第15話 七回目の条件
――『七回目は違う』
――『そう願っている』
創造神から届いた最後のDM。
その短い一文は。
数万年という時間の重みを持っていた。
◇◇◇
六回。
人類は負けた。
敵にではない。
自分達に。
◇◇◇
第一文明。
第二文明。
第三文明。
第四文明。
第五文明。
第六文明。
◇◇◇
全て。
敵を知っていた。
対策もしていた。
神々まで作った。
◇◇◇
それでも滅んだ。
◇◇◇
だから。
今、世界中の考察勢が抱いている疑問は一つだった。
◇◇◇
「じゃあどうすれば勝てるんだ?」
◇◇◇
SNSはその話題一色だった。
【七回目勝利条件考察スレ Part947】
【敵を倒せば勝ち?】
【いや違うだろ】
【六回負けてる時点でそれじゃない】
【神界作った奴らが無理だったんだぞ】
【神実在派発狂中】
【世界観設定として完成度高すぎる】
そして。
降谷璃瑠葉も同じ疑問へ辿り着いていた。
◇◇◇
「敗因は分かった」
「じゃあ勝利条件は?」
◇◇◇
部屋には静寂。
モニターには数百の資料。
世界中の考察勢から送られてきた神話資料。
発掘記録。
失われた予言。
創造神の過去配信。
そして。
第一文明最後の記録群。
◇◇◇
その中に。
一つだけ。
ずっと気になっていた文章がある。
◇◇◇
第一文明最後の議事録。
終末会議。
文明滅亡の三日前。
◇◇◇
そこに残されていた。
最後の一文。
◇◇◇
未来へ託す
たったそれだけ。
◇◇◇
「変なんだよな……」
璃瑠葉は呟いた。
◇◇◇
未来へ託す。
◇◇◇
普通なら。
技術を託す。
兵器を託す。
知識を託す。
対抗手段を託す。
◇◇◇
そう書く。
◇◇◇
なのに。
第一文明は。
何を託すか書いていない。
◇◇◇
「なんで?」
◇◇◇
その瞬間だった。
◇◇◇
璃瑠葉の視線が止まる。
◇◇◇
第一文明。
第二文明。
第三文明。
◇◇◇
全ての遺跡に。
同じ言葉がある。
◇◇◇
継承
◇◇◇
第四文明にも。
第五文明にも。
第六文明にも。
◇◇◇
存在する。
◇◇◇
継承
◇◇◇
「待って」
◇◇◇
背筋が冷える。
◇◇◇
「なんで全部同じ言葉なんだ」
◇◇◇
文明が違う。
言語も違う。
文化も違う。
◇◇◇
なのに。
全文明が。
同じ概念を残している。
◇◇◇
継承。
◇◇◇
その時。
DM通知。
◇◇◇
Genesis_0
◇◇◇
璃瑠葉の鼓動が跳ねる。
◇◇◇
本文。
◇◇◇
『何を探している?』
◇◇◇
璃瑠葉は即座に打つ。
◇◇◇
『勝利条件』
◇◇◇
数秒。
既読。
◇◇◇
返信。
◇◇◇
『なら答えは既に見ている』
◇◇◇
「は?」
◇◇◇
意味が分からない。
◇◇◇
だが。
創造神は続ける。
◇◇◇
『六回の敗因は何だ』
◇◇◇
璃瑠葉は答える。
◇◇◇
『人類同士の分裂』
◇◇◇
返信。
◇◇◇
『なら七回目の条件は?』
◇◇◇
そこで。
思考が止まる。
◇◇◇
人類同士の分裂。
◇◇◇
その逆。
◇◇◇
つまり。
◇◇◇
「協力……?」
◇◇◇
既読。
◇◇◇
そして。
創造神は初めて。
はっきり肯定した。
◇◇◇
『正解』
◇◇◇
世界が止まった。
◇◇◇
璃瑠葉はその文章を見つめる。
◇◇◇
あまりにも単純。
◇◇◇
あまりにも馬鹿げている。
◇◇◇
だが。
