第11話 いざ王国へ
下山を始めて四日目、空は晴天、道中魔物に出くわすこともなく、順調にレムリア王国へ移動中だ。それにしてこの西の森は、本当に魔物の数が少ない。日にちが経つたび魔力探知に引っかかる魔物の数が減っている。今日なんて1,2匹しか魔物を感知していない。墓標へと続くこの森は王国内ではラカヴに繋がる道ということもあって人の侵入が禁止されていると母さんから聞いたことがある。実際に昨日、道の途中に北から南までしめ縄が繋がれていた。だから、ここら一帯は人間の手が入っていない鬱蒼とした森だと思っていたが、粗方危険な魔物は王国の冒険者に狩り尽くされていると見て間違いなさそうだな。
「今日は、魔物に会わないな」
「まぁな、この森はオレ達が居た森よりも魔那濃度が薄いから魔物が好まんのだろう。そこら辺の植物も同様だな、見てみろ植生が違うだろう」
…解析完了
植物名:菫
・魔那の薄い日当たりの良い森に花を咲かせる一般的な植物。
・主に紫色や青紫色の小さい花を咲かせる。果実をつけるとそれに魔那を少量宿し魔那を好む虫などに巣へ運ばせることで生育範囲を広げる。
「見た目は前世の菫そっくりだが、俺が読んだ本の説明と少し違うんだな」
「それはそうだろうな、同じ名前と見た目でも厳密は違う花だ」
確かに周りには広葉樹の木々が広がり本で見たことのある植物が多いがその全てに魔那が流れている。だが当然、暮らしていた森に比べると流れる魔那はどれも薄く弱いものばかりだ。魔那濃度でこんなに植生が変わるものなのか、近くの大木なんて片手で幹が千切れそうだ。
「はぁ~盆地に住んでいた時の方が面白いものは多かったなぁ」
「そう悲観するなよ、王国が近づいてきている証拠だ。王国に着けば、また見たこともないもの出会えるさ。実際に見てきたオレが言うんだ間違いないって!」
「だといいけど…」
軽い愚痴をこぼしながら俺は再び王国への歩みを進めた。移動中の生活は、ほぼほぼルーティーン作業だ。しばらく歩いて腹が減ったら狩りか釣りをして食事をとる。日が沈めば川辺で水浴びと洗濯、あとはそこらへんの木の根を枕にして次の日の出まで眠りまた歩き始める。
夜も目が効くから夜通し歩いてもいいんだが、そしたらパハドが、「夜更かしなんてしたらお袋さんが泣いちまうぞっ!」ってどやされた。両親のことを出されると俺も弱い、お前は俺の母親か!?と返したくなったが、死んで間もない母さんのことを考えると申し訳なくなるので仕方なく夜は寝ることにしている。これを誰かが聞いていたら親離れできていないって、笑うやつもいるのかもなぁ。
「そういえば、ベラスカと戦ってから魔力探知の距離伸びてないな~」
「確かに、あれから耐性スキルが増えたり身体能力が向上したりはしたが、基礎的なスキルの性能は上がっていないな…」
「多分、それが竜人の魔力探知の限界なんだろうよ。それ以上は、次に進化した時のお楽しみってわけだ」
限界か…暮らしていた盆地を中心にラカヴとの境目まで範囲が拡大されれば、そりゃあ成長も止まるか。だがそれだけでもかなり範囲が把握できている、全方位感知が距離にして約5km、直線の集中探知ならもう数km伸びるな。人間の父さんで約1kmが限界だったんだ、5倍の距離が感知できるだけすごいもんだと思っておこう。
それにしてもパハドのやつ、魂やスキルについてはやたら詳しいが種族の事となるとからっきしだな。いつも知ってることは自信満々に話すのに多分とか言って、情報が曖昧な時はいっつもこうやって反応が微妙になるのがこいつの癖だ。
「お前、俺が竜人に転生したとか言ってたけど、竜人って実際何なんだ?」
「え?すぅう、いやぁ~オレもあんまり知らなくてよぉ、アモンを解析鑑定したら竜人だったらからそう言っただけで、お前以外に竜人は見たことがないしオレが生きていた時代には居なかったんだ。お、お分かり?」
やっぱり知らなかったんだな、こいつ。
竜人を見たことがないということは、この大陸に竜人は俺一人なのか。種族として竜人はいるみたいだし、別大陸に行ったら探してみてもいいかもな。でも、王国に着いたらなんて説明するべきか。素直に竜人と偽造せずにステータスを見られたら怪しまれるかもしれないし、偽造して人間と見られたら王国以外に人間族は居ないみただしラカヴからの難民という設定が怪しくなるしなぁ。…ベラスカに解析鑑定された時は、「角の生えた人間」って言われたな。角の生えた人間...は珍しくないのだろうか?人間と亜人や魔人との混血種だと思われたのかもしれないな。つまり、人間と角や鱗のある種族の混血だと言えば怪しまれないのではないか?
