第13話 最後の嘘
――『神界が不要になる日を』
創造神の最後のDM。
その一文は。
世界中の考察勢を熱狂させた。
そして。
降谷璃瑠葉を眠れなくした。
◇◇◇
「おかしい」
午前四時。
誰もいない部屋。
モニターの光だけが顔を照らしている。
璃瑠葉は何度も同じ資料を見返していた。
第一文明。
門。
敵。
神界。
信仰ポイント。
文明ループ。
神々計画。
全てのピースは揃っている。
なのに。
一つだけ。
どうしても埋まらない穴があった。
◇◇◇
「敵」
その存在だった。
◇◇◇
敵はいる。
これは確定。
創造神が認めている。
神々も否定しない。
文明は六回滅んだ。
門は存在する。
神界は兵器。
全部繋がる。
◇◇◇
だが。
敵についてだけ。
情報が少なすぎる。
◇◇◇
「変なんだよ」
璃瑠葉は呟く。
神々は隠蔽している。
それは分かる。
しかし。
数千年も隠しているにしては。
敵の痕跡が多すぎる。
◇◇◇
神話にいる。
伝承にいる。
宗教にいる。
民話にいる。
世界中にいる。
◇◇◇
むしろ。
消えていない。
◇◇◇
「なんで?」
そこで。
思考が止まった。
◇◇◇
消していない。
ではない。
消せない。
だったら?
◇◇◇
その瞬間。
背筋に電流が走る。
「まさか」
◇◇◇
翌日。
璃瑠葉は緊急配信を開始した。
【創造神の最後の嘘】
同時接続。
一千万突破。
コメント欄が爆発する。
【来た】
【最終考察】
【神界編】
【神実在派集合】
【今日も眠れない】
【終わるな】
◇◇◇
「皆さん」
璃瑠葉は静かに言った。
「敵って何ですか?」
コメント欄。
【知らん】
【門の向こう】
【宇宙人】
【異次元生命体】
【邪神】
【ラスボス】
◇◇◇
「全部違います」
そう言った瞬間。
コメント欄が止まる。
◇◇◇
「少なくとも」
「創造神は一度もそう言ってない」
過去DMを並べる。
敵
それだけ。
具体名なし。
種族名なし。
文明名なし。
特徴なし。
◇◇◇
「変ですよね」
璃瑠葉は続ける。
「隠したいなら」
「情報を消す」
「でも神界は消してない」
「むしろ残してる」
◇◇◇
コメント欄。
【確かに】
【神話に残ってる】
【消せよ】
【消えてない】
◇◇◇
「つまり」
「知られても困らないんです」
沈黙。
◇◇◇
「正確には」
璃瑠葉は深呼吸した。
「みんな知ってる」
◇◇◇
世界中のコメント欄が停止した。
◇◇◇
「敵は隠されてない」
「最初からいる」
「ずっと語られてる」
「全文明が知ってる」
「全神話が知ってる」
◇◇◇
「だから消せない」
◇◇◇
神界。
創造神がゆっくり目を閉じた。
「辿り着いたか」
知恵の神が苦笑する。
「ええ」
「完全に」
◇◇◇
璃瑠葉は世界地図を表示した。
その上に。
世界中の神話を並べる。
◇◇◇
北欧。
終末の獣。
ギリシャ。
混沌。
メソポタミア。
深淵。
日本。
黄泉。
インド。
滅びの時代。
◇◇◇
一見。
全部違う。
◇◇◇
だが。
共通点がある。
◇◇◇
「全部」
璃瑠葉は言う。
「外から来てない」
◇◇◇
静寂。
◇◇◇
「門の向こうから来る怪物じゃない」
「宇宙人でもない」
「侵略者でもない」
◇◇◇
「全部」
「人類側から生まれてる」
◇◇◇
コメント欄。
【あ】
【え】
【待て】
【まさか】
◇◇◇
「混沌」
「黄泉」
「深淵」
「終末」
「堕落」
「傲慢」
◇◇◇
「全部」
「人類自身の問題なんです」
◇◇◇
鳥肌。
璃瑠葉自身。
言いながら震えていた。
◇◇◇
その時。
DM通知。
Genesis_0
全世界が固まる。
◇◇◇
本文。
『半分正解』
璃瑠葉の心臓が跳ねる。
◇◇◇
続く。
『敵は人類の外にいる』
さらに。
『だが人類の中にもいる』
意味不明だった。
だが。
次の文章で全てが変わる。
◇◇◇
『敵の名前は文明ごとに違う』
『だが本質は同じ』
『だから全ての神話に残った』
◇◇◇
璃瑠葉は息を呑む。
そして。
気付く。
◇◇◇
神話。
宗教。
伝承。
民話。
都市伝説。
◇◇◇
全部。
同じものを見ていた。
◇◇◇
「待って……」
◇◇◇
モニターを開く。
世界中の神話を並べる。
そして。
一つの共通点。
◇◇◇
敵は必ず。
誘惑する
囁く
取引する
願いを叶える
進歩を与える
◇◇◇
コメント欄。
【あ】
【あああ】
【まさか】
◇◇◇
璃瑠葉は立ち上がった。
「違う」
「これ侵略じゃない」
◇◇◇
「勧誘だ」
◇◇◇
世界が静まる。
◇◇◇
「敵は文明を滅ぼしてない」
「文明を取り込んでる」
◇◇◇
神界。
誰も喋れなかった。
◇◇◇
創造神だけが。
静かに目を伏せる。
◇◇◇
DM。
『正解』
短かった。
だが。
それが初めての肯定だった。
◇◇◇
『第一文明も知っていた』
『第二文明も知っていた』
『第三文明も』
『全て知っていた』
◇◇◇
璃瑠葉の呼吸が止まる。
◇◇◇
創造神は続ける。
『だから私は嘘をついた』
◇◇◇
コメント欄停止。
◇◇◇
そして。
数千年間。
創造神が隠していた。
唯一の嘘。
◇◇◇
『敵は未知ではない』
『人類は最初から知っている』
『何度も遭遇している』
『何度も負けている』
◇◇◇
その瞬間。
全ての伏線が繋がる。
◇◇◇
門。
文明。
神々。
信仰。
観測。
保存。
継承。
◇◇◇
敵は未知だから怖いのではない。
◇◇◇
知っているのに。
勝てないから怖い。
◇◇◇
DM。
最後の文章。
『問題は敵の正体ではない』
『なぜ毎回負けるのかだ』
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
そして。
創造神は最後に送った。
『そこが七回目の本当の課題だ』
オフライン。
◇◇◇
璃瑠葉はモニターを見つめていた。
敵は分かった。
だが。
もっと恐ろしい疑問が残る。
◇◇◇
なぜ。
六回負けた?
◇◇◇
第一文明は知っていた。
神々を作った。
未来を残した。
神界を作った。
◇◇◇
それでも。
負けた。
◇◇◇
なら。
本当の問題は。
敵ではない。
◇◇◇
人類そのものだ。




