第10話 最初の人類
――『ただの人間だ』
そのDMが公開されてから。
神界は過去最大級の混乱に包まれていた。
もちろん。
人類側は違う。
相変わらず。
いつも通りだった。
【創造神人間説】
【神界シーズン2開幕】
【第一文明編】
【設定盛りすぎだろ】
【神実在派まだ生きてる?】
【普通に神より面白い】
【脚本家天才】
誰も信じていない。
だからこそ。
世界最大のエンタメになっている。
◇◇◇
一方。
神界。
状況は笑い事ではなかった。
「なんで言ったんですか」
海神が机に突っ伏す。
「本当に」
雷神も同意する。
「人間だった件は最上級機密ですよね」
「そうだな」
創造神は認めた。
知恵の神だけが面白そうにモニターを眺めている。
「しかし」
知恵の神は言った。
「もう隠せないでしょう」
創造神は沈黙した。
その通りだった。
降谷璃瑠葉。
あの人間は。
既に核心へ近付きすぎている。
◇◇◇
その頃。
璃瑠葉は徹夜だった。
「うわぁ……」
モニターの数。
七枚。
開いているタブ。
三百以上。
世界中の考察勢が集めた資料。
論文。
遺跡。
神話。
伝承。
発掘データ。
そして。
第一文明。
「絶対何かある」
創造神が人間。
そこまでは分かった。
問題はその先だ。
◇◇◇
なぜ。
人間が神界の王なのか。
そこだった。
普通なら逆である。
神が人間を導く。
神が人間を守る。
神が上。
人間が下。
しかし。
神界は違う。
創造神が頂点。
神々も従う。
登録者数だけではない。
誰もが敬意を払っている。
まるで。
王ではなく。
恩人に接するように。
◇◇◇
「そこがおかしい」
璃瑠葉は呟いた。
過去動画を再確認する。
何千本も。
そして。
一つの違和感に辿り着く。
「誰も創造神を創造神って呼ばない」
コメント欄が流れる。
【?】
【どういうこと】
【神実在派集合】
配信を始めたばかりだった。
タイトル。
【創造神の正体②】
同時接続。
六百万人。
◇◇◇
「神々って」
「創造神様って呼ぶんですよ」
過去映像を流す。
『創造神様』
『創造神様』
『創造神様』
「でも」
「これ肩書きなんです」
コメント欄。
【あ】
【なるほど】
「名前じゃない」
「本名じゃない」
「役職なんです」
空気が変わる。
◇◇◇
「つまり」
「創造神という存在がいるんじゃない」
「創造神というポジションがある」
コメント欄停止。
【え】
【待て】
【それは】
【役職?】
【社長みたいな?】
璃瑠葉は頷く。
「そう」
「社長みたいなもの」
「じゃあ問題です」
「その役職は誰が作った?」
◇◇◇
神界。
全員固まる。
「やめてください」
雷神が真顔だった。
「本当にやめてください」
「無理ですね」
知恵の神が笑う。
「完全に見つけています」
◇◇◇
璃瑠葉は資料を表示した。
世界中の神話。
その共通点。
以前は敵だった。
今は違う。
神々を見る。
すると。
不思議なことが分かる。
「ほぼ全神話」
「神々の誕生が曖昧なんです」
コメント欄。
【確かに】
【神話による】
【バラバラ】
「でも」
「創造神だけ」
「もっと曖昧です」
◇◇◇
その時。
海外考察勢から新資料。
古代遺跡。
文字解読結果。
第一文明末期。
そこに刻まれていた言葉。
我らの後継者
璃瑠葉の目が止まる。
さらに。
次の文。
人の願いを継ぐ者
その下。
破損。
読めない。
しかし。
一部分だけ残っている。
神々計画
「……は?」
配信中だった。
数百万人が同時に固まる。
◇◇◇
神界。
沈黙。
完全な沈黙。
創造神が額を押さえた。
「残っていたか」
誰も喋らない。
その単語。
神々計画。
それは。
最も古い禁忌だった。
◇◇◇
璃瑠葉の脳が高速回転する。
神々計画。
人の願いを継ぐ者。
後継者。
そして。
創造神は人間。
その瞬間。
全てが繋がった。
「待って」
思わず声が出る。
「これ」
コメント欄。
【何】
【来た】
【フリル覚醒】
◇◇◇
「神々」
「最初からいたんじゃない」
静寂。
「第一文明が作ったんだ」
◇◇◇
コメント欄爆発。
【!?!?!?】
【うおおおおお】
【待て待て待て】
【神を作った人類】
【神実在派混乱】
【面白すぎる】
◇◇◇
璃瑠葉は止まらない。
「考えてみれば変なんです」
「信仰ポイント」
「登録者数」
「神界システム」
「全部」
「人間社会っぽすぎる」
確かに。
神のシステムにしては妙だった。
評価。
ランキング。
承認。
人気。
信仰。
まるで。
誰かが設計した仕組み。
◇◇◇
「第一文明は敵に負けた」
「世界が滅びた」
「でも」
「何かを残そうとした」
神々。
神界。
信仰システム。
門。
全部。
未来へ繋ぐために。
◇◇◇
その時。
DM。
送り主。
Genesis_0
コメント欄が沸騰する。
【来た】
【本人】
【創造神】
【公式降臨】
◇◇◇
本文。
『惜しい』
璃瑠葉が目を細める。
「惜しい?」
返信。
『何が違うんですか』
既読。
数秒。
返信。
『第一文明は負けていない』
空気が変わった。
◇◇◇
璃瑠葉は息を呑む。
『勝った』
意味が分からない。
勝った?
でも滅んだ。
七回目の文明だ。
六回失敗した。
矛盾する。
◇◇◇
さらに続く。
『だから今も続いている』
璃瑠葉の鼓動が速くなる。
創造神は続けた。
『神界は墓ではない』
『遺産でもない』
『人類が残した兵器だ』
思考停止。
兵器。
神界が?
◇◇◇
神界。
誰も動けない。
「そこまで言いますか」
海神が青ざめる。
「もう同じだ」
創造神は静かだった。
「あと三年しかない」
◇◇◇
DM。
最後の文章。
『神々は神になるために作られたわけではない』
続く。
『敵を殺すために作られた』
配信画面が静まり返る。
コメント欄すら。
一瞬。
止まった。
◇◇◇
そして。
創造神は最後に送る。
『だから私は王ではない』
『最後の管理者だ』
オフライン。
沈黙。
璃瑠葉は画面を見つめる。
第一文明。
人類。
神々。
神界。
門。
敵。
全部が繋がった。
神界は宗教ではない。
信仰を集める理由も違う。
神々の本当の役割。
それは。
世界最大の防衛システム。
人類が未来へ残した。
最後の兵器だった。




