲しなくちゃだからな」
タイドスコルたちは毒液を噴射し続けるが、アモンに毒液が当たらないと悟ると直接体内へ注入しようと尾を伸縮させ、毒針を一心不乱に刺し込もうとする。しかし竜人の動体視力と身体能力、各スキルを駆使して毒針を躱していくアモンにその針が届くことはない。
「真空刃で関節を切断して弱らせるかぁ?それとも放電陣で足止めして鉄鋼弾で頭を撃ち抜くかぁ?あぁ~迷う迷う!!」
俺はわざと当たる寸前で毒針を躱してゆく。タイドスコルのような少し賢いだけの獣はこうした方が冷静さをすぐに失ってしまうものだ。
途端に一匹のタイドスコルが自分の攻撃が当たらないことに憤慨したのか、毒針を諦めハサミで一刀両断にしようと全速力で向かってくる。普通の人間ならこれも絶対に避けなければならない攻撃だが、竜人である俺は真正面からこれを受け止めた。
「鉄をも紙のように切り裂くというこのハサミ、少々切れ味が悪すぎるなぁ」
俺は、体を二つに両断しようと挟み込む二つの刃を両手で受け止め、力ずくで押し広げていく。残りの二体もハサミで切りかかろうとするが、刃が体に届く前に俺は空中へ抜け出していた。
「久しぶりの運動だったが少し遊びすぎたな。腹も減ってるしここらで終わらせるとしよう、甲殻を傷つけないならやっぱりこれが一番だ」
俺は、タイドスコルたちの頭上よりも遥か上空から三匹へ向けてスキルを解き放つ。
「龍覇気ッ!!気絶!!」
気絶効果が適用された三匹は、同時に地面へとその巨体を倒した。起き上がる様子はなく、身体はピクリとも動いていない。
このスキルは雑魚処理向きで無駄に体力を使わないから非常に便利だ。同等もしくは格上相手なら威嚇で相手を弱体化できればそれでいい。
「これでクエストは完了だな。フリードさんに連絡するか…うっうん――聞こえるかいフリードさん?」
「(おぉ!アモンか。どうだいクエストの調子は?タイドスコルは見つかりそうか?)」
初めて他人で念話を試してみたが、ちゃんと繋がったようで良かった。
「それが、三匹捕獲したんだが、こいつらどうすればいい?」
「(何ぃ!?もう!?しかも三匹!?お前と別れてから1~2時間しか経ってないぞ)」
ん?普通ならもっと時間かかるものなのか?見つけるのは身体でかいしすぐにできると思うけど、戦うのに苦戦するのかもしれないな。毒耐性がなければ簡単には近づけないし、耐性があっても接近戦になればあのハサミが生半可な防具を許さないだろう。フリードからすれば、魔人ですら苦戦する相手だったわけか。
「そう言われても、こっちは情報通りの魔物を三匹捕獲してるんだ。解析鑑定もかけた、間違いない」
「(そ、そうか…少々お前さんを見くびっていたのかもしれないな。分かった、魔物の死体は、組合に回収させるからそこに置いておいてくれ。俺から連絡しておくよ)」
組合は回収作業も請け負ってくれるのか。これでクエストに失敗しても救助してもらえるのだから、本当に冒険者の身の回りのことは至れり尽くせりだな。
「そうか、すまないな。助かるよ」
「(礼はいいが、お前も組合との連絡用に一人くらい念話する連絡先を持っておいた方がいいぞ)」
「冒険者とは、そういうものなのか?」
「(あぁ、そうだ。まぁとにかく、そこで待っててくれ)」
念話が切れそうになったタイミングで、俺は重要なことを忘れかけていたのを思い出しフリードを引き留めた。
「あ!ちょっと待ってくれ!…こいつらの肉ってもらえるたりするのか?」
「(ん?あ~肉か!今回のクエストに俺が出した依頼は甲殻だけだからな、言えば貰えると思うぞ)」
「そうか!わかったありがとう!それじゃあまた」
「あぁ。――」
念話が切れてから組合を待っていると、俺のすぐ近くに組合の制服を着た4人の魔法使い達が転移魔法で転移してきた。
冒険者名簿から俺のいる場所を探し出し、俺を転移先としてマーキングして飛んでくる上位転移魔法だ。行ったことがある場所やマーキング済みの場所に自由に転移することができる魔法。母さんによると、上位転移魔法が出来る者は極限魔法を扱える魔法使いでも出来ない者が多く、極限転移魔法が出来る者はさらに少ないのだとか。
「アモン様、お待たせいたしました。クエスト完了のお知らせと依頼された魔物の回収に参りました」
「えぇ、よろしくお願いします。それと、組合に言えば肉を貰えると聞いたのですが」
話しかけてきた女性の魔法使いに問いかけると、その人は慣れた口調で軽やかに返してきた。
「はい!依頼内容は甲殻だけですので、クエスト達成者からの申請がない場合、組合の方で解体、売買させていただいております。食用部位をご所望でしたら、通常ご宿泊の冒険者組合へ、ご夕食の時間に合わせて梱包した物を転移にて送らせていただいておりますが、どうされますか?」
「ぜひそれでお願いします!」
「かしこまりました。手配いたします」
俺の質問に答えた女性の指示のもと、他の3人の魔法使いが各々でタイドスコルの状態を魔法でチェックし始めた。各個体の体長や甲殻の状態を入念に調べ、その中の一人からは「これ、どうやって気絶させたんだ?」と言う声が聞こえてくる。確認が済むと、タイドスコルの全身を頑丈な魔法が付与さえた縄と直接、拘束魔法で縛り上げていった。
これにて、俺の人生で初のクエストは見事達成という形で幕を閉じたのだった。




