第16話 門が開く日
――『今度こそ見届けたい』
――『人類の勝利を』
創造神からの最後のDM。
その言葉は。
降谷璃瑠葉の中に妙な違和感を残していた。
◇◇◇
勝利条件は分かった。
人類が分断されないこと。
互いを敵にしないこと。
未来を継承すること。
◇◇◇
だが。
それなら。
◇◇◇
なぜ第一文明は負けたのか。
◇◇◇
もっと言えば。
◇◇◇
なぜ最後まで記録を封印したのか。
◇◇◇
「そこなんだよな……」
璃瑠葉はモニターを睨んだ。
◇◇◇
第一文明は優秀だった。
神々を作った。
神界を作った。
文明継承システムを作った。
◇◇◇
未来にメッセージまで残した。
◇◇◇
なのに。
肝心の敵についてだけ。
異常なほど情報が少ない。
◇◇◇
敵の名前。
敵の姿。
敵の目的。
◇◇◇
全部曖昧。
◇◇◇
「おかしい」
◇◇◇
消した?
◇◇◇
違う。
◇◇◇
第一文明は未来へ託した。
なら消す理由がない。
◇◇◇
なのに残していない。
◇◇◇
その時。
海外考察勢から新資料が届いた。
◇◇◇
第一文明最末期。
封印指定文書。
解読率九七%。
◇◇◇
璃瑠葉は即座に開いた。
◇◇◇
そこには。
たった一行。
◇◇◇
見るな
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
「は?」
◇◇◇
思わず声が出た。
◇◇◇
見るな
それだけ。
◇◇◇
意味が分からない。
◇◇◇
だが。
そこに添えられた署名を見て。
璃瑠葉は固まった。
◇◇◇
神界計画責任者
創造神
◇◇◇
「……嘘だろ」
◇◇◇
最初の人類。
神界の創設者。
創造神。
◇◇◇
その人物が。
未来へ向けて残した言葉。
◇◇◇
見るな
◇◇◇
「いや」
「違う」
◇◇◇
璃瑠葉は首を振る。
◇◇◇
何かがおかしい。
◇◇◇
創造神は未来を諦めていない。
七回目に期待している。
◇◇◇
そんな人物が。
理由もなく記録を封印するはずがない。
◇◇◇
なら。
◇◇◇
見てはいけない理由がある。
◇◇◇
その夜。
璃瑠葉は緊急配信を開始した。
◇◇◇
【敵は何故封印されたのか】
◇◇◇
同時接続。
一千八百万人。
◇◇◇
コメント欄が流れる。
◇◇◇
【来た】
【神実在派集合】
【また寝れない】
【創造神案件】
【見るなって何】
【ホラーか?】
◇◇◇
「皆さん」
璃瑠葉は静かに言った。
◇◇◇
「敵の情報が少ない理由」
◇◇◇
「分かりました」
◇◇◇
コメント欄停止。
◇◇◇
「隠したかったんじゃない」
◇◇◇
「見せたくなかったんです」
◇◇◇
ざわつくコメント欄。
◇◇◇
【違いある?】
【同じじゃね】
【どういうこと】
◇◇◇
「違う」
◇◇◇
璃瑠葉は画面を切り替える。
◇◇◇
世界中の神話。
宗教。
伝承。
都市伝説。
◇◇◇
そこに共通するもの。
◇◇◇
終末の獣。
深淵。
混沌。
悪魔。
黄泉。
虚無。
◇◇◇
「全部」
◇◇◇
「姿が違う」
◇◇◇
コメント欄。
【確かに】
【バラバラ】
【共通点ない】
◇◇◇
「でも」
「やることは同じ」
◇◇◇
誘惑。
勧誘。
対立。
分断。
崩壊。
◇◇◇
「ずっと同じ」
◇◇◇
その時だった。
◇◇◇
璃瑠葉の脳裏で。
ある仮説が繋がる。
◇◇◇
敵は姿を変える。
◇◇◇
違う。
◇◇◇
見る側が違う。
◇◇◇
「待って」
◇◇◇
背筋が凍った。
◇◇◇
「そういうことか」
◇◇◇
神話ごとに姿が違う。
文明ごとに名前が違う。
宗教ごとに解釈が違う。
◇◇◇
なのに。
行動原理だけ同じ。
◇◇◇
つまり。
◇◇◇
敵には決まった姿がない。
◇◇◇
コメント欄。
【あ】
【まさか】
【やめろ】
◇◇◇
その瞬間。
DM通知。
◇◇◇
Genesis_0
◇◇◇
本文。
◇◇◇
『そこまでか』
◇◇◇
創造神。
◇◇◇
初めて。
止めなかった。
◇◇◇
否定もしない。
◇◇◇
璃瑠葉は震える指で返信する。
◇◇◇
『敵は何なんですか』
◇◇◇
既読。
◇◇◇
数秒。
◇◇◇
そして。
◇◇◇
『お前達が毎日見ているものだ』
◇◇◇
心臓が止まる。
◇◇◇
「毎日?」
◇◇◇
コメント欄も騒然。
◇◇◇
【は?】
【なんだそれ】
【SNS?】
【ニュース?】
【人類?】
◇◇◇
創造神は続ける。
◇◇◇
『だから隠せない』
『だから消せない』
『だから神話になった』
◇◇◇
璃瑠葉の呼吸が浅くなる。
◇◇◇
毎日見るもの。
◇◇◇
全員が知っているもの。
◇◇◇
敵。
◇◇◇
そして。
六文明を滅ぼしたもの。
◇◇◇
その瞬間。
◇◇◇
思い出す。
◇◇◇
六回の敗因。
◇◇◇
人類は敵に負けたのではない
自分達に負けた
◇◇◇
創造神の言葉。
◇◇◇
そして。
最後の嘘。
◇◇◇
敵は未知ではない。
◇◇◇
人類は最初から知っている。
◇◇◇
全部繋がった。
◇◇◇
「敵は……」
◇◇◇
世界中が息を呑む。
◇◇◇
「敵は文明の外じゃない」
◇◇◇
「門の向こうでもない」
◇◇◇
「最初から人類の中にいる」
◇◇◇
コメント欄爆発。
◇◇◇
【うわああああ】
【やめろ】
【知ってた】
【知りたくなかった】
【神実在派号泣】
◇◇◇
DM。
◇◇◇
『正解』
◇◇◇
創造神は認めた。
◇◇◇
『敵は姿を持たない』
『敵は名前を持たない』
『だから文明ごとに呼び名が違う』
◇◇◇
続く。
◇◇◇
『敵は人類の中でしか生きられない』
◇◇◇
鳥肌。
◇◇◇
敵は侵略者じゃない。
怪物じゃない。
宇宙人じゃない。
◇◇◇
もっと古い。
もっと身近。
◇◇◇
そして。
創造神が数万年間。
直視したくなかった理由。
◇◇◇
それは。
◇◇◇
敵が外にいるなら。
倒せるからだ。
◇◇◇
敵が内にいるなら。
◇◇◇
永遠に終わらない。
◇◇◇
最後のDM。
◇◇◇
『門が開く日』
『人類は敵を見る』
『初めてではない』
『七回目だ』
◇◇◇
璃瑠葉は凍り付いた。
◇◇◇
七回目。
◇◇◇
つまり。
◇◇◇
人類は六回。
既に見ている。
◇◇◇
見た上で。
負けている。
◇◇◇
だから。
第一文明は記録を封印した。
◇◇◇
敵の姿を見ても意味がない。
◇◇◇
問題は。
敵が誰かではなく。
◇◇◇
人類が何を選ぶかだから。