「それなら、角蛇族と人間種の混血ってのはどうだ?角蛇族なら角を持つ種族も少なくないし、この大陸で見たことあるぞ!」
「角蛇族かぁ!いいな、それでいこう!」
とりあえず、しばらくは角蛇族と人間の混血ってことで通せば問題ないかな。王国に来た理由は、住む場所を追われたとかにしておけば、多分問題ないだろう。父さんたちが居た頃でもラカヴの魔物たちの活動が活発だったみたいだし、今では難民の数と種類も増えていると思う。
亜人や魔人が多いとなると、意思疎通も大変そうだな。同族同士なら思念伝達で思っていることを具体的に伝えられるけど…あれ、俺って竜人だから括りとしては魔人なんだよな?
「なぁ何で俺、竜人なのに両親と思念伝達できたんだ?」
「それは…竜人だけど一応血は繋がってるからじゃないか?アモンが竜人なのはオレと魂が交わってる特殊な例だから、二人と思念伝達できたのかもしれないな。でも血の繋がってない他の人間となると話は別かもな」
そういうことか、じゃあ俺も意思疎通には苦労しそうだな。二人とは思念伝達できていたせいで、他の人間ともできるものだと考えていたがそれは無理そうだ。
「でも、異種族間でも思念伝達する方法はあるぞ」
「え!?本当か!」
「魂の契約を結べばいいんだ。オレとアモンみたいに魂同士で強い繋がりがあれば可能だ」
「それでその魂の契約ってのは、どうやったらできるんだ?」
「簡単だ、二者間での魂の共鳴契約を結べばいい。オレが生きていた時代でも姉貴たちは他の種族とそうやって情報共有していたぞ。それに話すだけなら念話で十分だ、お互いの魂を一度接続し合うだけでいいからな。大陸間での念話となると難しいだろうが、陸続きなら魔那が乱れない限り大丈夫だ。思念伝達ならその制限もないし盗聴される心配もない、映像や情報の共有となるとやはり思念伝達のほうが便利だな」
念話が言葉だけの電話で、思念伝達が映像付きの高性能なテレビ電話みたいなものか。
パハド曰く、魂の共鳴契約とは、互いの魂の一部を共有する契約だそうで、両者の魂の情報を一部相手に預けることで、魂の構造に共通部分を作り出す行為らしい。そうすると、魂同士の繋がりが強くなって思念伝達することができるらしい。
契約するのは簡単だが、デメリットもあるそうで解除するには相応の負担が魂にかかるそうだ。
「デメリットもあって異種族同士で思念伝達しようとするやつは、現代ではあまり見なかったなぁ。ラカヴへ行くような文字通り命を預け合う冒険者同士でも共鳴契約してる連中は稀だったぜぇ。一種同士の数が少ない昔は、もっと自然と魂を共有して協力してたんだけどなぁ」
「それだけ思念伝達は同族同士で大切な繋がりの一つになっているってことじゃないか?時代が経てば種族の数は増えそれだけ小競り合いもあっただろうし、昔みたいに数の少ない者同士で寄り添い合う必要がないくらい一つ一つの種族が独立して繁栄している証拠だと思うぜ」
「そうなのかなぁ~オレは少し悲しいぜぇ、念話で済むとはいえ異種族間での交流が減ってしまったみたでよぉ。…でも逆に考えれば、それでも異種族同士で思念伝達しているのは、それだけ信頼関係があって仲がいいってことかもなぁ!」
パハドの言うことにも一理あると思った。同族同士でしかしないことを異種族でもしようとするのは、それなりに勇気のいることだ。それでも一歩踏み出して魂を共有しようとするのは、相手を信頼していることに他ならないだろう。
ともかくだ、思念伝達する者が減った理由は他にもあるのかもしれないが二人だけで考察していても答えは見つからない。王国に入ればその答えも自ずと見えてくるだろう。今は少しでも早くこの森から抜け出し、王国へとたどり着かねばなるまい。
*
下山七日目、ようやく西の森を抜け俺の目の前には広大な草原が広がっていた!遠くには城壁に囲まれた街並みが続いている。あれがおそらく魔化鋼と魔法工学によって栄える王国レムリア!空中からドーム状に魔法結界が貼られているではないか!