数万年積み上げられた結論。
◇◇◇
それが。
たった一言。
◇◇◇
協力
◇◇◇
創造神のDMは続く。
◇◇◇
『敵は文明を滅ぼせない』
『だから誘惑する』
『だから分断する』
『だから対立を煽る』
◇◇◇
璃瑠葉は凍り付いた。
◇◇◇
SNS。
炎上。
政治。
宗教。
国家。
思想。
◇◇◇
現代社会そのものだった。
◇◇◇
創造神はさらに送る。
◇◇◇
『六回全て同じだった』
『敵は変わらない』
『人類も変わらなかった』
◇◇◇
コメント欄が存在する世界。
配信文化。
承認欲求。
対立。
炎上。
◇◇◇
まるで。
今の人類そのもの。
◇◇◇
璃瑠葉は寒気を覚えた。
◇◇◇
「だから神々は配信してたのか……」
◇◇◇
登録者数。
信仰ポイント。
神界。
◇◇◇
全部。
未来の戦争訓練。
◇◇◇
人類同士が繋がる練習。
◇◇◇
コメント欄で笑うこと。
議論すること。
共有すること。
文化を広げること。
◇◇◇
それ自体が。
勝利条件へ向かう訓練だった。
◇◇◇
その夜。
璃瑠葉は配信を開始した。
◇◇◇
【七回目の勝利条件】
◇◇◇
同時接続。
一千五百万人。
◇◇◇
史上最大。
◇◇◇
「皆さん」
璃瑠葉は静かに言う。
◇◇◇
「答えが出ました」
◇◇◇
コメント欄爆発。
【来た】
【うおおおお】
【勝利条件】
【神実在派集合】
【寝れない】
◇◇◇
「七回目の条件」
◇◇◇
深呼吸。
◇◇◇
「それは」
◇◇◇
「敵を倒すことじゃない」
◇◇◇
静寂。
◇◇◇
「門を閉じることでもない」
◇◇◇
「神になることでもない」
◇◇◇
「神を超えることですらない」
◇◇◇
そして。
璃瑠葉は言った。
◇◇◇
「人類が人類であり続けること」
◇◇◇
コメント欄停止。
◇◇◇
「六回とも」
「敵に勝てなかったんじゃない」
◇◇◇
「人類であることをやめた」
◇◇◇
鳥肌。
◇◇◇
「だから」
「七回目の勝利条件は」
◇◇◇
「分断されないこと」
◇◇◇
「対立しないこと」
◇◇◇
「未来を継承すること」
◇◇◇
「そして」
◇◇◇
「誰かを敵にしないこと」
◇◇◇
コメント欄。
【重い】
【敵倒さないのか】
【なるほど】
【人類試験じゃん】
【神実在派泣いてる】
【創造神ずっとこれ言いたかったのか】
◇◇◇
その時。
DM通知。
◇◇◇
Genesis_0
◇◇◇
最後のメッセージ。
◇◇◇
『条件は揃った』
◇◇◇
璃瑠葉が固まる。
◇◇◇
続く。
◇◇◇
『だから次は試験だ』
◇◇◇
心臓が止まりそうになる。
◇◇◇
『二〇二九年七月二十三日』
『門は開く』
『予定通りに』
◇◇◇
そして。
創造神は。
数万年の歴史で初めて。
希望を含んだ言葉を送った。
◇◇◇
『今度こそ見届けたい』
『人類の勝利を』
オフライン。
◇◇◇
創造神のアカウントが消灯する。
◇◇◇
だが。
璃瑠葉は気付いてしまった。
◇◇◇
条件は分かった。
勝利方法も分かった。
◇◇◇
しかし。
まだ誰も知らない。
◇◇◇
門が開いた時。
◇◇◇
何が出てくるのかを。
【コメント欄】
【待て】
【そこだろ】
【敵見せろ】
【神実在派限界】
【また爆弾投げた】
【二〇二九確定】
【あと三年】
【怖くなってきた】
【フリル追え】
【次回が本番】




