第9話 創造神の正体
――『だから君は私を調べるべきじゃない』
創造神から送られてきた最後のDM。
その言葉は。
降谷璃瑠葉にとって。
ほぼ自白と同義だった。
「調べろって意味じゃん」
椅子にもたれながら呟く。
隠したい人間ほど。
隠し方で本音が漏れる。
まして。
相手は数千年単位で秘密を抱えている存在だ。
どれだけ理性的でも。
綻びは出る。
◇◇◇
翌日。
ネットは新たな段階に突入していた。
【創造神考察総合Part784】
【創造神は本当に神なのか】
【創造神=第一文明人説】
【創造神観測者説】
【創造神黒幕説】
「増えたなぁ……」
璃瑠葉はコーヒーを飲みながら苦笑した。
完全に流れが変わっている。
今までは。
門。
敵。
神界。
文明。
そういった世界の謎だった。
だが今。
全世界の考察勢が見ているのは一人。
創造神。
神界最大の配信者。
登録者一億二千万超。
誰からも尊敬される存在。
神々の頂点。
その人物だった。
【創造神怪しすぎる】
【全部知ってるのこいつだけ】
【神というより管理人】
【ラスボス感ある】
【でも善人っぽい】
【神実在派集合】
【創造神かわいそう派です】
◇◇◇
璃瑠葉も同意見だった。
「善人なんだよな」
そこが厄介だった。
創造神は怪しい。
圧倒的に怪しい。
だが。
悪人ではない。
少なくとも。
今まで出てきた情報を見る限り。
人類を騙して支配しようとしているようには見えない。
むしろ逆。
何かから守ろうとしている。
問題は。
なぜそこまでするのか。
だった。
◇◇◇
その日の夜。
璃瑠葉は配信を開始した。
【創造神の正体を考察する】
同時接続。
五百万人突破。
コメント欄が流星群みたいに流れる。
【来た】
【待機】
【神界燃料】
【今日も炎上】
【創造神逃げろ】
【フリル止まるな】
璃瑠葉はモニターを映した。
そこには。
創造神に関する年表が表示されている。
◇◇◇
「まず整理します」
「創造神は何を知っているか」
画面に箇条書き。
第一文明
第二文明
第三文明
第四文明
第五文明
第六文明
第七文明
敵
門
神界
信仰ポイント
「全部知ってます」
【知ってる】
【知りすぎ】
【神だからな】
【神だからなぁ】
璃瑠葉は首を振った。
「違うんです」
「問題はそこじゃない」
◇◇◇
「知ってるだけなら神だからで済む」
「でも」
「創造神は体験してるんですよ」
コメント欄。
【あ】
【確かに】
【言われてみれば】
「言葉の使い方が違う」
過去のDMを表示。
『前の六回は失敗した』
『私は最初の人類も知っている』
『最後の人類も見るだろう』
璃瑠葉は言う。
「これ」
「歴史を知ってる人の言い方じゃない」
「見てきた人の言い方なんです」
コメント欄。
【なるほど】
【歴史学者じゃなく当事者】
【おお】
【考察勢歓喜】
◇◇◇
神界。
会議室。
「怖いですね」
知恵の神が呟いた。
「何がだ」
雷神が聞く。
「観察力です」
全員頷いた。
本当に怖い。
創造神自身ですら。
そこまで明確に言語化していなかった部分だ。
それを。
たった数行のDMから拾っている。
◇◇◇
一方。
璃瑠葉は次の資料を出した。
「ここからが本題です」
画面に映る。
創造神チャンネル。
過去アーカイブ。
数万本。
「全部見ました」
【化け物】
【寝ろ】
【草】
【お前が怖い】
璃瑠葉もそう思う。
だが。
見た。
結果。
一つの異常を発見した。
「創造神」
「自分の誕生を語ったことがないんですよ」
コメント欄停止。
◇◇◇
「神々って結構語るんです」
「私は雷神でーす」
「私は海神でーす」
「神話ではこうでーす」
コメント欄。
【草】
【確かに】
【普通に喋る】
「でも創造神だけ」
「どこから来たのか」
「いつ生まれたのか」
「一度も話してない」
沈黙。
誰も気付いていなかった。
なぜなら。
当たり前だと思っていたから。
創造神だから。
そういうものだと。
◇◇◇
璃瑠葉は続ける。
「さらに変です」
「他の神は創造神の昔話をしない」
「一切しない」
神々は仲が良い。
コラボもする。
雑談もする。
だが。
創造神の過去だけは語らない。
まるで。
存在しないみたいに。
◇◇◇
その時だった。
海外考察勢から緊急連絡が届く。
璃瑠葉は目を見開いた。
「……え?」
添付された資料。
第一文明に関する発掘データ。
だが。
そこにあった一文が異常だった。
『最後の管理者』
その単語。
何度も出てくる。
複数の遺跡から。
複数の文明から。
共通して。
最後の管理者
「管理者?」
神じゃない。
王でもない。
英雄でもない。
管理者。
その単語だけが浮いていた。
◇◇◇
璃瑠葉の脳内で。
何かが繋がる。
観測者。
記録者。
文明を覚えている存在。
管理者。
創造神。
「まさか……」
そして。
彼女は気付いてしまった。
◇◇◇
神界。
創造神が立ち上がった。
「気付くな」
珍しく。
本当に珍しく。
感情が漏れた。
神々が振り返る。
「創造神様?」
だが。
創造神は答えない。
ただ。
遠くを見る。
もう遅いと。
理解していた。
◇◇◇
配信中。
璃瑠葉は静かに言った。
「仮説です」
コメント欄が止まる。
「創造神は神じゃない」
一瞬。
空気が変わった。
【は?】
【来た】
【最大級】
【神実在派死亡】
【待て待て待て】
璃瑠葉は続ける。
「もっと古い存在です」
「神々より前からいる」
「第一文明からいる」
「人類を見続けている」
「そして」
息を吸う。
「神々を作った側なんじゃないか?」
◇◇◇
コメント欄爆発。
【!?!?!?】
【うおおおおお】
【神を作った神!?】
【管理者説】
【創造神だから創造した?】
【待て面白すぎる】
【神実在派昇天】
◇◇◇
その瞬間。
DM通知。
送り主。
Genesis_0
配信中だった。
全世界が見ている。
そして。
届いた文章。
『違う』
璃瑠葉が固まる。
コメント欄も固まる。
続く。
『私は神を作っていない』
さらに。
『神々が私を作った』
思考停止。
数秒。
理解できない。
◇◇◇
神界。
全員が顔を覆った。
「ああ……」
海神が天を仰ぐ。
「言った」
雷神も呆然。
「言いましたね」
知恵の神だけが楽しそうだった。
◇◇◇
DMは続く。
『だから私は神ではない』
璃瑠葉の呼吸が浅くなる。
『ただの人間だ』
世界が静止した。
コメント欄が止まる。
本当に止まる。
数百万の視聴者が。
同時に思考停止した。
◇◇◇
そして。
最後の一文。
『最初の文明で最後まで生き残った』
『ただ一人の人間だ』
送信終了。
オフライン。
沈黙。
部屋に残るのはPCファンの音だけ。
璃瑠葉はモニターを見つめる。
神界の頂点。
創造神。
登録者一億二千万。
全てを知る存在。
その正体。
それは。
神ではなかった。
七回の文明を見届けた。
最初の人類だった。