薄く半透明に輝くその結界は飛行する魔物を追い払うための術式が何層にも組み込まれているのが見て取れる。
そして人生で初めて両親以外の人間を探知したぞ!城門に立つあの二人だろう。一歩また一歩と歩みを進めるほどに探知する人間と亜人や魔人の数が増大していく。流石は、2億4000万の人口を抱える大国レムリアだな。
「楽しそうだなアモン!顔がにやけているぞ」
「そりゃあにやけもするさ!母さんから聞かされていた王国が、今目の前にあるんだからな!」
城壁の人間を探知したということは、現地点からあそこまで後5㎞といったところか。走り出したい気持ちを胸に、俺は王国に狙いを定めゆっくりと草原を踏みしめて歩いていく。
「アモン、もう少し魔力とオーラを抑えておけ、警備兵が警戒してしまう」
「分かった、仙隠法でオーラは隠しておく、魔力は少し疲れるが仕方ない…」
俺は仙隠法でオーラを抑え、体外へ放出されている魔力は体内に抑え込み両親が普段放出していたオーラと魔力量にまで調整した。これで冒険者程度の強さで認識されるはずだ。
城門前に立っている警備兵の二人、どちらも屈強な体躯をしている。角無しで170ある俺の身長を見下ろしてくる巨漢の二人だ。片手に槍を持ち、腰には様々な道具が入っているであろう革袋と捕縛用の縄を装備している。全身は鋼鉄のフルプレートで顔は顔面以外を覆ったヘルメットを着けた西洋風な鎧だ。城壁前に警備兵にこれだけの防具を支給しているとなると王国内はかなり潤っていそうだな。
数メートル先にいる俺を前にしても警戒する様子はない、しばらくするとあちらから近づいてきた、どうやら変装は上手くいったようだ。
「そこで止まれ、魔人の男よ。ここより先に入りたくば、こちらの検査を受けたうえで目的を述べよ」
俺は目の前の警備兵に対して少し遜った声と話し方で答える。
「わたくし、山の向こうより住む土地を追われ逃げ延びてまいりました。故郷で出会った冒険者の方から山を越えた先に多種族が住まう国があると聞き、それに縋る思いでここまで来たのです…」
「分かった、それでは検査として解析鑑定させてもらう。後に手荷物検査だ、いいな?」
「はぁい~、これが私の持つ荷物全てです」
ずいぶんと丁重だな、母さんから聞いた通りレムリアは、亜人や魔人を邪険には扱っていないようだ。危険地帯から来た魔人なんて拘束されても文句は言えないと思っていたが、本当に簡単に入国できそうだぞ。
「ん?…人間!?失礼だが、ご両親の種族を伺っても?」
「父が人間で母は角蛇族です」
「そうでしたか、それでこのロングソードと手荷物ですが、これは?」
「ロングソードは父の形見です、荷物は逃げる際に家から持ってきた日用品と…武器は、襲ってきた魔人から殺して奪いました」
さて、どう来るか。一応、下手な真似をしたらお前たちも殺せるんだぞ、という威嚇を込めて言ったが…
「了解した、手荷物に問題はなさそうだな」
ほぉ~、意外と動じないな。目の色一つ変えずに対応するとは、国の兵士への指導教育がちゃんとされている証拠か。この二人、優秀な門兵だ。
