第12話 神々の存在理由
――『神々は人類を守るために存在するのではない』
創造神が残した言葉。
それは。
降谷璃瑠葉がこれまで積み上げてきた全ての仮説を。
一度破壊するのに十分な一文だった。
◇◇◇
「意味が分からない」
午前三時。
璃瑠葉はモニターを睨み続けていた。
部屋には資料の山。
開かれたタブは四百を超えている。
神界。
信仰ポイント。
第一文明。
敵。
門。
神々計画。
全てが一本の線で繋がりそうで。
最後だけが繋がらない。
◇◇◇
神々は人類を守る兵器。
これはほぼ確定している。
創造神自身が認めた。
ならば。
なぜ。
神々は人類を守るために存在しないのか。
「矛盾してる」
ぽつりと呟く。
その瞬間。
違和感が走った。
矛盾。
本当に?
◇◇◇
「待て」
璃瑠葉は過去配信を開く。
創造神。
海神。
雷神。
知恵の神。
何千時間分ものアーカイブ。
そして。
ある言葉だけを抽出する。
人類
検索。
結果。
数万件。
◇◇◇
「……あれ?」
璃瑠葉は眉をひそめた。
何かがおかしい。
神々は確かに人類について話している。
だが。
ある言葉だけが一度も出てこない。
◇◇◇
「守る」
その単語だった。
◇◇◇
神界。
創造神が目を閉じる。
「見つけたか」
隣で知恵の神が苦笑した。
「本当に恐ろしいですね」
「ああ」
創造神も否定しなかった。
◇◇◇
翌日。
璃瑠葉は即座に配信を開始した。
【神々は何を守っているのか】
同時接続。
九百万人。
過去最高。
【来た】
【神界編】
【最終章感ある】
【神実在派集合】
【寝ろ】
【無理】
◇◇◇
「皆さん」
璃瑠葉は静かに言った。
「神々って」
「人類を守るって言ったことあります?」
コメント欄。
【え?】
【あるだろ】
【たぶん】
【知らん】
【神だし】
◇◇◇
「無いんです」
過去アーカイブを表示する。
大量の切り抜き。
何千本。
何万本。
「人類については語る」
「文明についても語る」
「未来についても語る」
「でも」
「守るとは言わない」
◇◇◇
コメント欄の流れが変わる。
【あ】
【マジだ】
【言われてみれば】
【確かに見たことない】
【怖】
◇◇◇
「もっと言うと」
璃瑠葉は続けた。
「神々は人類への愛情を語る」
「でも個人を語らない」
沈黙。
「人類は好き」
「文明も好き」
「文化も好き」
「創作も好き」
「配信も好き」
「でも」
ホワイトボードに書く。
個人
↓
ほぼ語らない
◇◇◇
神界。
海神が顔を覆う。
「ああ……」
雷神も天井を見上げた。
「そこですか」
「そこですね」
知恵の神が頷く。
◇◇◇
璃瑠葉は資料を映した。
六回の文明。
それぞれの痕跡。
それぞれの神話。
それぞれの歴史。
そして。
一つの共通点。
「全部残ってるんです」
コメント欄。
【何が?】
【文明?】
「記録です」
◇◇◇
第一文明。
第二文明。
第三文明。
第四文明。
第五文明。
第六文明。
全部。
滅んでいる。
なのに。
情報だけは残っている。
◇◇◇
「普通逆なんです」
「人間が生き残る」
「文化が消える」
「歴史が失われる」
「でも神界は違う」
璃瑠葉の背筋が寒くなる。
◇◇◇
「文明を保存してる」
その瞬間。
全世界の考察勢が静まり返った。
◇◇◇
「神々は」
「人間を守ってるんじゃない」
「文明を守ってる」
◇◇◇
コメント欄爆発。
【うわああああ】
【なるほど】
【そういうことか】
【個人じゃなく種族】
【文化保存装置】
【鳥肌】
【神実在派失神】
◇◇◇
璃瑠葉は止まらない。
「だから信仰ポイントが必要」
「だから登録者数が重要」
「だから配信する」
神々に必要なのは。
人気ではない。
承認でもない。
◇◇◇
「人類との接続です」
静寂。
◇◇◇
「文明を保存するには」
「文明を理解しなきゃいけない」
「理解するには」
「人類と繋がらなきゃいけない」
だから。
神々は配信する。
SNSをやる。
雑談する。
ゲームをする。
歌う。
笑う。
泣く。
炎上する。
◇◇◇
「全部」
「観測なんだ」
◇◇◇
神界。
誰も喋らなかった。
創造神だけが静かに目を閉じる。
「正解だ」
◇◇◇
その時。
DM通知。
送り主。
Genesis_0
配信が静まり返る。
◇◇◇
本文。
『七割正解』
璃瑠葉は息を吐いた。
「三割は?」
即返信。
◇◇◇
既読。
数秒。
返信。
『文明保存は手段だ』
背筋が冷える。
手段。
目的ではない。
◇◇◇
続く。
『神々の目的は一つ』
『人類を勝たせること』
コメント欄。
【同じでは?】
【何が違う】
【分からん】
◇◇◇
璃瑠葉もそう思った。
だが。
創造神は次の文章を送る。
『敵に勝つことではない』
思考が止まる。
◇◇◇
さらに。
『人類が神を超えることだ』
沈黙。
完全な沈黙。
◇◇◇
神界。
全員が目を閉じた。
ついに。
そこまで来た。
◇◇◇
璃瑠葉は理解できなかった。
「神を超える?」
何を言っている。
神々は兵器。
人類の味方。
なのに。
◇◇◇
DM。
『神は完成形ではない』
『仮設だ』
『橋だ』
『人類が辿り着くまでの』
心臓が大きく鳴った。
◇◇◇
創造神の言葉は続く。
『第一文明は理解していた』
『神に依存した文明は必ず負ける』
『だから神々を作った』
『自分達を超えるために』
◇◇◇
璃瑠葉は震えていた。
全てが繋がる。
◇◇◇
神々は救世主じゃない。
支配者でもない。
守護者ですらない。
◇◇◇
神々とは。
人類の代用品。
人類が届くまでの中継点。
文明を未来へ運ぶための装置。
◇◇◇
そして。
成功条件。
それは。
神々が勝つことではない。
◇◇◇
人類が。
神々なしで。
敵に勝てる文明になること。
◇◇◇
最後のDM。
『だから私達は恐れている』
『敗北ではない』
『役目を終える日を』
璃瑠葉は息を呑む。
◇◇◇
続く。
『神界が不要になる日を』
オフライン。
沈黙。
◇◇◇
神々は生き残りたいのではない。
消えたくないのでもない。
もっと複雑だ。
◇◇◇
数千年。
人類を見守り続けた存在。
文明を守り続けた存在。
その全てが。
成功した瞬間。
不要になる。
◇◇◇
そして。
創造神が最も恐れているもの。
それは。
二〇二九年七月二十三日に訪れる。
人類の勝利だった。




