第14話 六回の敗因
――『問題は敵の正体ではない』
――『なぜ毎回負けるのかだ』
創造神が残した言葉。
それは。
降谷璃瑠葉にとって。
今までで最も恐ろしい情報だった。
◇◇◇
敵はいる。
門もある。
文明も滅んだ。
そこまではいい。
分かりやすい。
◇◇◇
だが。
もし。
六回の敗北の原因が敵ではないなら。
◇◇◇
誰が負けた?
◇◇◇
何に負けた?
◇◇◇
「……嫌な予感しかしない」
午前二時。
璃瑠葉は机に突っ伏した。
考察勢としての経験が告げている。
こういう時の答えは。
だいたい人類が悪い。
◇◇◇
翌日。
ネットはさらに加速していた。
【六文明敗北考察スレ】
【敵より人類が問題説】
【創造神が隠した嘘】
【神界終末考察】
【神実在派集合】
【また人類がやらかしたのか】
【いつもの】
【草】
【笑えない】
◇◇◇
その日の夜。
璃瑠葉は配信を始めた。
【六回の敗因】
同時接続。
一千二百万人。
世界最大規模。
もはや配信というより社会現象だった。
◇◇◇
「皆さん」
璃瑠葉は静かに言った。
「六回負けてます」
「でも」
「敵の情報を見る限り」
「おかしいんです」
◇◇◇
コメント欄。
【何が?】
【敵強いんだろ】
【宇宙人】
【門】
【終末】
◇◇◇
「強いのは確かです」
「でも」
「勝てないほどじゃない」
空気が変わる。
◇◇◇
璃瑠葉は資料を表示した。
第一文明。
神々計画。
第二文明。
門監視網。
第三文明。
惑星規模観測網。
第四文明。
文明統合機構。
第五文明。
信仰同期システム。
第六文明。
神界基盤。
◇◇◇
「全部」
「敵対策なんです」
◇◇◇
コメント欄。
【確かに】
【めちゃくちゃ対策してる】
【有能】
【無能じゃなかった】
◇◇◇
「そう」
璃瑠葉は頷く。
「むしろ優秀なんです」
「優秀すぎる」
◇◇◇
第一文明は神々を作った。
第二文明はそれを改善した。
第三文明は監視能力を向上。
第四文明は統合。
第五文明は共有。
第六文明は継承。
◇◇◇
「普通」
「どこかで勝つ」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
「なのに」
「負けた」
◇◇◇
神界。
創造神が目を閉じる。
「そこだ」
◇◇◇
璃瑠葉は続ける。
「じゃあ」
「何が敗因だったのか」
ホワイトボードに書く。
敵
×
文明
×
技術
×
神界
×
◇◇◇
「全部違う」
◇◇◇
コメント欄。
【じゃあ何】
【人類】
【嫌な予感】
◇◇◇
璃瑠葉は息を吸った。
「共通点がある」
◇◇◇
世界中の資料を並べる。
六文明。
滅亡直前。
その記録。
◇◇◇
第一文明。
内部分裂。
◇◇◇
第二文明。
宗派対立。
◇◇◇
第三文明。
技術独占。
◇◇◇
第四文明。
国家戦争。
◇◇◇
第五文明。
情報統制。
◇◇◇
第六文明。
信仰対立。
◇◇◇
そして。
全部。
門が開く前。
◇◇◇
コメント欄停止。
◇◇◇
「待って」
「待って待って」
「これ」
璃瑠葉自身が震えていた。
◇◇◇
「敵が来る前に壊れてる」
◇◇◇
静寂。
◇◇◇
神界。
誰も喋らない。
知恵の神ですら。
笑っていない。
◇◇◇
コメント欄。
【あ】
【うわ】
【マジか】
【敵関係ない】
【人類さぁ】
◇◇◇
「敵は最後の一押しなんです」
「致命傷じゃない」
「トドメ」
「決定打」
◇◇◇
「その前に」
「文明が壊れてる」
◇◇◇
鳥肌が立つ。
◇◇◇
その時。
海外考察勢から新資料。
第一文明末期。
完全解読。
最後の議事録。
◇◇◇
そこに。
こう書かれていた。
敵は門の外にいる
そして。
次の一文。
しかし滅びは門の内側から始まる
◇◇◇
世界が静まる。
◇◇◇
璃瑠葉は声を失った。
◇◇◇
神界。
創造神が顔を覆う。
数千年。
誰にも見せなかった表情。
◇◇◇
後悔だった。
◇◇◇
「見つけたか」
小さく呟く。
◇◇◇
DM通知。
Genesis_0
◇◇◇
本文。
『それが第一文明の結論だ』
◇◇◇
続く。
『我々は敵に負けたのではない』
◇◇◇
コメント欄停止。
◇◇◇
『自分達に負けた』
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
そして。
創造神は続ける。
『第一文明は敵を知っていた』
『第二文明も』
『第三文明も』
『全員知っていた』
◇◇◇
なら。
なぜ負けた?
◇◇◇
答えは。
簡単だった。
◇◇◇
『敵より先に互いを敵にした』
◇◇◇
璃瑠葉の呼吸が止まる。
◇◇◇
創造神はさらに送る。
『だから神界を作った』
『文明を保存するためではない』
『協力を学ばせるためだ』
◇◇◇
鳥肌。
◇◇◇
信仰ポイント。
登録者数。
配信。
SNS。
神界。
◇◇◇
全部。
現代文明と似ている。
◇◇◇
なぜか。
◇◇◇
理由は簡単だった。
◇◇◇
練習だから。
◇◇◇
神々は。
敵と戦う方法を教えていたのではない。
◇◇◇
人類同士で潰し合わない方法を教えていた。
◇◇◇
コメント欄。
【うわああああ】
【そっちか】
【重い】
【神実在派死亡】
【配信が教育プログラム】
【鳥肌】
◇◇◇
その時。
璃瑠葉は気付く。
◇◇◇
創造神がずっと言わなかったこと。
◇◇◇
いや。
言えなかったこと。
◇◇◇
「だから」
声が震える。
◇◇◇
「敵の正体を隠してたんじゃない」
◇◇◇
「敗因を隠してたんだ」
◇◇◇
神界。
創造神が目を閉じる。
◇◇◇
正解。
◇◇◇
数千年間。
人類は神を求めた。
救世主を求めた。
敵を倒す英雄を求めた。
◇◇◇
だが。
真実は違う。
◇◇◇
六回の敗北。
その原因。
◇◇◇
それは。
門の向こうではなく。
◇◇◇
人類自身だった。
◇◇◇
最後のDM。
『七回目は違う』
『そう願っている』
◇◇◇
短い。
だが。
その一文には。
数万年分の祈りが込められていた。
◇◇◇
創造神。
最後の管理者。
最初の人類。
◇◇◇
彼が守ろうとしていたもの。
◇◇◇
それは文明ではない。
神界でもない。
勝利ですらない。
◇◇◇
人類が。
今度こそ。
同じ失敗をしない未来だった。




