第11話 神々が恐れる日
――二〇二九年七月二十三日。
その日付が初めて現れてから。
既に一週間が経過していた。
そして今。
世界中のネットは。
その数字だけで回っていた。
【2029年7月23日考察スレPart912】
【神界カウントダウン説】
【門開放予言まとめ】
【創造神終末論】
【七回目人類最終章】
「なんでこんなことになるんだろ」
降谷璃瑠葉はコーヒー片手に呟いた。
言いながら。
原因は分かっている。
自分だ。
八割くらい。
◇◇◇
だが。
今回だけは少し違う。
いつもと空気が違う。
考察勢の熱量が異常だった。
なぜなら。
今までの話は全て過去だった。
神話。
文明。
神界。
創造神。
失われた歴史。
全部。
終わった出来事。
だが今回は違う。
二〇二九年七月二十三日。
未来だ。
しかも。
三年後。
届く距離にある。
◇◇◇
その日の夜。
璃瑠葉は配信を開始した。
【2029年7月23日は何の日か】
同時接続。
七百万人。
【来た】
【待機】
【終末の日】
【神界考察】
【神実在派集合】
【今日も眠れない】
コメント欄が高速で流れる。
◇◇◇
「まず整理します」
璃瑠葉はホワイトボードを映した。
敵
↓
一万二千年周期
↓
文明崩壊
↓
七回目
↓
2029年7月23日
「ここまではほぼ確定です」
【確定ではない】
【考察です】
【設定です】
【たぶん】
【神実在派歓喜】
いつもの流れだった。
◇◇◇
「問題は」
「なぜ日付まで分かるのか」
そこだった。
文明崩壊。
敵。
周期。
それは理解できる。
だが。
年月日。
そこまで正確なのはおかしい。
◇◇◇
「皆さん」
璃瑠葉は資料を映した。
世界中から集められた古文書。
石板。
神話。
予言。
そして。
ある共通点。
「これ見てください」
コメント欄。
【ん?】
【何だこれ】
【数字?】
◇◇◇
そこには。
何百もの記録が並んでいた。
文化も違う。
国も違う。
年代も違う。
しかし。
全てに共通する数字があった。
432
四三二。
それだけ。
◇◇◇
「北欧神話」
「432000」
「インド神話」
「432万」
「古代文明」
「4320」
「謎の一致が多すぎる」
コメント欄。
【確かに有名】
【オカルト界隈でよく見る】
【出た432】
【都市伝説だ】
◇◇◇
璃瑠葉は首を振る。
「でも今回重要なのは数字そのものじゃない」
「周期です」
資料を切り替える。
そして。
世界中の考察勢が計算した結果。
ある一点に収束していた。
◇◇◇
「全部逆算すると」
「次の周期が」
「2029年前後になる」
コメント欄停止。
【あ】
【待て】
【繋がった】
◇◇◇
その時だった。
海外考察勢のチャットが騒ぎ始める。
緊急。
緊急。
緊急。
「なんだ?」
璃瑠葉が開く。
そして。
息を呑んだ。
◇◇◇
第一文明遺跡。
新発見。
解読成功。
文章。
長文。
その最後。
七度目を超えられなければ終わる
空気が凍った。
◇◇◇
コメント欄。
【は?】
【待て】
【何だそれ】
【終わる?】
【神実在派死亡】
◇◇◇
璃瑠葉も固まった。
七度目。
七回目。
偶然じゃない。
続きがある。
我らに八度目は無い
背筋が冷えた。
◇◇◇
神界。
沈黙。
誰も動かない。
創造神だけが目を閉じていた。
「見つかったか」
知恵の神が呟く。
「最悪ですね」
「ああ」
創造神は認めた。
「最悪だ」
◇◇◇
一方。
配信。
璃瑠葉は震える手で資料を整理していた。
「待って」
「待って待って」
何かがおかしい。
七回目。
最後。
八回目は無い。
その時。
今までの全てが繋がった。
◇◇◇
第一文明。
神々計画。
神界。
門。
敵。
信仰ポイント。
文明ループ。
全部。
全部。
同じ目的だった。
◇◇◇
「違う……」
璃瑠葉は気付く。
「人類を復活させてたんじゃない」
コメント欄。
【?】
【どういうこと】
彼女は続けた。
「七回挑戦してるんだ」
沈黙。
◇◇◇
「神々は」
「文明を保存してるんじゃない」
「勝利条件を探してる」
鳥肌が立った。
自分で言って。
自分が一番震えた。
◇◇◇
神界。
創造神が苦笑した。
「正解だ」
誰にも聞こえない声。
だが。
確かにそうだった。
◇◇◇
璃瑠葉は続ける。
「一回目」
「失敗」
「二回目」
「失敗」
「三回目」
「失敗」
「四回目」
「失敗」
「五回目」
「失敗」
「六回目」
「失敗」
そして。
ホワイトボードに大きく書く。
七回目
「今」
◇◇◇
コメント欄。
【うわああああ】
【鳥肌】
【面白すぎる】
【神実在派絶頂】
【ゲームじゃねえか】
【RTAかよ】
◇◇◇
「だから創造神は覚えている」
「だから神界は存在する」
「だから神々は人気を集める」
「全部」
息を吸う。
「次こそ勝つため」
◇◇◇
その時。
DM通知。
送り主。
Genesis_0
配信画面が静まり返る。
◇◇◇
本文。
『ほぼ正解』
璃瑠葉の心臓が跳ねる。
続き。
『七回目は最後だ』
コメント欄停止。
完全停止。
◇◇◇
さらに。
『八回目は存在しない』
続く。
『もう作れないからだ』
璃瑠葉の呼吸が止まる。
「作れない?」
◇◇◇
神界。
雷神が目を伏せた。
海神も黙る。
知恵の神でさえ。
笑っていない。
◇◇◇
DM。
『第一文明は勝った』
『だが代償を支払った』
『全てを使った』
『文明も』
『技術も』
『未来も』
続く。
『残ったのは神界だけだ』
◇◇◇
璃瑠葉は理解する。
だから。
最後。
なのだ。
もう資源が無い。
もう予備が無い。
もうやり直せない。
◇◇◇
最後のDM。
『二〇二九年七月二十三日』
『門が開く日だ』
心臓が止まりそうになる。
◇◇◇
続く。
『七回目の最終試験』
『人類最後の挑戦』
『そして』
長い沈黙。
数秒。
十秒。
二十秒。
◇◇◇
送られてきた最後の一文。
『神々が敗北を恐れているのではない』
『人類が神々を必要としなくなる未来を恐れている』
オフライン。
沈黙。
璃瑠葉は画面を見つめた。
意味が分からない。
いや。
分かる。
だが。
理解したくない。
◇◇◇
神々が恐れているもの。
敵ではない。
敗北でもない。
滅亡でもない。
もっと別の何か。
七回目の成功条件。
その先にある未来。
そこに。
神界最大の秘密が隠されている。