「それでは、入国を許可する。国内では、許可なく攻撃魔法を唱えたりスキルを使用したりすることは禁じられている。一般的な日常生活程度の魔法は、自分の家の中でなら唱えても構わない。また、武器を振り回して他人を傷つけるのも禁止だ。それ以外は、自由にして構わない。最後に…入国したらまず、難民管理局に難民申請を出すことをお勧めする。この先の大通りを真っ直ぐ行けば十数分で見えてくるはずだ。難民申請をせずに逮捕された場合、即刻国外追放となるのでご注意を。以上だ、何も問題を起こさぬように」
「どうも…ありがとうございます」
説明し終えた門兵の二人は振り返り、門へと続く道歩いて俺を門まで誘導した。門の目の前で立ち止まり、門兵の片方が城壁の屋上にいる兵士に向かって指令を出す。
「開門っ!!!」
ゴゴゴッギギギィと、軋む轟音と共に城門が口を開ける。鉄の顎より先に見えるのは、石造りとレンガの街並みと行き交う数多の種族たち。
俺は門兵達に一瞥し、再び歩き始めた。厚さ5mはあろう分厚い城壁は、その中を通る者の足音を何倍にも大きく反響させて聞こえてくる。トンネルのような入口を超えて、俺は遂にレムリア王国へと足を踏み入れたのだ!
「ここが二人が暮らしていた国か…」
「お袋さんが言っていた通りの王国だなぁ、いやぁそれ以上かもなぁ」
現代とも遜色のない整備された石畳に水路を流れる浄化された水。空にはどうやって動いているのかも分からない杖や絨毯などの魔導浮遊装置に乗っている魔法使いたち。道を行くのは、人間に近い姿をした亜人種から人間とはかけ離れた姿をした魔人種たちだ。
「まさか…これほどとはな…」
俺は驚きを隠せないまま、田舎者が都会のビル群を見て驚嘆するように周りをキョロキョロと見まわしながら街を歩いていた。
俺が歩いている道は、まさしく国の大通り。車なら4台は同時に並走できそうなくらい広々とした街のメインストリートだ。その道は、街の中心で強大に聳え立つ城へ真っ直ぐに続いていた。俺が目にする先の王城は、周りの石造りや木組みの家々とは一線を風靡したまさに雄大壮麗さ。それがこの距離でもひしひしと伝わってくる。
白い石材でできた数十本もの尖塔が空へ伸び、青く連なる屋根はクリスタルの如くに日の光を反射して煌めいている。何枚ものガラス窓が贅沢にあしらわれ、先進技術の魔法工学による300mを超えた中央塔が王国の全てを見下ろしている。城から四方に続く大通りはレムリアの偉大さを示し、流れ出ている湧き水は、レムリアの神聖さを物語っているようだ。
「圧巻だな…あの城は、今まで前世で読んできた本やゲームですら見たことがない。あの中には一体どんな王様がふんぞり返っていることやら…」
「あぁ、まるで富と権力が城の形をして座しているみたいだぜ。あれは何度見ても言葉を失う、というより恐ろしいな!」
あの城はパハドに恐ろしいと言わすのか…それほどまでに魔化鋼がもたらす力が絶大ということだろうな。もしくは、人の欲の底知れなさか、あるいは両方だろう。
まぁあの城が何であれ、今目指すのは城じゃない。その途中にある難民管理局だ、そこでまずは難民申請を出さなければ身動きが取れない。俺はその建物を見落とさないように周りを注意しながら歩いて行った。
門兵の人間が言ったように十数分してしばらく歩いていると、レンガ造りの近代的な建物が見えてきた。そこには、でかでかと難民管理局という看板が掲げられている。
どう見てもこれだろうな。そう確信した俺は、ガラス張りで作られた両扉を開くのだった。




